信じて待つ者、待たせる者。

2011年1月10日 § コメントする

「ええ、会場にお越しのみなさん、もしクイズの正解がわかったとしても決してそれを叫んだりしないで下さい。
TVではふざけてやっているようにも見えますが、我々は本気でやっております」
マイクテストを終えた福澤アナの声が会場に響く。
そして、カメラが一斉にまわりだす。

「すっぽりと夜の帳がおりました。
東京から約6時間。ここ日野春駅で行われるのは[3人バラバラ別れて出会い!発車まであとちょっとよクイズ]です」

会場にざわめきが走る。
バラバラだって!?

「それではルールを説明いたします。早押しクイズで解答をし、正解したらその人は、
特にチームを最初に抜ける人には自分達の荷物を持って、あちらのゲートから退場して頂きます。
トリプルチャンスまであり、お手つき、誤答は2回休みです。
3人が抜ければ、そのチームは勝ち抜け、勝ち抜けチームは30です。
しかしみなさん、あのスクリーンをご覧下さい」

川越の3人も背後にあるスクリーンを見上げた。
19:47。古賀は自らの左腕に目をやった。現在の時間である。・・・タイムリミットか・・・。

「現在19時47分です。列車の時間もあり、21時0分、午後9時にはどんな事情があろうと強制終了させて頂きます」

再びざわめく会場。
清水は2人を見た。ここは作戦が重要だ。

「古賀ちゃんは最後まで残って」
「え?」
「一番答えられる確率が高いのは古賀ちゃんだから。頼むよ」
「よっしゃ。わかった」
「それなら俺は1抜けすりゃいいんやな?」
「そやね。古賀ちゃん、僕らがわかってもおっしーに教えるんやで」
「OK」

作戦は立った。

「よし、行くで?」
「よし」
「おっしゃ」

クイ中達は赤いボタンに手を重ねた。

「みなさん、時間はあるんだからもっとゆっくりいきましょうよ」

との福澤アナの言葉に、会場は大ブーイング。

「わかりました。それでは参りましょう」

「問題、君達を乗せてここ日野春駅までやってきたこの列車。特急何号?」

パン
「船橋高校!」

・・・速い。
ええと、あの列車なんていったっけ?
パノラマエクスプレス・・・「FIRE号!」
ティロリロリロン!

「正解、1人勝ち抜けです」・・・!?
アルプス号と違うのか?

・・・高校生クイズらしい問題といえばそうだが。
古賀は半ば強引に納得した。

「問題、発車オーライのオーライ。英語で書くと・・・」

オールライト、そう思った瞬間に3人の力はボタンに向けられた。
パン!

「佐賀西高校!」
「オールライト!」

くそっ、押し負けたか!・・・ブーッ!

「発車オーライのオーライ。英語で書くと、Lは何回?ダブルチャーンス!」

パンッ!

「開成高校森永チーム!」

やはり押し負けたか。

「3回!」

ブーッ!ガガガッという音がステージに響く。

「トリプルチャンス!」

パンッ!
「川越高校!」
古賀は、どうやら自分の台のサインがついているようだ、と気付いた。
何か札のようなものが上がってくれれば解答者にもわかりやすいのだが。
・・・答えるのはおっしーか?いや、かっちゃんがいくようだ。
押金と古賀が清水を見た。
清水は眼で返事をし、マイクへと顔を近づけた。
Lが3回なら、オールライトは[全て光]になる。
オールライ

トのLは・・・

「2回!」
ティロリロリロン!
「正解!1人勝ち抜けです」
清水は2人と手を叩き、ステージ下にある荷物を持って会場を出た。

・・・[all right]、[全て正しい]。
少しは英語科らしい答えが言えたかな?

「問題、列車は乗車、船は乗船、では飛行機は?」

ガガガッ!
パンッ!ブーッ!
くそっ、わからん!
「ダブルチャンス!」
ガガガッ!
パンッ!
「松川高校!」

長野代表松川高校、いけてる生徒会チーム。
押金にとっては中部大会決勝前のバスの中以来の付き合いである。

「搭乗!」

「正解、1人勝ち抜けです。ちょっと、知恵袋が抜けたようです。ここらへんも勝負のあやとなります」

 

日野春駅舎。ここにいるのは、いまのところ2人だけである。

「みんな抜けてこれるか心配やね」
「そうだね」

清水と、船橋高校の男子が1人。
本当に誰か来るのだろうか?と、どこかで見たような男子高校生が1人やってきた。

「おお!?松川やん!」

やはり、同じ予選をくぐり抜けた人間と一緒にいられるのは心強い。
それにしても、何もできずに待つだけ、というのには辛いものがある。

「問題、日本語に訳すと直線軌道、ここ山梨に実験線のある夢の超特急は?」

パンッ!

「・・・くそっ、押された!絶対に今のは押してたぞ!」
「何かおかしいよなあ?このボタン、調子悪いんとちゃうの?」

 

・・・「リニアモーターカー!」

 

 

ティロリロリロン!

 

「正解、1人勝ち抜け」

 

 

また1人が荷物を持っていこうとしている。
しかし、見つからない。

「こうしている間にも、時計は進んでいます」

福澤アナの声で、会場の全員がそのことを思い出した。
呪いのこもった声なき声が、ステージ下のただ1人に突き刺さる。
ようやく荷物を見つけ、[高校生クイズ]の文字プレートをまたいで退場しようとする。
ガタ。荷物がプレートにぶつかった。スタッフが確認に走る。

「大丈夫ですか?はい、そうですか。セットが壊れると、修理するまで時間がかかってしまうので気をつけて下さいね」

・・・いいから、早く問題を出してくれ。会場のイライラは募る。

「問題、次に挙げる元素記号を順番に並べるとできる言葉は?窒素、ヨウ素、リン、リン、酸・・・」

パンッ!

「膳所高校!」
「NIPPON!」
ティロリロリロン!
「正解、2人勝ち抜けです」

・・・ついに2人抜けのチームが出てきたか。1番じゃなくてもいい。何番でも、勝ち抜けれればいい。
かっちゃんがいつも言ってることだ。でも、やっぱりいろいろ考えてしまう。

「ようしっ!」
「ようしっ!」

気合の入っている滋賀代表、膳所高校。
ついに2人抜けのチームが現れたか。
思ったより早かったな。膳所の2人を見て、少し弱気になる清水。
だが、信じなければならない。きっと、いや、必ず来る。来てもらわなきゃ、困る。

「問題、サザンオールスターズのTSUNAMI、一筆書きできないのはTと何?」

パンッ!・・・押し負けた。
Aだ。

「沖縄尚学!」
「A!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです。電車のない沖縄からはるばるやってきました。こんなに長いこと電車に乗るなんて始めてのことじゃないですかねえ?」

そしてゲートから、また1人が退場した。

『1番線を列車が通過いたします。ご注意ください』

隣でクイズをやっていようが、通常通りの運行なのだろう、列車は日野春駅を通過していく。

「列車が来るようですね。それまで少し休憩いたしましょう」

そして、それは往々にしてクイズの運行を順調にさせてくれない。やはり会場からはブーイングがあがる。

「問題、ミツバチが巣穴をふさぐために作る、今注目の・・・」

パンッ!

「熊本学園!」
「・・・プロポリス・・・」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです」
「あちゃ、プロポリスだったか!」

嘆く古賀。押金も、少し不安になってきた。チームメイトを待たせているというのに・・・。

「急げ!」

見ると、熊本の勝ち抜け者が無表情で、しかもすこぶるゆっくりと歩いている。何十対もの眼光が彼を突き刺す。
それでも歩みは変わらない。仲間の声がしても、急ぐ気配は見えない。

「憮然とした表情で、風呂敷包みを下げて出て行きました・・・」

TV的にはおいしいかも知れないが、今の俺達はそれどころではない。彼は駅舎に向かう間も、駅舎に着いてからも、ずっと無表情であった。

「問題、フィリピンから世界中に広がった、Eメール・・・」

パンッ!「柏原高校!」
・・・今のもいけた。決心をつけるのが遅いんだよな。
そんなことを考えながら、古賀は時計をのぞいた。

「アイラブユー!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜け」
「焦らんでいいよ、古賀ちゃん」

押金は古賀を落ち着かせた。

「いやあ、健気ですねえ。彼女の高感度、上がりますねえ」

見ると、柏原の女の子が荷物を持って懸命に歩き、文字プレートのところに差し掛かり・・・。
ガンッ!スタッフが走る。プレートが少し歪んでおり、修理が必要らしい。それでも時計は動く。このクイズ、精神衛生上あまりいいものではない。

「問題、人気の絵本、[すしあざらし]。パパはトロ、ではママは?」

パンッ!
「神奈川工業!」

・・・んなもんわかるかっ!ボタンに手を置いたまま、2人は心の中で毒づいた。

「いくらママ!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです。ノースリーブのお姉さんです」

荷物を持って、彼女も会場を後にした。早く行け、という無言の圧力を背に受けて。
福澤アナ曰く「正解したのに、何でこんな眼でにらまれなきゃいけないの、といった表情でしたねえ」

「問題、本年度アカデミー賞・・・」

パンッ!
「速っ!」

速いなんてものではなかった。あんなところで問題の先を読みきれたというのか?

「・・・わかりません」

ブーッ!

「本年度アカデミー賞、[ミュージックオブハート]で主演女優賞にノミネートされた女優は誰?ダブルチャンス!」

パンッ!
押金は青い光が自分達の台の前部に点っていることに気付いた。
「川越高校!」
彼は古賀の眼を見た。
・・・今のはいけた。
確実に1番だった。
早押しというものを実感。古賀は押金の目を見、そして耳打ちした。おっしーならこの女優の名前を絶対に知っている。
古賀は押金の映画知識に賭けた。

「・・・メリル・ストリープ・・・」

時間はない。伝言できるのは1回だけ。
押金はマイクに口を近づけた。聞こえててくれ・・・。

「メリウ・ストリープ!」

押金には申し訳ないところだが、古賀にはそう聞こえた。
伝言がまずかったか?判定よ、少しは大目に見てくれ・・・。
ティロリロリロン!

「ッシャー!」

押金が手を差し出すと、古賀はそれを握った。

「待ってろ!」

との声が、押金の背中に届いた。古賀ちゃんならやってくれるだろう。
かっちゃんも寂しがってるだろうし早く行ってやらないと。

「次に来るのが古賀ちゃんやったらどうしようなあ。おっしーが最後でもいけると思うけど・・・」

清水がそう心のなかで呟いている、ちょうどそのときだった。
眼に黄色いアロハシャツが飛び込んできた。赤い団扇も持っている。
見間違いは、絶対にない。

「おっしー!」
「かっちゃん!」

時計で言えば数十分、しかし清水には長い時間であった。

「古賀ちゃんに答え教えてもらったんや!」
「そうか!」

若干の狂いはあった。しかし、作戦はきちんと機能している。あとは古賀ちゃんを信じるだけだ。彼ならきっとやってくれる。まだ待つかも知れないが、おっしーがいる。1人よりはずっと楽だ。
[永遠に美しく]。
たいして面白い映画じゃなかったけど、見ててよかったなあ。
古賀は、1週間少し前にTVで見た映画を思い出していた。
主演はメリル・ストリープ。放送後のお知らせで、[ミュージックオブハート]の宣伝がやっていた。
それにしても、最近映画を見に行かなくなった。見たい映画は結構あるのだが。
そんなことを考えつつ、古賀は赤いボタンに自らの両手を重ねた。
そして、映画の次に彼が思い出したのは、授業でやった心肺蘇生法だった。手首の付け根で、垂直に、体重をかけて・・・。

「問題、3をかけると111、6をかけると222、9をかけると333。この数字は?」

・・・2人ともゴメン、これは俺の担当じゃないわ。
どっちかって言えば、いや、これは絶対かっちゃん担当の問題やもん。
古賀は、3をかけると111、と読まれた時点でこの問題を捨てていた。

パンッ!

「富山東高校!」
「37!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜け」
勝ち抜けはしばらく先になりそうだ。

 

「今何時や?」

と、左手に目をやる押金。

「まだ時間はあるから。古賀ちゃんならきっと来る」

清水はそう言い、駅舎を見渡した。船橋、松川、膳所、東大寺、その他諸々のチームの人達が仲間を待っている・・・。今、僕らには信じることしかできない。

「問題、名前が変わる中央省庁、通商産業省は経済産業省。では、大蔵省は?」

[名前が変わる中央省庁]と聞いて、真っ先に思い浮かんだのはあそこだった。
そして、通商産業省がどう変わるのかは知らなかったので、古賀はそこまでの問題文をを聞き流した。
耳に[大蔵省]と入ってきたとき、もう待つ必要はなかった。

パンッ!
「川越高校!」
「財務省!」

・・・ティロリロリロン!

「ファイヤー!!」
「ヨッシャー!!」

古賀の叫びと福澤アナの叫びが重なった。
そして、古賀はクイズの進行を妨げぬように、そそくさと会場を飛び出した。
赤い団扇を握り、カメラに向かってガッツポーズをとりながら駅舎へ向かってダッシュする。
彼の目に、駅舎の前に立つ赤と黄色のシャツが映った。

「・・・ファイヤー!」

おぼろげながら聞こえた福澤アナの声。
ただの勝ち抜けではない。どこかのチームの3人目がやってくるのだ。

「・・・ヨッシャー!」

・・・あんな叫び方をする人間は、そうは見つからない。
「来たか!?」と、押金と清水は駅舎の外に出た。ステージの方向を見る。青いシャツ、
赤い団扇、あの叫び。

「オオーッ!!」
「ヨッシャーッ!」
「ウオーッ!」

1号と3号が抱き合い、続いて2号もその輪に加わった

。叫び止まないクイ中達。輪を解き、ひとまず駅舎へ。堪えきれず、もう一度ガッツポーズを決めたクイ中3号、古賀。3人は改めて握手をし、1抜けを喜び合う。

「来るとは信じてたけど、早かったねえ」

「ありがとう。はー、やれやれ」

「最後はなんやったん?」

「通商産業省は経済産業省になりますが、では大蔵省は何になる?てな問題。とりあえず、ここで落ち着こう」

興奮冷めやらぬ古賀。

「喉渇いたわ。自販機あるんかな?」

「この近くにはなさそう」

「はぁ、そうか。そう言やさ、何かをかけると111、この数字は何?とかって問題が出てね。あれ、いくつかけるんだったかな?1だったかな?かっちゃんわかる?」

「1をかけると111?それは違うんじゃない?」

「・・・違うか。まあいいや」

「なんか俺、メッチャかっこ悪いなあ。自分で答えてないってのバレバレやん」

「てかおっしー、あのとき少し噛んだやろ?」

「ええっ?俺きちんと言ったで、『メリル・ストリープ!』って」

「そうかあ?それよりもメリル・ストリープって知ってたよねえ?」

「知っとったで。俺も考えてたら、古賀ちゃんに言われて、そうや!って思い出したんよ」

「ちょっと前の金曜ロードショーでやってた[永遠に美しく]って見た?それにメリル・ストリープ出とったんよ。その後で[ミュージックオブハート]の宣伝もやってた」

「ああ!あれか!俺そんとき少ししか見てなかった!」

待合室の隅でよもやま話に興じる3人。後続が来る気配は、ない。

「それじゃあ、あっちの旅館に移動して食事してもらうから、ついて来て」

「あ、やっと食えるんや」

「行こう行こう」

と、スタッフに連れられて、あの[長坂]町長お勧めの旅館に向かう。拍手で3人を送るスタッフの中には、昨晩高砂の部屋にやったきた天満さんもいた。彼女にも会釈をし、ようやくの食事に向かう。
待たせた者は信頼に応え、待った者の思いは報われた。川越クイ中、第1日目の関門を突破。1抜けが大きくはカットされることはきっとない。少しは目立つことができた。

これでひとまずは、運とマグレで来たとは言われないだろう。

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