熱砂の戦い、日本海を望んで。

2011年1月10日 § コメントする

0、4kg差だった割には、川越は思ったよりも上位にいた。近似値クイズ位。

 

「一桁ならいいんじゃない?」

「そうそう」

 

何かの順番を決めているのなら、1番最初というのもやりづらい。

「何やこのガラス、危ないなあ。埋めとかないかんわ」

と、古賀はあたりを見渡す。すぐ後ろ、ヘルメットをかぶった石川代表金沢大学附属高校の3人が最適な道具を持っているのを発見する。

「ごめん、それ少し貸してくれん?」

彼らの持っていたスコップを手に、彼は暇つぶしがてらに穴掘りを開始した。
全チームに軍手が配られた。

「僕達もう持ってるんですけど・・・」

軍手を着用しつつ旅をしてきた金大附属チームの声に「じゃあ君達それでいいから」と少し笑いながらスタッフの土居さんが答える。そんなやりとりを聞きつつ、クイ中達は海の方向を見た。太い綱が1本・・・。

軍手と綱、これからの予定は、想像に難くない。

「綱引きやな」

「そやね」

何が起こるかわからないことも不安だが、わかってしまうことも不安なものだ。

漠然としたものが、具体的な姿を見せただけなのだから。しかし、綱がやたらと長い・・・。
「それでは、船橋高校からどちらのチームに行くかを決めて頂きます」

どうやら綱引きは赤・青2チームに分かれての団体戦のようである。船橋チーム、彼らは青を選んだ。続いて、佐世保高専、東大寺学園と、近似値クイズの順位に従ってチームの選択―必ずしもの順番ではなく、各チームの自由らしい―が繰り返される。

川越の2、3チームほど前にいた海に似合わぬ学ラン姿の応援団チーム、磐田南高校は赤を選択した。そして、7番目はクイ中達である。

「どっち行く?」

「磐田もおるし、やっぱ中部の絆ということで赤にしよか?」

「そうしましょう」

岐阜北高校もそれに続き、中部勢はすべてのチームにかたまることとなった。

全体を見渡すと、女の子のチームがすべてにかたまっていた。ここらへんが勝負の分かれ目となるのだろうか・・・。

全員に、それぞれのチームカラーのたすきが配られた。クイ中達も赤のたすきを頭に縛る。

「僕は必要ないんだけどなあ」

「鉢巻が二重になっちゃうねえ」

磐田南は、もともとマイたすきを着用していた。気が付くと、流れは円陣を組むという方向になっていた。

クイ中達も岐阜北と磐田南との間を陣取って肩を組む。

「誰が仕切る?」

「やっぱ応援団でしょ!」

というわけで、磐田南が声の先陣を切ることとなった。

「行くぞー!!」

「オオーシッ!!」

男ばかりの赤チーム、まずはボリュームで青チームを威嚇する。

「おお?赤チーム気合が入ってますねえ」

と羽鳥アナ。既にここから勝負は始まっていた。そして、全員がスタンバイに着いた。
「ここで行うのは、[日本海サバイバル綱引きクイズ]です。

ルールを説明します。まず一般問題が出され、赤青両チームで綱引きをして勝った方の先頭のチームが解答権を得ます。そこで正解すると、ステージに上がって通過三答クイズにひとりずつ、先方・中堅・大将が順番に相談なしで挑戦してもらいます。3人全員が正解して勝ち抜けです。

一般問題、通過問題ともに、誤答の場合は列の最後尾に移動していただきます。ですが、綱引きで勝ってしまった場合には必ず何か答えなければいけません。ですから、後ろのチームは先頭がわかっていようがいなかろうが、引っ張り勝てば解答のチャンスが近付いてくるのです。

先頭チームはわからなかった場合、裏切るのも構いません。ここで一気に減ります。・・・通過チームは、9です」この灼熱の日本海から抜けられるのは26チーム中9チーム。砂浜の高校生達にとって、クイズのルールよりもそちらの方がショックだった。綱引きの勝敗の判定は、各チーム最後尾が、そのまた後ろにあるボタンを足で押すことで決められる。

「後ろの人、綱は必ず両手で持ってなきゃだめだよ!」

綱の真ん中にいる富田プロデューサーからも声が飛んだ。

中部決勝同様、今回も彼が開始の笛 を吹くらしい。「掛け声は[オーエス]でよろしく」との伝言が赤チームを駆ける。

 

一年に大体1回、それも秋にしか、なかなか結ぶ機会のないたすきを固く結びなおして、クイ中達は綱を握った。久々の感触・・・。先頭までは最低4回ぐらいは引っ張る必要がありそうである。
押金がステージの方に目を転じると、昨夜九十九島せんぺいをくれた佐世保高専チームが上がっていた。

「さあ、それでは佐世保高専チームへの通過三答クイズです」


そんな羽鳥アナの言葉を聞きながらも、彼は不安を隠せなかった。3人がそれぞれ相談なしで別々のクイズに挑めば、一番危ないのは自分。そんなプレッシャーが彼を襲っていた。そのため、まともに問題も聞いていなかった。

唯一まともに聞こえたのは、「3つを挙げよ」という部分。「3つを挙げよ」・・・3つ。いわゆる[名数問題]である。「なんや。三答クイズって、『三大なんちゃらを全て挙げよ』みたいな問題やったんか」

古賀がそんな言葉を口にした。彼もリーダーと同じようなクイズ形式を想像していたようだ。押金が周りのチームの様子をうかがうと、結構な数のチームが同じように考えていたらしい。

 

・・・ブー!

 

佐世保高専チームがステージから降り、最後尾についた。

「問題、自分に出番が回ってくることを、御飯を入れる容器に例えて何が回ると言う?」

赤チーム先頭は奈良代表東大寺学園。結果的に先頭チームの勝ち抜けにつながってしまおうと、引かないことには自分達の勝ち抜けがどうにもならない。[オーエス]の掛け声のもと、全力で綱を引っ張る。

「よっしゃよっしゃよっしゃーっ!」

「引っ張れー!」

パンッ!

「赤チーム、東大寺学園!」

「お鉢が回る」

ティロリロン!鉢に御飯は入れないよなあ、普通はおひつだよ、と胸の内で慣用句に文句をいいながら、古賀は東大寺チームを見た。この通過クイズ、だいたいどんなレベルなのか?

「正解!さあ、ここからは相談なしの通過三答クイズです」

東大寺の3人がステージに上がった。

「問題、三段論法の三段階を挙げなさい」

「ああ、これね。またベタな問題がきたもんだ。」

清水はそう心の中で呟いた。古賀にも以前こんな問題をやった記憶はあったが、今はその片鱗すら残っていない。東大寺の先鋒が口を開いた。

「大前提」

 

・・・もう間違えない―名数の清水は確信した。これは[大前提・小前提・結論]と答えさせる問題。

[結論]はたいてい答えられる。だから最初に[大前提]を答えたとなると、つづく[小前提]も難なく答えることができる。

しかし最初に[大前提]と答えるところが、そつがないというかなんというか・・・。

「小前提」東大寺の中堅が答える。そして大将・・・。

「結論!」

ティロリロリロン!・・・決まった―押金は彼らのガッツポーズを目で追った。彼らは本物だ、クイ中達の思いはそこで一致した。

「おっしーさっきの問題わかったよね?」

「もちろん!」

 

「問題、船の後ろの部分を艫(とも)と言うのに対して、先端の部分を何と言う?」

ピー!

 

引くこと数回、赤チームの先頭は川越高校。

「オーエス!オーエス!」

気合を入れて引きながらも、押金には答えがわからなかった。かっちゃんか古賀ちゃんは知ってるだろう、そう思って綱を引いていた。

「ぬおりゃー!」

腕に力を込めてはいたが、古賀にも答えはわからなかった。確か、おっしーかかっちゃんがこんな過去問をやってたような記憶が・・・。そんな希望を抱いて足を踏ん張っていた。

「頑張れー!」

チームを鼓舞している清水。彼にも答えはわからなかった。2人なら知ってるだろうか?

艫の方なら過去問でやってて確実にわかったのだが・・・。三者三様の思いを、それぞれが引きながら知ることは叶わなかった。しかし、

「ん、青が優勢か?さあ、青が引く!青が引く!」

パン!

「さあ、青チーム、船橋高校!」

初めて解答権を得た青チーム。

「舳先(へさき)!」

ティロリロン!

「知ってた?」

「聞いて思い出した。過去問でやってたよね?」

「やってた。そのときは、艫の方を問う問題やった」

「ああ、やっぱりそうか・・・」

「さあ、それでは船橋高校の通過三答クイズです」

3色の甚平がステージに上がった。

「問題、三公社五現業、そのうち、民営化された三公社を通称で答えよ」

「・・・めっちゃわかるし」

「これ、やりたかったなあ」

「・・・NTT、JR、JTやろ?JTあたりでこけてくれやんかなあ?」

「さんこうしゃ?なんや?」

清水は言葉の意味を理解していなかった。クイ中達-清水を除く-は口惜しい思いをしながら、ステージに上がる船橋チームを見た。

「では、先鋒」

「NTT」

 

やっぱり知ってるか・・・。

「ああ、あれね」

やっと清水は理解した。3人は、自分達の眼前での2チーム目通過を覚悟した。

「中堅」「国鉄」

・・・やった!人の間違いを喜ぶのは倫理的には問題があるだろうが、思わずガッツポーズをしてしまった。

「大将」「JT」

・・・ブー!「残念、国鉄じゃなくてJRだね。わかってたんだけどねえ、残念。船橋高校が青の最後尾に移動します」

「・・・よし、次こそもらうで!」

「おうよ!」

「問題、ジャンケンをグー、チョキ、パーの順で出してくる相手とするとき、20回目に勝つには何を出せばいい?」

ピーッ!

 

「オーエス!」

「ヨッシャ、引けー!」

「かっちゃん分かるー?」

「まかせてー!」

「今や!一気に引っ張れー!」

パンッ!

「赤チーム、川越高校!」

 

ガンマイクが向けられた。眼でうなずきあい、清水がそれに顔を近付ける。

「グー!」

ティロリロン!

「よしっ!」

この次が勝負であった。通過三答クイズ。先鋒は主将押金が、中堅には古賀が、そして大将には名数問題を得意とする清水が入った。

「問題、夏の大三角形をつくる星3つを答えなさい」

その瞬間、清水と古賀の胃に重いものがやってきた。天体は、理科が得意だったはずの中学校時代に、どう頑張っても出来なかった分野である

一方、相談できないためにそんなこと知る由もない押金にわかっていたのは2つ。アルタイルと・・・、

 

「では川越高校、先鋒」

「ベガ!」

 

そのとき、古賀は必死の思いで記憶を呼び覚ました。そう、ベガ、デネブ、アルタイルだ。

そう思い、2番目と3番目のどちらを言うべきかを考えた。こっちの方がマイナーだから、という理由で彼はデネブを選ぼうとした。

「中堅」との言葉に、マイクに顔を近付けた一瞬、古賀の記憶がブラックアウト―平たく言えばど忘れ―した。

中部大会決勝でも起こった、クイズの本番では起こってはならないこと。再び光が灯るには、時間は足りなかった。「アルタイル」としか言えなかった。

「大将」清水は[アルタイル]しか知らなかった。わからないと答えるわけにはいかない。先の2人に心の内で謝りつつ、誤答と知りながらも、清水は口を開いた。

「・・・アンタレス」ブーッ!

「残念。ベガ、アルタイル、そして、アンタレスじゃなくてデネブだったねえ。川越が赤の1番後ろに入ります」

「あぁー」

落胆し、3人はステージを降りた。

「ごめん、2人とも」

清水は押金と古賀に詫びた。

「かっちゃん、アルタイルなら知ってたんやね?」

古賀も申し訳なさそうに尋ねた。先程の清水の答えから、予想はついた。

「そう、アルタイルしかわからんくって、古賀ちゃんに言われて、とりあえず何か言っとけと思ってさ」

「・・・ゴメン、デネブもアルタイルも両方知ってたのに、急にデネブが出てこなくなって・・・」

「もうええから、次行けばいいんやで」

押金が2人を励ました。そこで清水が作戦をうちたてる。

「相談できやんのやったら、3つともわかるかわからないか、体で表現しよ。分かるんやったらガッツポーズ、分からんのやったらヤバイっていう顔。それでいくつか分かる人はその中で一番難しそうな答えをこたえよう。」

「ん、わかった」

「ヨッシャ、それなら行こか!かっちゃん、後ろ、ボタン頼むで!」

「オッケー!」

とりあえず、押金と清水は靴の中の砂を払った。古賀は、いちいち払うのは面倒と靴を脱ぎ捨てた。

「よっしゃ、絶対2周目行くぞー!!」

古賀が声を張り上げた。

 

「行くでー!」

「おおしっ!」

全員が気合を入れ、綱を握り、前を見据えた。問題が読み上げられ、笛を待った。

・・・ぷふぇ~、ピーッ!

「・・・オーエス!オーエス!」

「行けるぞー!」

「絶対負けんなあー!」

「さあ、赤が引っ張るか?青が強いか?いや、赤が引いている、赤が引いている!」

「かっちゃん、足伸ばしてぇっ!」

「もう少しっ!くそぉっ!」

「頑張れ!」

「もっと引いてもっと引いて!!」

パンッ!ボタンを押すと同時に転げる清水。

「赤チーム!」

「ふぅ」

「ナイス、かっちゃん!」

「どうも。てか、今の笛何?」

「富田さん、やってくれたねえ」

「何が笑えるかって、その後に間髪入れずに他の人がきちんと吹いたトコやね」

「それな」

 

ブーッ!

「ああ、岐阜北あかんかったかあ」

今度は彼らが最後尾になった。

「頑張ろな。絶対もう一周すんでな!」

「おし!」

 

 

通過がたった9チームだけあって、それ相応の厳しい関門になった。

 

太陽の照りつける熱砂の海岸、日本海を望んでの戦いは続く。時計は荷物の中なので時間を知る術はないが、長丁場になることだけは確実だった。

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