そして、新潟の夜も更けて。

2011年1月10日 § コメントする

「何か飲み物があればありがたいんですけどねえ」

厚かましくもそんなお願いをするクイ中3号。5チームが通されたのは、公民館2階の座敷。それぞれのチームが座り込むが、その間には微妙な隙間がある。ここは他のチームと親睦を深めるべきだろうか?いやしかし、みんな疲れてるだろうし、無神経なやつらだと思われるのも嫌だし・・・。そんな思いもあり、クイ中達は今一歩他チームとの会話に踏み出すことが出来ない。

「あれって、さっき使ってたやつの残りかね?」

 

「ん?そうっちゃう?」

見ると、おむすびが山となって、3枚の大皿に。ただし、どれがどれだかわからない。

 

「食べ比べればわかるかねえ?」

 

「無理。あんなもん、1回しか当たらんて」

 

そこに、矢野さんがペットボトル2本とコップを持ってきた。

「とりあえず、飲もか」

 

「あ、俺[なっちゃん]のリンゴがいい」

「はいはい。・・・コップ足らんね」

 

部屋にいるのは15人、コップの数はたぶん10に満たない。

「あ、僕らいらない」

と、言うチームもいたが、やっぱり足らない。

「うちら3人で1つ使うから、そっちで3つ使って」

と、クイ中達は山梨英和にコップを譲った。

「そう言やさ、これって当たってるのかな?」

 

「え?古賀ちゃん、それ当たり?」

古賀のつぶやきに反応した2人、その2人の声に反応した左隣の神奈川工業。

「・・・いや、『当たってるのかな?』って言っただけで、当たってるとは・・・」

「古賀ちゃーん、紛らわしいこと言わんといてー!」

「俺かー?やっぱり俺が悪いのか?」

 

「今のは古賀ちゃんが悪いやろー」

 

いつもの流れである。

「結構くさいよね」

とは、清水が聞き逃さなかった、東大寺学園のつぶやきである。彼らは、この旅の間ずっと同じ服のため、かなりきているらしい。だが、この部屋の中で着たきりでないのは、神奈川工業くらいであろう。

山梨英和も憶えている限りずっとあの[WeLove朗]のピンクシャツであったし、加治木高校もあのサウナスーツは暑くないのだろうか、少し心配である。

無論、川越クイ中もずっと同じ服装-アロハシャツもジーパンもパンツも-である。

 

山梨英和の1人が、背中の障子の向こうが気になったらしく、それを開けた。

 

「あ!なにかいる!」

ん?ゴキブリか?クイ中達がそう思っていると、

「あ、蝉だ」

とのこと。一昨日の、押金の予測どおり、彼女達はいいキャラクターを持っている。その押金も背中の襖の奥の部屋が気になったらしく、開けてみる。

「お?なんや、こっちの方が涼しいやん!」

「あ、ほんまやねえ」

 

「ん?なんかあるで」

 

見ると、床の間には武者人形が飾られていた。

 

「これは鑑定するといくらになるんでしょうかねえ?」

 

「50万くらいっちゃう?」

「マジっすか?」

 

あまり騒ぐのもよくないと思い、これくらいにしてもとの場所に戻る。

 

「ところでさ、なんでこんなところにトマトケチャップが置いてあるの?」

 

「なんでやろ?酒のつまみっちゃう?」

「えらいつまみやねえ。・・・ちょっとトイレ行ってくるわ」

「またトイレか、古賀ちゃん」

「これで今日は40回目やな?」

「記録更新おめでとう!」

「誰がそんなに行くかい!」

 

と、古賀は座敷を出た。恐らくこれはただの移動待ちではなくて、昨日と同じ、一種の[監禁]だろう。

と、古賀は思った。階下の会場を見る窓は全て曇りガラスか障子で-意図的であるにせよないにせよ-塞いである。たぶん、敗者復活クイズだろう。

「それ、もらっていいのかな?」

アルバイトスタッフの矢野さんが、高校生達に尋ねた。

 

「いいんじゃないすか?でもどれがどれだかわからんですよ」

 

「うまいこと当ててよ」

 

「もう2回目は無理だと思いますよ。・・・なんとなくこれかな?」

「ありがと。・・・」

「どうですか?」

「・・・あんまりおいしくない」

「あ、すいません。それならたぶんハズレのやつですわ」

「ところでさ、お世話になったうちからここに来るときに渡されたライトって返してくれた?」

 

矢野さん曰く、まだ見つからないらしい。現在何時か、時計を見るのも面倒くさいが、結構経っているのは確かであった。

「この扇風機、使えないのかなあ?」

と、神奈川工業の1人が部屋の真ん中に持ってきて、スイッチを入れた。

「あれ?これ動かない・・・」

「どうしたんすか?」

「スイッチが入らないの」

 

「ちょっといいですか?」

 

と、スイッチをひねるクイ中。だが、ひねれども回せども羽は回らずである。

 

「それじゃ高校生、出発しますよー」

と呼ばれたので、扇風機はそのままであった

 

「お!電波が立った!」

「え、ほんま?あ、留守電入っとる」

 

先の遠藤さんの言葉通り、原地区に泊まらない高校生達はその夜の宿舎に向かっていた。

「近くにコンビニあるかなあ?」

「なんで?」

「パンツと靴下買おうかなあって思って。特に靴下」

 

「ああ、2人は綱引きのときに脱がなかったもんね」

「ちょっと聞いてみよ。・・・すいません」

「何?」

「泊まるところの近くにコンビニってありますか?」

「うーん、たぶんないなあ。ありましたっけ?」

「ないね」

 

天満さんにも土居さんにもそう言われてはどうしようもない。勝ち抜け、脱落合わせて全10チームを乗せたバス-行きと同じようなバス-は、広い道からだんだんと細い道に入っていった。

なるほど、コンビニはなさそうである。そして、左手に見えてきたのは小出という駅であった。昨日に引き続いてか?嫌な予感はしたが、今夜は車中泊ということではなさそうである。駅前の[川善旅館]という旅館に到着した。時刻は11時を回っていた。

「なんかまともに風呂に入るのも久しぶりやなあ」

と、服を脱ぐクイ中3人。押金と清水は、ついでに靴下も洗うつもりらしい。

「うわ、ポケットにめっちゃ砂入っとる!」

「砂浜で結構倒れこんだでねえ」

「よっしゃ、一番乗りや」

と、扉を開ける。

 

「でも狭いねえ」

 

「こんなもんでしょ」

 

途中、矢野さんや、他のチームの面々も入ってくる。

「なんか、スタッフの人と風呂に入るのって面白いですねえ」

そういえば、今までまともに他チームやスタッフの人々と風呂に入ったことはなかった。押金と清水は出ても、相変わらず古賀は遅風呂である。久しぶりに、まともに湯船に浸かる古賀。左足の傷に、熱い湯がしみた。

「すいませ-ん、トイレってどこですかあ?」

風呂から出て、洗面所で靴下を絞っていた清水は、ふとトイレに行きたくなって、近くにいた加治木高校のメンバーに尋ねた。

「すぐそこですよ」

その言葉に後ろを向いて突き当たりまで行こうとした清水に、彼は再び言葉をかけた。

「・・・すぐそこですよ」

「え?」

「いや、後ろ・・・」

 

清水はその言葉に従って辺りを見回した。確かに、すぐ横にそれらしき扉がある。

「・・・あ、どうも」

 

「ちょっと、飲み物買いに行っていいですか?」

「あ、いいよ。あんまり遠くに行かないでね」

玄関の土居さんと天満さんに一声かけて、クイ中たちは旅館の外に出た。靴下は諦めたが、飲み物ぐらいは買っておきたい。

「遠いも近いもすぐそこなんやけどね」

「それな」

新潟の夜は、8月といえどもだいぶ涼しかった。それぞれ目的を果たし、3人は自室に戻った。

「明日何時起き?」

「6時半には出発らしいよ」

「んじゃ6時前、5時45分くらいか」

「ん?理事長からメール来てるわ。[どーよ?]だって。どーよ?」

「そやなあ、[爆勝コシヒカリ!]とでも入れといて。爆発の爆に勝利の勝やで」

「あ、笑うじゃないのね。了解」

と、古賀は押金の言葉に従って[爆勝コシヒカリ!新潟最高!明日早いのでもう休みます。]と打ち込んだ。

「理事長、なんのこっちゃ?って感じやろね」

「それでわかったら凄いよ」

「まあ、残ってるってのはわかるでしょ。あ、プロ野球ニュースやってる?巨人どうなった?お!勝っとるやん!」

「なんや、負けりゃええのに。それにしてもTVもなんか久しぶりやわ」

「ズームインも見れやんもんね」

「明日もたぶん見れやんね」

「そやなあ。てか、靴下乾くかなあ?」

「どうでしょ?エアコンつけてりゃ乾燥するで乾くんちゃう?」

「だとええんやけどなあ。乾かんかったら乾かんかったやな」

清水は立ち上がって、再びアロハシャツの横に干してある靴下の状態を確かめた。3人とも、さすがにアロハで寝る気にはなれず、もう一着持ってきていたスペアのTシャツに久々に袖を通していた。但し、変わっているのはシャツのみで、ズボンもパンツもスペアはなしである。

「これってさ、目的地は東京じゃない?」

久しぶりに路線図をチェックしたクイ中達は、このままの針路を維持すれば、FIRE号は東京に向かうと判断した。

「佐渡ヶ島はなしかあ」

「ちょっと興味があったんだけどなあ」

「わからんよ。またスイッチバックするかも」

高校生クイズが養うものの第一には、疑う心がある。

「それじゃあ寝ますか」

「ん、おやすみ」

「おやすみー」

川越クイ中、その日の起床は午前5時55分-もしくは45分-、就寝は日付も変わっての午前0時30分であった。

川越高校、朝は早く夜も遅いという、長い長い2日目をようやく通過。無事に、という形容動詞をつけるには、あまりにもハードで、あまりにも大きな別れがあった1日である。ただ、それを越えるくらいの優しさにも助けられた。苦しい戦い、戦友との絆、旅先の恩、つくづく濃い1日が終わった。そして新潟の夜も更けて、3人が今するべきことは、やはり眠ることである。

 

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