輝く月の下、白い輝きは三分の一。

2011年1月10日 § コメントする

「中島誠之助先生でした。ありがとうございました!」

拍手に送られ、公民館前に待たせてあったらしいタクシーに乗って中島氏は原地区を後にした。

「通過クイズってどんなんなんやろね?」

「あれっちゃう?上から順に、1チームずつ問題が1問出されて、それに答えられれば通過。ダメなら列の後ろに戻ってもう一周」

 

「あ、あの司会用らしいテーブルみたいなやつの前で?」

「そうそう」

「それだと1番は他の様子が見れやんね」

「うん、そやね」

お宝はスタッフに回収され、準備は整ったらしい。

「それでは本番参りまーす。5秒前、4、3、」

例によって残りカウントは指で数えられ、収録は再開された。

「さあ、鑑定の結果はこのようになりましたが、つぎに皆さんを待つ通過クイズはこちらです!!」

羽鳥アナが手を伸ばしたその方向から、浴衣を着た女性が盆を持って歩いてきた。

「見えてきたでしょうか?」

その手の盆の上には、白い何かが3つ。

「何持ってんだあ?」

そのとき、古賀は全てを飲み込んだ。

「利き米や!」

「そう、こちらに3つのおむすびが用意してあります。皆さんもごちそうになったと思います。コシヒカリ、この中から、ここ魚沼産のコシヒカリを当てていただきます。題して、ザ・越後魚沼産おむすび当てクイズ!」

「うわー!」

「うそー!」

「ルールを説明します。皆さんが座っている順番にこの3つのおにぎりを30秒以内に食べ比べてもらい、1つだけある魚沼産コシヒカリで作ったおにぎりがどれかを答えていただきます。勝ち抜けチームは5チームです」

・・・こんなことなら、あの御飯をもう一杯食べておけばよかった。皆がそう思っているだろう。こんな形で半分も削ることに多少の理不尽さを感じながらも、クイ中達は約2時間前に食べていたあの御飯の味を反すうしようと努力していた。この形式なら、確かに自分達は有利だろう。

だからといって、実力かどうこうという問題でもないし、落としたときのリスクは鯨波の綱引きクイズ以上である。一度落とせば、勝ち抜けチーム数は5である、もう二度と順番が回ってこないかもしれない。抜けるには、当てるしかなかった。

「それでは、一番目は川越高校です。制限時間は30秒、よーい、スタート!」

とりあえず、光加減を見てみる。本物はツヤが違う、ような気がする。

「川越高校、まずはよく見ていますねえ」

次は味見である。時間は30秒、あまり頬張るのは得策ではない。それぞれの立ち位置から一番近いおにぎりを摘まむ。・・・まずい。なんじゃこりゃ?うちの米よりもマズイぞ。2番を摘まんだ押金は思った。

古賀にとって、3番のおむすびは結構おいしかった。これが当たりだろうか?だが、まだ2つ残っていた。次は右回りに食べるおむすびをチェンジ。・・・うまい!先程の2番とは、味に雲泥の差がある。

「めっちゃ3ぽい」

その言葉の根拠となるに値する味だ。・・・これは難しい。古賀は1番を食べて当惑した。こちらもうまいのである。こんな中から本物の魚沼コシヒカリを当てろと言うのか?胸のうちで毒づきながら、3つ目のおむすびである2番へと指を伸ばした。・・・これは違う。他の2つとの差が歴然としていた。1か、3。『めっちゃ3ぽい』と言ってしまった押金だったが、1番を食べてその意見が揺らいできた。こちらもうまい。クイ中達はそれぞれ3つを味見し、絞込みに入ろうとしていた。疑わしいものに手をつけ、摘まんで、口に運ぶ。

「時間です」

うそや!と、古賀はつぶやきたかった。30秒にしては短すぎる。

「どう?」

「・・・1か、3」

「2は違う・・・」

全く自信が持てない。

「それでは川越高校、答えは?」

古賀は、渡辺さん宅で一番御飯を食べた清水に手で合図した。清水は考えた。2は明らかに違う。問題は1と3。なんとなく、本当になんとなくだが、1番の方がおいしかったような気がした。1番は、米の香りがしたのである。あれだけの特盛をごちそうになったのだ。その舌がそう感じたのなら、その感覚に賭けよう。

「・・・1番」

・・・ティロリロリロリロリロン!!

「ウオー!」

「オッシャー!!」

「イヨッシャー!!」

「川越高校、見事正解です!」

「ハイ!」

「ハイ!」

「ハーイ!」

今までで一番リズミカルなハイタッチをそれぞれ交わしたクイ中達。

「いやあ、すごいねえ。どうだった?」

「おいしかったですから」

「渡辺さんちのお米は天下一品っすよ!」

「君は?」

「最っ高でしたね!」

「おめでとう!川越高校、勝ち抜けー!それじゃあ、せっかくだからおむすびも食べちゃって」

羽鳥アナのお言葉に甘え、3人それぞれおむすびを取り、脇に退がった。

スタッフの矢野さんからおしぼりと水も渡され、残りのおむすびを頬張る3人。空を見上げると、きれいな月である。

「すごすぎる」

「やりましたねえ」

「ほんとに当たっちゃうとはね」

「渡辺さんに感謝感謝だね」

「ほんま、新潟に足向けて寝れやんわ」

現在、味見中なのは2番手東大寺学園である。

「では、東大寺学園。答えは?」

「・・・2番」

・・・ティロリロリロリロリロン!

「うわっ」

「当ててきたねえ」

「来たねえ」

 

おにぎりを食べながら残りチームの動向をうかがっていると、次に正解のブザーを鳴らしたのは東大寺学園だった。清水-実は古賀もだったのだが-は、東大寺が落ちるとしたらおそらくここだろう、と考えていた。だからここで彼らが勝ち抜けてきたことに、正直なところ少々残念な気持ちもあった。が、もうしばらくこのクイズの名門、『東大寺学園』とともに旅を続けられることがうれしかった。

「おめでとう!」

「お疲れ!」

こちらに歩いてきた東大寺学園を拍手で迎えるクイ中達であった。

「なんか、これめっちゃまずいんやけど・・・」

とぼやいたのは清水である。彼が取ったのは、3人の誰もがニセモノと見抜くほどまずかった2番のおにぎりであった。

「あ、それきっと2番やわ。たぶん、当たりは俺が食ってるヤツだと思う」

「古賀ちゃんか、持ってったのは」

「古賀ちゃーん」

「俺か?俺が悪いのか?」

「おう、古賀ちゃんが悪い」

「ごーめーんー。許してーなー」

そんな会話の最中、次に正解のブザーを鳴らしたのは3番手加治木高校であった。

「すごいなあ。なんでこんなに当たるんやろ?」

クイ中達は半分勘で当たっているため、彼らにとって、この連続正解は驚嘆に値するものである。

「おめでとう!」

「すごいなあ。すぐにわかった?」

「なんか、1つだけまずいのがあった」

「あ、あれか。やっぱりあれはわかるんだ」

その次の金大附属、中央高校は連続してはずしてしまう。残り枠は後2つ、未試食のチームは次の神奈川工業を含めて5である。ティロリロリロリロン!

「お、ついに当てたか」

「女の子チームが残ったね」

「こうなると、金大と中央は厳しいよね。2周目に行くには4チーム連続ではずさなきゃいけないから」

続いては、神奈川工業と同じくメンバー全員が女子の山梨英和。

「・・・1番」

ティロリロリロリロン!ギリギリのところでの勝ち抜けである。彼女達も心からの

「おめでとう!」

との声と、拍手に迎えられた。

「あの3チームは特に辛いやろうな」

「何も出来ずに脱落やもんな」

「自分達の間違いならともかくな・・・」

「ありがとうございました!」

「次も頑張ってね」

「あ、そうだ。住所教えてもらえますか?」

おむすび当てクイズの収録終了後、少し自由時間があったので、クイ中達は渡辺さんにあらためて礼をつげに行った。古賀は、出来るときに尋ねておこうと渡辺さんにメモ帳を渡した。昼間の経験から、こういうことは出来るだけ早く聞いておくべきだと考え始めたのだ。

「それじゃ、勝者チームはこっちにきてくれる?」

スタッフに呼ばれて、3人は公民館の入り口に向かった。目を転じてみると、柏原チームが涙を流しているのが見えた。

 

月の輝く夜空の下、舌が憶える味の記憶を頼りに夜の部の勝ち抜けを決めた3人。自分達の力だけではきっと無理であった。旅先で受けた優しさ、絶対に忘れてはならない。

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