傾く夕日、村に響く祭囃子。

2011年1月10日 § コメントする

次第に大きな道を外れ、坂道を上るバスの両脇には林が生い茂るようになっていた。

全く予想がつかなくなり、考えるのも面倒になっていた。押金の口数も少なくなっていたが、それでもバスは坂を上り続けた。スキー場に向かうには道が細すぎるように感じられた。

かと言って、この先に一体何があるというのだろう?・・・キャンプじゃないのか?数十チームもいれば無理だったろうが、今なら9チーム、キャンプ場ぐらい確保できそうだ。

しかし、それとクイズをどう結びつけるのだろうか?古賀の頭で憶測が堂々巡りをしていると、バスが林間の道を抜けた。

「ここらへんで停めてください」

とのスタッフの言葉に運転手さんは応え、バスは停車した。左手前方には、提灯や花で飾られた-世間一般ではお盆の期間中である-お墓があり、すぐ右手には青い葉の茂る畑が、同じく右手の前方には、収穫が終わったのだろうか、黒い土以外には何もない農地が広がっていた。

それが清水と古賀の興味を惹いた。

「バラマキって言うかさ、あの中に問題が埋まっててさ、あっちで掘ってみたりこっちで掘ってみたり・・・」

「それ、ありそうやね・・・」

と、こちらに向かって先行していたスタッフがやって来た。扉が開き、こちら付きのスタッフと何事か話している。耳を傾けてみると、準備がまだ整っていないとのこと。

その話し方は、まさに高校生達が早く着きすぎたと言わんばかりのもので、その必要がないにも関わらずクイ中達に少しの罪悪感を抱かせる。

心の中で謝りかけ、なんで俺が謝らなあかんねん?と密かに自分で突っ込んでいた古賀の耳に、左前方に座った柏原高校チームの会話が入ってきた。

その内容は、クイ中達にとってもの凄く痛いものだった。帰ったら、模試・・・。そう、彼らの日付と時間の感覚はズレにズレていたが、この日は8月15日-その日の朝のNHKを見ていたら、終戦記念日の式典が放送されていたはずである-、20日に行われる予定の第2回全統模試までもう一週間もなかったのだ。

「模試だってさ、かっちゃん」

「いいよ、もう捨ててるから」

「ですよね。・・・ところで、おっしー大丈夫?」

「おう、大丈夫やで」

遠藤さんが再びやってきた。

「はい、それじゃあ荷物を持ってバスを降りてねえ」

それにしても何をするというのか?セッティングが間に合ってなかったということは、次はそんなに大掛かりな企画なのだろうか?

「それじゃあ羽鳥さん、こっちの方をバックにしてください」

羽鳥アナが現れ、カメラもやってきた。ついに何かが始まるのだ。

「はい、それじゃあカメラまわしまーす。5,4、3・・・」

残り2カウントは指折りで数えられ、どうぞ、と言わんばかりに手で示された。

「はい、みなさんお疲れ様です。こんな所まで来ちゃいましたが、ここがどこだかわかりますか?ん?なにか聞こえてきましたねえ。あちらをご覧下さい!」

その声の示す方向を見てみると、見えたのは練り歩く神輿だった。祭・・・地元ネタか・・・。

「ここではですね、地元のみなさんとのコミュニケーションが非常に大切なものとなります。いいですか?ひいちゃダメですよ。きちんと挨拶をして、どんどんと交流を深めていって下さい。それでは参りましょう」

と一行は羽鳥アナに連れられて、太鼓とお囃子の聞こえる方向へと歩き出した。坂道を下ると公民館らしき建物があり、その前の広場に紅白の幕を張った櫓が組まれていた。この祭と高校生クイズはたまたま日程が重なったのだろうか?それとも番組がセッティングしたのだろうか?前者だとすれば、NTVは日程的にも旅程的にも本当にうまいこと探し出したものだ。もし後者なら、エライ事をやってのけたものである。

 

「こんにちはー!」

積極的な交流を、というわけで、元気よく挨拶をする。しかし、いきなりコミュニケーションと言われても、一体何をすればいいのだろう?

他のチームが老人の方に話し掛けていたのを見て、うかうかしていられないと思った3人は神輿に付いて歩く子供達にアタック。竹をカチャカチャと鳴らす楽器の名前を尋ねてみたり、何歳か聞いてみたりと、口下手(?)なりに頑張ってみる。それにしても、とクイ中達は思った。

これから何が行われるというのだろうか?

地元の方々との交流が大切、ということは、彼らの中から誰かとチームを組み、何かしらの関門をクリアしろということなのだろうか?

だとしたら、ほとんど運の支配する世界である。特に、3人の中で一番ついてない-と自称している-古賀にとって、その予想は胃が重くなるのに十分なものだった。

 
ドドンッ!子供の方を向いていたためにちょうど背中の方向にあった櫓の上の太鼓が大きな音を響かせた。はっとして、場のほとんど全員がそちらを振り向く。

櫓を囲っていた紅白幕が落ちて現れたのは、クイ中達には全く見覚えのない方々の年季の入った写真。現在、もしくは数年前の、と言ったレベルの古さではなかった。

 

・・・『私は誰でしょう?』的なクイズか!?

 

高校生達は、羽鳥アナの説明を待った。

 

「ではみなさん。これはですね、みなさんが今晩お世話になるおうちのご主人さんの、ちょっと昔の写真です」

 

・・・なるほど、『ちょっと』昔ね。

後は、その写真の本人らしき人が数人入場してきて、クイズでそれを当てられたチームだけが本日最後-という保証もないが-の勝ち抜けって訳か・・・。古賀には、この手のクイズに対しての直感的な苦手意識があった。

 

「今日はハードスケジュールでみなさんも疲れたでしょう。明日もきつい日程になります。今晩は畳の上でぐっすり眠ってもらって、明日に備えて欲しいと思います。ではみなさんにはこの中から1枚の写真を選んでもらい、この原地区の家々の中からそのご主人さんのお宅を探して頂きます」

 

・・・ということは、と古賀は思った。全チームがそれぞれどこかしらのお宅には上がらせてもらえるってことか。家なんて、たくさんあっても探し回ればどこかにはある。これなら、なんとかなりそうだ。

 

「それでは、最初の一枚は奈良、東大寺学園に選んで頂きます」

 

羽鳥アナの声に、東大寺学園チームが櫓の方へと足を踏み出した。

 

「・・・やっぱり、あの真ん中の大きなヤツなんかベタにわかりやすいよね」

「そりゃカラーやもん。あの一番左側のヤツなんて、明治の色の写真やもんね」

 

櫓に飾られた写真は、大きく2つのグループに分けられる-割と鮮明でわかりやすそうな写真、そして、明治の色濃いセピア色だったり集合写真の1人に矢印がついていたりするわかりにくそうな写真である。奈良の東大寺、鹿児島の加治木、大阪の市立中央、綱引きの勝ち抜け順に写真を選ぶようになっている。つまり、クイ中達にとっては多少なりとも不利になる公算が大きかった。

 

「・・・ん?あれなんかよさそうっちゃう?」

「あ、そやねえ。あ、そっち行く?あ、選ぶ?あ、それ取っちゃうんだ」

 

8番目、そりゃあ9番目でないことは感謝すべきだが、この待ち時間はもどかしいものである。

 

「こっちの方にもありますよ」羽鳥アナの言葉に、櫓のもう一辺をのぞいて見たりする。結構な残り具合であった。

「それでは三重、川越高校」

 

とりあえず、わかってはいるが残った写真を確認してみる。

 

「いやあ、すごいの残っちゃったねえ」

羽鳥アナは、クイ中達が見入っていた写真を見て言った。

「これ相当難しいよ」

「ほんまですねえ」

「渋いねえ」

「どうしましょうか?」

その写真は、何年前のものであろうか、恐らく、顔付きから察するに中学校あたりで撮られた白黒の集合写真であった。1クラスなのか、全校生徒なのか、写っているのは目分量で4、50人。その写真が探すように矢印で示していたのは、向かって左、やや上段のガクランに身を包んだ男子生徒-現在ではそれなりのお年を召したであろう男性-であった。

他の写真も見てみる。悪くない。それなりに探しやすそうではある。

しかし、と清水は思った。面白くない。TV的にも、自分達的にも、面白くないのである。言葉こそ交わさなかったが、その点では押金も同意見であった。少しぐらい厳しい写真でも、歩き回ればきっと見つかるはずである。

古賀にも一抹の不安がないわけではなかったが、この白黒の集合写真にも強みはあった。中学校-と予想される学校-での集合写真である。高校ならともかく、中学ならこの地区にも本人の知り合いはいるだろうと思われた。

つまり、尋ねた相手が探している本人の情報を知らなくても、他に写っている誰かを知っている可能性は大きい。その誰かに尋ねれば、同じ写真に写っている同級生であるのだから、ほぼ確実に知っているはずなのである。

そう考えれば、この写真を選ぶこともあながち無謀なこととは思えなくなってきた。

「それでは川越高校、写真を選んで下さい」

「・・・これ!」

「じゃあ俺もこれ!」

「よし、これ!」

押金が先頭を切り、清水、最後に古賀がそれに続いた。最終的にクイ中達に選ばれたのは、あの集合写真であった。

「結局これを選びましたか。何か作戦でもあったんですか?」

「この、矢印で指された人がわからなくても、この周りの誰かなら知っている人がいるかもしれません。僕らは周りから攻めていきます」

「なるほど、わかりました。それでは、次は神奈川工業!」

「さて、最後は神奈川工業に写真を選んでもらったんですが、1枚余ってますねえ」

羽鳥アナがそう言うよりも早くにその手に持っていた写真を見て、クイ中達は鯨波で行われていたであろう敗者復活を思い出していた。

 

「実は、この写真を選ぶチームは既に決まっています!」

 

羽鳥アナが手で示した方向に、全員の目が向けられる。

 

岐阜北か、磐田南が来ないものか。3人はそう願った。見えてきたのは、こちらに向かって走ってくる3人の姿。

少なくとも、女子チームではなかった。そして、その頭には、『中で鳥を飼ってる』なんて話-勝手な憶測であるが-も耳にした、あのヘルメットが。「金大附属や」「メットチームや」あの、[非核三原則]で泣きを見たチームである。

岐阜北や磐田南が来なかったことは残念だったが、クイ中達も復活を果たした石川代表に惜しみない拍手を送った。白ヘルチームが櫓の前に到着し、羽鳥アナが彼らにマイクを向けた。

 

「恥ずかしながら、帰って参りました」

「・・・そのセリフの方が恥ずかしいけどねえ」

 

クイ中達には結構ツボな会話である。
「はい、それじゃ集まって」

 

総合演出の遠藤氏に呼ばれて、全員が櫓に前に集まってきた。

「それじゃあですね、この地区を回ってお世話になるお宅を探してもらいます。とりあえず、この会場にいる人には聞かないで下さい」

と、地図が配られる。

 

「さっきは、今夜ここに泊まるようなことを言ってたけど、実際にはここに泊まりません。間違えないように」

 

昨晩の日野春での一件以上にTVの世界である。

 

「この中で3年生はどのくらい?」

 

遠藤氏の問いに、かなりの人数の高校生が手を挙げた。1年生は大阪市立中央、2年生は、山梨英和、鹿児島の加治木、そしてクイ中達川越の3チームである。やっぱり3年生は強い。クイ中達はそう思った。

 

「今までで一番きつかったのは何?」

「綱引き!」

「綱引きですかねえ」

同感、とばかりに古賀は自分の腕を触ってみた。疲れはもう既に、腕への痛みとなって現れていた。明日にはもっと痛くなっていることだろう。写真のフリップと共にこの地区の地図-それによると、この地区の名前は原というらしい-も受け取った3人は、探索の計画を練り始める。

 

「・・・それにしても[滝沢]姓が多いねえ」

「ほんまやなあ。あと[渡辺]さんちも多いなあ」

「・・・さて、どんな風に探していきましょうかねえ?とりあえず、コンビニやらJAやら郵便局やらがある中心部から南側に向かって攻めていきますかねえ?」

「んー、そうやね。とりあえず、通るそばの家を当たりながらそこまで行きましょうか。まずはこの地区の南側やね」

「もし見つからんだら、今度は一番北側にあるこのお寺に行ってみましょうや。寺の人ならこの地区の人の大体は知ってるでしょ」

「よしっ、それじゃまずは南側からローラーかけてくで!」

「OK」

「了解」

 

 

だいぶ傾いてきた夕日。祭囃子の中で選んだ1枚の写真、それはクイ中達をどんな一晩へ導くのだろうか?新たな出会いへの期待と不安が交錯する中、高校生クイズ2日目夜の部が始まろうとしていた。

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