輝く御飯と、特盛と、電話のベルと。

2011年1月10日 § コメントする

中に通された3人がまず見たのは、テーブルの上に並べられた料理の数々であった。とりあえず、着席。テーブルを隔てて左前方のTVを見ると、中日の選手がバッターボックスに立っていた。

すると、スタッフがチャンネルをいじって巨人戦に変えた。さすがに他局の野球を放送しているTVの撮影は出来ないのだろう。照明の調節やらカメラの調整やらが行われている間に、3人は部屋の隅に据え付けられたCCDを発見した。とりあえず、手を振ってみる。あらためて家族の皆さん-渡辺さん、奥さん、お父さん、息子さん-に自己紹介をしたクイ中達。

「それじゃあ食べてください」

と言われて、箸を取り、待ち望んでいた食事の時を迎える。そこに、奥さんがお盆に御飯をのせてやってきた。

「自分のところの田んぼで作ったお米ですからね」
「正真正銘、魚沼のコシヒカリ」
「え?本当すか!?」
「野菜もほとんどうちで作ったものですよ」

 

このとき3人は、という地区の名前しか教えられていなかったこの地一体が、おいしい米で名高いあの魚沼だということを初めて知る。

「やっぱね、ツヤが違うね、ツヤが」

と、清水。

「頂きまーす!」

と3人は輝く御飯を口に運ぶ。古賀の感動は言葉にならず、眼をつむって、ただただうなずくだけであった。

「温かい御飯なんていつ以来やろ?」

ようやく古賀の口から出た言葉。思えば、品川を発って以来温かい御飯とは縁遠い旅が続いていたものである。

「どんな風な旅をしてきたの?」
「はい。ええと、まず東京の品川駅を出まして、そこから山梨まで電車で行きましたね」
「その山梨の夜に、46チームで早押しクイズをやりましたね。一応一抜けでした」
「へえ、それはすごいねえ」
「その夜は電車の中で寝まして、その間に長野を通過しました。直江津のあたりで少しずつ落とされて、鯨波海岸ってところで綱引きクイズをやったんですよ」
「綱引きクイズ?」
「はい、全チームが半分に分かれて、それで綱引きをするんです。引き勝った方の先頭チームがクイズに答えて、さらに通過クイズをするんです。ダメだったら列の一番後ろに戻って、またもう一周。僕らは結局9チーム通過のうちの8番目でした」
「もう一生分綱引きをしましたね」
「普通は1年に1回するかしないかやもんね」
「ところで、こちらではお米と野菜以外に何か作ってるんですか?」
「花を作ってるね。あの仏壇に飾ってある花もうちで作った花なんだよ」
「へえ」テーブルの上には刺身や肉、野菜と盛り沢山である。その中の1つが古賀の目を惹いた。「これなんですか?」
「これは[いご]といって、海藻を煮詰めたものを固めたものです。うちのが作ったんですよ」
「へえ」

 

と、古賀は皿に取って口に運ぶ。独特の味わいである。

「あ、結構おいしいです」
「あ、古賀ちゃん、醤油取って」
「はいよ」

古賀以外の2人も食が進んでいる。今までのような緊張の直後の食事ではないためであろう。

 

「おかわりはどうですか?」
「あ、いいんですか?頂きます」

だが、おかわり1号は古賀であった。

「そういえば、三重の川越町ってどこかわかります?」

「さあ、ちょっと知らないねえ」
「埼玉の方は有名だけどねえ」息子さんも知らない様である。「よく言われます。桑名市ってわかりますよね?」
「はい」
「四日市市もわかりますよね?ちょうどその間にある結構小さな町ですよ。何で有名だろう?」
火力発電所じゃない?」
「まあ、そんくらいの町です」
「でも優勝出来れば結構有名になるんじゃない?」
「出来ればいいんですけどねえ」
「そう言えば、優勝の賞品は何なの?」
「『21世紀、新世紀への旅』って言ってますけどねえ。要は世界で一番早い初日の出が見れる旅だとか」
「『それならトンガ王国だ』ってうちのある先生が言ってましたけどねえ」
「へえ。君達海外旅行は?」
「僕らはないですねえ。古賀ちゃんぐらいか?」
「あ、そうや。春休みに学校の海外研修に行ったわ」
「それは何かの試験か何かがあって?」
「いや、行きたい人が自腹で行く研修です。春休みの2週間ぐらいでしたかね」
「うちの学校、英語に力入れてましてね、僕のクラスからも1人、1年間の海外留学に行きました」
「あ、僕らのクラスからも行ったよね?」
「おお、行った行った」
「おかわりどうします?」

再三おかわりを勧めてくださるので、断ると失礼かなと思った清水は

「あ、じゃあ少しだけお願いします」

と言い、茶碗を差し出した。奥さんが戻ってきて、その手の盆にのせられていた茶碗を見たとき、清水はびっくりした。大盛、いや、むしろ特盛という形容の方が正確だろう。

「かっちゃん食えよ」
「出されたものは食うのが礼儀やぞ」
「全然オッケー。なんたって本場のコシヒカリだからさあ」

と、清水はその茶碗に箸を運んだ。食べきれるだろうか、という不安はあったものの、清水は勢いよく目の前の特盛を食べ始めた。

「お父さんのコップが空だけど」

と、スタッフの声。

「おっしー、お酌して」

との言葉に、リーダー押金は立ち上がる。まず、

「あ、どうも」

と言う渡辺さんにお注ぎする。次の息子さんには、「あ、俺は飲まないから」と言われたのでビンを置いて席に戻る。

「俺お酌なんて生まれて初めて」
「うそ?」
「ほんまに?」
「お父さんには?」
「ない」

スタッフの誘導から、息子さんがパソコンで作成した、祭のポスターのことが話題になっていた。その途中、不意に部屋の電話が鳴った。「はい、はい。高校生の方と代わってくれって」と、奥さんが押金に受話器を差し出した。

「はい、お電話代わりました」

『こんばんは、司会の羽鳥です』

「あ、こんばんは」

『御飯頂いてますか?』

「あ、はい」

 

羽鳥アナ直々に電話をかけてきたということは・・・、押金は思った。なにかあるってことじゃないだろうか?

 

『これからクイズを行います。よく聞いてください。そのお宅にある一番古くて価値のあるお宝を、8時15分までに探してお祭の会場まで持ってきてください。よろしいですか?』

「あ、はい」

 

この番組が、今日という日を易々と終わらせてくれるはずもない。そう思いながら、押金はチームメイトに電話の内容を告げた。

 

「クイズだって」
「エエーッ!?」
「マジでー!?」
「モ―――――ッ!!」あの『今日は畳の上でゆっくりと』って言葉はなんだったんやねん!と、胸の内で毒づきながらも、古賀は「んで、どんなクイズ?」と尋ねた。「何か、この家で一番古くて価値のあるお宝を探して、8時15分までに例の祭の会場まで持って来いってさ」
「・・・今何時?」
「・・・7時40分」
「そんなにゆっくりしとれやんね」
「それじゃ早速探したいんですけどいいですか?」
「家の中を探して回るんだから、きちんとお願いした方がいいんじゃない?」とスタッフ氏。やはりもっともな話である。3人は起立。「ごちそうさまでした。家の中を探してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。ところで、何かよさそうなものありますか?」
「それじゃこっちに」

 

輝く御飯に感動し、特盛に驚いた3人だったが、その幸せも、電話のベルに終結を迎える。

高校生クイズをなめると痛い目に遭う。その言葉を忘れてかけていた罰を身をもって受け、クイ中達はこの夜本当の関門に挑み始める。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

これは何 ?

川越高校クイズ研究所大会参加記録 で「輝く御飯と、特盛と、電話のベルと。」を表示中です。

メタ情報

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。