針路は南、しばしの休息。

2011年1月10日 § コメントする

ようやく腰を落ち着けることの出来た古賀は、本格的に傷の手当てを始めた。

と、そこにカメラがやってきた。疲れで頭は朝ほど働かず、彼には「頑張ります」という月並みな言葉しか言えなかった。鯨波の次に列車が停まったのは、柏崎と言う駅だった。

「新潟チームの学校、確か柏崎だったよね?こんなに近かったんや」

「ほんまやなあ」

ここでいきなり降ろされてのクイズはないだろう、と3人の内の誰もが思っていた。一抜けの東大寺なんかは体力が有り余ってるくらいだろうが、クイ中達は精も根も尽き果てていた。希望的観測通り、列車は何事もなく柏崎を後にした。そこにスタッフが現れ、口を開いた。

「これから、」その瞬間、3人の腹に重いものが落ちた。が、「当分クイズはないです。ゆっくり休んでちょうだいね」この旅始まって以来、ここまででクイ中達を一番安心させた言葉であった。身の回りを整えた後、その言葉を無条件に信じて、クイ中達は青いタオルをかぶって眠りに落ちた。
寝たり起きたりを繰り返していた清水が、現在FIRE号が停まっている駅が何駅かを示す看板を見つけた。長岡駅。右側では古賀が熟睡しており、スタッフがそれを起こす気配もない。ここでも何かが起こることはなさそうだ。そんなことを考えていたら、不意に列車が動き出していた。この感覚は初めてではない。

スイッチバック。昨日苦い思いをした作業が、再び行われたのだ。だが、清水はあまり頓着しなかった。

これが重大な結果につながるようなクイズが出たわけでもない。放っておいても列車はどこかに行くのだ。そう思って、再び眠ろうとした。なにかあれば、スタッフか誰かが起こしてくれるだろう。
押金は、三重の我が家に置いてきた愛犬のことを思い出していた。別にホームシックというわけではないが、家族はきちんとピットの面倒を見ているのだろうかと心配になっていたのだ。あの民家の犬も確かに可愛かったが、まだまだ。やはり、我が家のピットに並ぶ犬はいない。
押金が犬を思いながら窓の外を眺めていたとき、爆睡していた古賀が目覚めた。

「おはよー、古賀ちゃん」

清水はそれより先に目覚めていた。

「あ、おはよう。あ~、爆睡しとった。どんくらい寝とったかな?」

「結構寝てたね?」

「そやね」

「あ、そうなん?・・・!」

 

その瞬間古賀が気付いたのは、列車がバックで走行しているということだった。

 

「またバックしとるやん!どこで何があったん!?」

「長岡って駅だったかな、確かそこでバックしたで」

「なにか説明とか、羽鳥さんがしゃべってたとかは?」

「ん~、なかったね。停まって、待って、そしたらバックし始めて」

 

そう聞いて、古賀は外を見た。車窓の外には田園の風景が広がっていて、日も、鯨波を発ったときに比べると落ちてきていた。広がる田園地帯。

古賀は、バックというからには来た路を戻っているのでは、という考えを持った。妙高高原を越えた頃から直江津辺りまで、田園が広がっていたのを思い出したのだ。もしかしたら既に長野まで、とも考えていた。だが、何かが違った。目の前の川、そんなものがあった記憶はない。

「路線が変わってるね」

「そうみたいやね」

時刻表中の路線図を見てもよかったが、カバンを開けて、それを見て、また片付けるのはかなり面倒くさかったのでやめにした。

「あ、岐阜北から返事が来とるわ」

「え?まじで?」

柏崎を過ぎてしばらく、状況が落ち着いてから、清水は岐阜北の瀬戸口君にメールを送っていた。別れの言葉が交わせなかったので、せめてメールでだけでも、と思ったのである。

「なんて書いてあるの?」

「ほら」

と、清水は他の2人に携帯電話を差し出した。

 

[ごめん、負けた!俺らの分も頑張れ!]

 

 

これでまた1つ、クイ中達の背負う思いが増えた。3人は、その思いに報いるに相応しい戦いをそれぞれの胸に誓う。
疲れて眠っているのか、それとも互いに意識してなのか、チーム同士で言葉が交わされることはほとんどなかった。

 

静かな車内、クイ中達も滞っていたメモを取ったり、景色を眺めたり、雑談したりとしばしの休息を満喫する。日の方角から察するに、針路は南だった。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

これは何 ?

川越高校クイズ研究所大会参加記録 で「針路は南、しばしの休息。」を表示中です。

メタ情報

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。