初日突破、クイ中達の短い休息

2011年1月10日 § コメントする

「お、1抜けか?どこの学校?」

「三重の、川越です」

先手を打って県名も答えた3人。

まだクイズが進行しているであろう、あのステージの方向をちらっと見てから、クイ中達は旅館に入っていった。

スタッフについて奥に進むと、畳が広がりエアコンの効いた広間に着いた。そして弁当とお茶が渡され、味噌汁が配られると、スタッフも旅館の人も部屋を出て行った。

「何か飲み物買ってこようか?」

「ええの、おっしー?」

「ええよええよ。もう今日は何でもするで」

「・・・そやねえ、それじゃあ俺は炭酸系以外で」

「僕は炭酸系で」

「OK!弁当食べとってええよ」

と、押金は自販機を探しに出ていった。

「それじゃあ頂きますかねえ」

と、古賀は弁当のフタを開け、割り箸を割った。何時間振りかの食事である。

「かっちゃん食べやんの?」

「なんか食べる気しやんのやわ。てか何でこんな状態で食えるの?」

「何でやろなあ?とりあえず腹減っとったんやて。昼少なかったやろ?食べとかな体に悪いで」

 

古賀は、清水の半ば呆れた顔を尻目にして味噌汁のお椀のフタを開け、溜息をついた。タマネギ入りの味噌汁。古賀は苦手とする料理と、1日に2つも出会うこととなった。

「・・・こやんね」

他のチームはまだやって来ない。先ほどのクイズに関する積もる話も一段落つき、気になるのはやはりどこのチームが勝ち上がってくるのかである。

「中部勢にはやっぱり上がって来てほしいよなあ」

「そやねえ」

約1名を除き、食の進まないクイ中達。ほぼ半日、列車にカンヅメ状態。豪華列車の旅でよかった。

と、清水と古賀は思っていた。バスに弱い押金は、2人以上に列車での旅に感謝していた。

例年通り、移動の度にバスを使っていては体がもたない。3人それぞれのペースで食事をしていると、不意に廊下の方から声がしてきた。

複数、2抜けチームがきたようだ。箸を止め、じっと入り口を見つめるクイ中達。障子を開いて現れたのは、「はい、じゃあこっちねえ」まずはスタッフの人だった。

続いて現れたのは、はっぴを着た3人。

「おめでとう!」

「お疲れ!」

 

川越クイ中が拍手で迎え入れたのは、長崎代表佐世保高専だった。

「長崎かあ。俺、田舎が佐賀なんやて」

と、古賀。彼は久しぶりにネイティブの九州弁を聞くこととなった。彼は、家族が今九州にいることを思い出した。

「弁当クイズって九州大会でもなかった?」

と、中部大会で出された弁当をにらみ続けた清水が尋ねた。

「あった。ほんとにこの番組のおかげで疑うってことを学んだけんのう」

「九州大会も辛かった?」

「辛かった。最後には大分まで連れてかれたけんのう」

「最後って、タライ漕ぎ?」

「そう」

「なんか中部って地方性がなかったなあ。消防署で『放水!』やもんねえ」

「そやねえ」

「話変わるけど、三重ってどこか知ってる?」

「知っとるよ。うちの奴らで鈴鹿サーキットでやってたロボットの大会に出場したのがおるけん。近くに住んどるとか?」「どうやろ?近いんかな、かっちゃん?」

「近いでしょ。僕は鈴鹿のサティまで自転車で行ったで」

「あれってサーキットの近くなん?」

「鈴鹿ですから」

 

以下、佐世保高専での寮生活などが話題となる。と、再び廊下の方から足音が。6人は入り口に目をやった。3色の甚平姿、千葉代表船橋高校の3人が拍手で迎えられた。
「どのポーズで行く?」

「もちろんクスヒコさんピースでしょ」

「行きますか?」

「チーズッ!」

パシャッ!1、2、3抜けのチームで写真撮影。クスヒコさんピース、これは両手でピースをつくり、さらに人差し指と中指とを閉じて、顔の前に八の字をつくるように構えるポーズのことである。このポーズの由来は清水の携帯電話の裏にある。よっちゃんがそこに貼った、彼女の叔父のプリクラ。

清水はそこに写ったヒゲのオジサンのポーズをえらく気に入り、クイ中のオフィシャルポーズとしたのである。クイ中達はこの機会にクスヒコポーズを全国に知らしめるという壮大なる野望を抱いており、すでに昨晩の写真撮影キャラバンにてその進行は始まっていた。

写真を撮り終え、食事に戻る各チーム。川越の3人は、佐世保高専チームからあるものを受け取った。

「なにこれ?」

と、押金。

「センベイ?」

と、清水。

「九十九島や!」

と、古賀。

「九十九島せんぺい。俺達はまだ持ってるけん、食べて」

「せんぺい?」

と、不思議そうな顔をする押金。

「そうそう、せんぺいで正しい。なかなかいけるんよ、これ。久しぶりやなあ」

懐かしそうに語る古賀。彼は九州への思い以上に、甘いお菓子が恋しかった。

「ほんまや、おいしいわ!」

清水も甘いものが恋しかったくちである。一応昼にはケーキを食べているが、あれとは違う味わいがあった。その点では、昼に思いがけず羊羹を食べてしまった古賀も同様であった。

「米子東も来たねえ」

「来ましたねえ」

食事を終え、次々とやってくる勝ち抜けチームを待つ3人。中部勢は、まだこない。

「こやんなあ、中部地区」

「来ませんねえ」

2週間前に消防車の横で、昨夜はTVで野球を見ながら本戦での健闘を誓い合った戦友達との別れとはこんなに早く訪れるものなのだろうか?また廊下からどこかのチームがやってきたようだ。だんだんと、やってくるチームの間隔が狭まってきたようだ。障子が開いた。3人の目に映ったのは、見慣れた詰襟の制服のチームだった。

「磐田南ぃー!」

「来たー!」

 

と、大喜びで迎え入れる川越クイ中。

「おおーっ!」

「きれいやねえ」

旅館の西の方角に打ちあがった花火。アロハと詰襟の6人は普通に喜んでいた。

「あれは静岡の花火やな」

「また大きいですねえ。ここであの大きさなら、静岡では大変なことになってますねえ」

「・・・ところであれってさっきみたいなクイズのための花火なのかな?」

「どうやろねえ?」

「それにしても、ほんとあっちで何が起こってるのかわからんねえ」

「そうだねえ。休憩と言うより隔離だよね」

「そうやね」

「あっ、ジュラルミンだ!」

時間は9時前、タイムリミットまであと十数分。他の中部勢は、まだ来ない。

[初日終了。無事に生き残っております。]

・・・恐るべし、クイ中。どこにいるのかもわからない3人から三重へと送られた連絡は、川越クイ研秘書の脇谷幸枝を驚愕させるに十分な内容だった

。理事長以下、他の幹部も同様であった。[今日、おっしーはかっちゃんに惚れ直しました。]古賀からの報告に、火元取扱責任者の吉田めぐみは笑みを隠せなかった。

仲良きことは美しき、そう思いつつ、彼女もクイ中達の明日の健闘を祈る。クイ研全員が応援している。だから頑張れ。

「もうすぐ9時やな」

「正確にはあと16秒」

 

古賀のつぶやきに答えたのは佐世保高専のメンバーだった。

「えらい正確やね。時報にあわせたん?」

「ズームイン朝にあわせたけん、見ててみ」

 

クイ中3人がTVに目を向けた。日テレ系列、ここらへんならTV山梨だと古賀は考えていた。日テレで、月曜の夜9時から始まるのはスーパーテレビである。

「・・・4、3、2、1、0!」

「ぴったしや」

 

9時、タイムリミットである。勝ち抜けチーム数は、明らかに30には足りなかった。

「時間は来たけど、会場からここまでには多少なりとも距離があるわけやで、もうどこもやって来ないとは限らんよ」

まだ、来て欲しいチームがあるんだ。清水は祈った。午後9時10分、岐阜北は現れなかった。

「9時に終わったんと違ったん?」

「なんか福澤さんが『時間は来ましたが、せっかくだからあと20問くらいやっちゃいましょうか』ってこと言って、それで勝ち抜けてきた」

「いやあ、よかったよかった」

 

岐阜北、福澤アナの粋な計らいで無事に勝ち抜ける。

9時を大分過ぎ、もう諦めていた川越と磐田南の6人が岐阜北の3人を見たときの驚きは相当のものだった。ほとんどの席が埋まっていたため、クイ中達は自らの席を譲った。

「いやあ、ラブニューよかったなあ!」

心配し通しだった清水の喜びもひとしおである。ちなみに、ラブニューとは清水が岐阜北の武藤君につけたあだ名である。その由来は彼が着ているTシャツの絵にある。アイラブニューヨーク、略してラブニューである。とりあえず食事中の岐阜北チームにトランプを借りて、川越と磐田南は大富豪を始めた。それにしても、ここにはいつまで[監禁]されるのだろう?もしかしたら、今夜は本当はこの旅館に泊まることになるんじゃないのか?

 

「よし、ちゃっちゃと終わらすで!」

「時間は無駄なほどあったんやで、もっと早く入れさせてくれてもよかったよなあ」

「やねえ」

クイ中達のシャワータイム、但し10分間の制限つき。

スタッフはシャワーを浴びろと言ったのに、シャワーは1つ、カランは2つ。

「風呂入れるんちゃうの?」

と、清水はフタを開けた。押金は洗髪中、古賀は洗顔中である。

「なんや、お湯入ってるやん」

と、清水はゆっくり足をさしだし・・・

「うぁっちっ!!」

「熱っ!」

 

前者は無論清水の、後者は飛沫を背中に浴びた古賀の悲鳴である。

「水っ!水っ!」

「・・・大丈夫かっ!?」

「・・・何とか。なんやこれ!?めちゃめちゃ熱いやん!」

「飛沫でもめっちゃ熱かったもん。ほんまに大丈夫なん?」

「たぶんね。ちょっとこれ水入れた方がよさそうやなあ」

「いい感じになるころには10分経ってると思うよ」

「それは困る」

 

しかし清水の努力は功を奏さず、湯船につかることはできなかった。

「古賀ちゃん、先行くでえ」

「ちょい待って、そんなひどいこと言わんといて」

 

例によって古賀は1番遅い。大部屋に戻った3人は磐田南と共に再び大富豪を始める。

さっぱりとはしたものの、服装はやはりアロハシャツ。真実を述べるのならば、下着や靴下も何ら変わらずである。そのとき、座敷に新客がやってきた。12人、4チーム。

「敗者復活や」

「やっぱりやってたんやなあ」

「何してたんやろ?」

 

男子が6人、女子が6人、時計を見るともうすぐ11時である。

地元の山梨英和も敗者復活を果たしている。辺りの声に聞き耳を立ててみると、敗者復活は絵を描くことだったらしい。

町の人の投票で多くの人の支持を得た4チームに復活の切符は渡されたのである。

「うちらだったら絶対無理だよね」

「そやね」

この3人、絵心は持ち合わせていない。

「それじゃあ勝ち抜けチームのみなさん、駅の方に移動しますので準備をして下さい!」

そう言われて、洗面用具その他をカバンに詰める3人。もう手馴れたものである。荷物を持って、各チームが部屋を出るとき、復活組はまだ食事中だった。彼らはシャワーも使えないのだろう。この旅、待たせるときには思いっきり待たせ、急がせるときにはさらに容赦なく急がせる。

「あの子、俺の親戚に似てるなあ」

押金は食事中の1人を見てつぶやいた。

「どの子?」

と、古賀。

「ほら、古賀ちゃんの右手の山梨英和の子」

「へえ」

見ると、背中にはWeの文字が。ただ、古賀は押金の親戚を知らないので似てるかどうか確かめようはなかった。
今から別の宿舎へ移動ってことはないな。

3人は諦めていた。考えられるのはただ1つ、車中泊。高校生クイズらしいと言えば、そうでもある。短い休息を終えて、3人は旅館を後にした。車中泊か。

唯一の救いは電車に乗り遅れる心配がないことぐらいである。

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