8月16日、朝陽は昨日と変わらず見えても。

2011年1月10日 § コメントする

[爆勝コシヒカリ!新潟最高!明日早いのでもう休みます。]

・・・どういうことになっているのだろうか?

川越クイ研理事長、諸岡麻由子は古賀からの返事の意味を判じかねていた。

しかし、彼女を悩ませていたのは[爆勝コシヒカリ!]の部分ではなく-この点では、送った当人である古賀の予想と反していた-、後半の[明日早いのでもう休みます。]の部分であった。

[爆勝コシヒカリ!]なんて、どうせおっしー辺りが思いついた言葉だろう。だが、[明日早い]とはどういうことだろうか?クイ中達がNTV側から受け取っていたスケジュールを信じるならば、明日-いや、もう既に今日か-16日は大会3日目、17日は予備日となっていたからもう最終日ということになる。

今まで彼らからはほとんど連絡がなかったので全く様子がわからず、よしめぐと

「別に負けてきたって聞いても怒らへんのになあ」

と話していたほどである。負けてきたのが恥ずかしくて、帰っているのに連絡できないのか、それとも本当に連絡できないのか。[もう寝ます。]と送られてはそれ以上問い詰めることも出来ず-出来たとしても上手くはぐらかされるような気はするが-、仕方ないので彼女も3人の無事を祈りつつ眠りにつくことにした。

 

「・・・あ、おはようございます」

 

「お、おはよう」

「はよー」

 

「今何時?」

 

「5時45分くらい」

「・・・ちょっとトイレ行ってきます」

 

「お?早くも今日の1回目やな?」

 

「今日も記録を更新しそうな勢いやな」

「・・・なんでやねん」

起き抜けでテンション低調の古賀は、洗顔がてらトイレに向かう。どこのチームの部屋かは憶えていなかったが、ドアの外に昨日の祭会場で選んだ写真を飾っている部屋があった。

クイ中達が選んだあの集合写真は、いつの間にやらスタッフに回収されてて行方知れずである。記念に欲しかったなあ、と思いながら用を足し、洗面所に向かう。鏡を見ると、幸いにも寝癖はついていなかった。

大きなあくびをする自分の間抜けな表情を鏡で見たあと、古賀は蛇口をひねって水を出す。この辺り、夏でも朝晩はかなり涼しいようで、蛇口からほとばしる流水も結構冷たく感じられた。

顔に冷水を浴びせて頭を少しずつ覚醒させていると、右手に誰かの気配がした。タオルを取るついでにその方向を見てみると、ピンクのシャツ姿の女の子がいた。山梨英和のメンバーである。

「おはようございます」

先に挨拶してきてくれたのは彼女の方だった。

「あ、おはようございます」

古賀も挨拶を返し、着替えをするために部屋に戻った。今日も一日、あのアロハのお世話になるだろう。この一夜、スペアのシャツを着てはいたが、朝にはアロハに着替えるつもりであった。今更、アロハ以外のシャツに袖を通す理由などない。

「乾いてない・・・」

「俺のもや」

 

清水が昨晩風呂場で洗った靴下は、6時間弱の睡眠時間中に乾くことなく朝を迎えていた。

「どうするの?靴下はそれだけやろ?」

3人の中で古賀だけは、砂浜で靴下を脱いでいたので汚れることもなく、従って洗うこともなかったので無事-裏を返せば、初日からずっと履き続けている-であった。

「しゃあないで、手で持っていくしかないでしょ。ま、そのうち乾くんちゃう?」

「夏だしね」

とりあえず、靴下の乾燥については、太陽と時間とに下駄を預けることとなった。

 

「今日って16日やんね?」

「ん、そやで」

「もう日付があやふやになってきてるわ」

「やろなあ。ほんとにそういうのとは無縁の生活やもんね」

 

「・・・今日で決勝までいくのかなあ?」

 

「もらった日程表やと、もう明日は予備日になってたからね」

 

「やっぱり東京ですかね?」

 

「その可能性は大きいね。でもそうと決まったわけじゃないからね」

 

「先のことは考えやんと、1つ1つがんばってこ」

 

「やね。よっしゃ、忘れ物ないね?」

「ん、ないよ」

「じゃあ行きますか」

日が変わってもそのコンパクトさは一向に変わらないカバンを持って、クイ中達は部屋を後にした。6時間弱寝ただけの部屋だったが、それでも泊まった部屋を出るときには何か寂しいものを感じる。

川善旅館前で点呼をとり、高校生クイズ一行は目と鼻の先にある-道1本をまたげばすぐ、30秒で行ける距離である-JRの小出駅の入り口前に移動。皆、とても眠そうな面持ちである。クイ中達は、てっきり電車を待っているのだと思っていたが、彼らを迎えにきたのは列車ではなくバスだった。

「またバスかよ~」

と、クイ中2号はぼやいた。話を聞くに、一度原地区に戻って記念撮影をするらしい。確かに、一晩泊まらせてもらった-ことになっている-のだから、番組としては別れの挨拶くらい撮っておきたいのだろう。クイ中達も、昨晩渡辺さんと写真を撮ることができなかったので、それについての否やはなかった。

勝ち抜けチームだけが連れて行かれ、朝焼けに染まる昨晩の祭会場であった公民館前広場へ。時刻はまだ7時頃だというのにも関わらず、もう既に、何名かの地元の方は集まっていた。しかし、まだ渡辺さんの姿はない。

「それじゃあこっちの方で撮影するから」

とのスタッフの声に、各員集合。

「あ、渡辺さん!」

クイ中達が待ち侘びていた渡辺さんもやってきて、他のチームの方も揃ったようだ。スチール撮影かと思ったらそうではなく、スタッフ曰く

「映像を撮影して、それを写真みたいに使う」

らしい。

「それじゃあみなさん、カメラの方を向いてください」

との指示に従い、築山の上にセッティングされているカメラに全員が注目する。

「それじゃ行きまーす!5秒前、4、3、」

例のごとくのカウント後、数秒。

「はい、オッケーでーす!」

なんだか実感は湧きづらいが、撮影は終了。もう移動するようだが、各チームは地元の方との別れを惜しんでいて、少し間があるようだった。今しかないということで、クイ中達は昨日撮りそびれた渡辺さんとの写真を撮るために

「渡辺さん、一緒に写真に写ってもらっていいですか?」

とお願いする。奥さん共々快くOKしてくださったので、近くにいた人を捕まえてシャッターを押してもらった。

 

「それじゃあ、頑張ってね」

 

「はい!」

 

「ありがとうございました!」

 

「お世話になりました!」

 

心からの礼を言って、クイ中達はバスに戻った。

再びバス上の人となった高校生クイズ一行。つまり、クイ中2号のテンションは下がりっぱなしである。

彼につぶれてもらうわけにはいかないので、1号は彼の横に座ってなんとか彼の気を紛らわせようとしていた。

一方3号は特にすることもなく、窓際に座って外の風景を何の気なしに眺めていた。彼の隣では、山梨英和の1人-古賀の頼りない記憶によれば、この子は確かリーダーである-が、揺りかごを大きく揺らしているかのように気持ちよく寝ていた。

古賀も可能ならば寝ておきたかったが、枕か何かに頭を預けないと眠りづらいタイプなのでそれも難しかった。

横の壁やら窓に頭をつけると、バスの振動が直接伝わってくる。2号ほどではないにせよ、彼も乗り物には強くなく、乗合バスの比較的エキサイティングな振動を頭に受けてはただでは済みそうにない。

バスの車窓ではいろいろな風景が浮かんで消えてを繰り返していたが、最も古賀の目を惹いたのは、[田中真紀子] (記録班注:当時自由民主党所属の衆議院議員。元科学技術庁長官で、故田中角栄元総理大臣の娘) と大きく書かれた後援会の看板である。・・・そう言えば、あの人の地元は新潟だったなあ。ひょんなところからも、自分達が参加している旅のスケールの大きさを知る3号だった。

バスが停まったのは、昨日高校生達が降り立った浦佐駅であった。…結局、発つのはここからなんやな。クイ中達は思った。あの原地区はこの浦佐駅から結構離れた場所にある。

気のせいなのかも知れないが、川善旅館のすぐ前にあった小出駅の方が、幾分か原地区に近かったように思われた。

わざわざ浦佐に降りたのには何か理由があるのだろうか?勝ち抜けチームが乗ったバスから十数名の高校生達が降り、早朝の-昨日の昼間もそうであったのだが-閑散とした構内へと向かった。

脱落チームはどうしたのだろうか?たぶん、見送り場面撮影の詳細辺りをスタッフに聞かされているのだろう。未覚醒の頭でそんな風に見当付けながら、クイ中達は矢野さんの先導に付いて改札をくぐった。

当然ながら新幹線のホームには進まず、前日に降り立った在来線のホームへ向かう階段を下った。冬は雪国としてその名を響かせる新潟県。夏の夜-少なくとも昨晩は-でも、クイ中達にとってはなかなか涼しいものであった。とはいえ、やはり8月である。朝の陽射しは既に鋭く、熱かった。

「もうすぐ電車が来るからねえ。朝御飯は電車の中で食べてもらうから」

と、天満さん。その言葉の通り、弁当とお茶が入っているらしき段ボール箱が階段を下りたところの横に置かれていた。電車と言えば、FIRE号。高校生たちは当然のようにそう考えていたことだろう。無論、クイ中の3人もそうであった。

「はい、電車来たから下がってねえ」

との言葉に、ふと電車がやって来る方向-日本海側、つまり北-に一同は目を向けた。銀のボディに黄緑のライン、見紛う事なき、各駅停車の在来線である。

「はい、それじゃこれに乗ってねえ」

…え?特Q!FIRE号でぶらりクイズ列車の旅、ではなかったのか?多少は困惑した一同であったが、ここまでNTVの撮影に付き合っていると[こういうことになっているのだ]という妙な悟りも開けてくるらしく、素直にその言葉に従って水上行きの列車に乗車した。

8月16日、全国大会4日目。

今日も、どんな駅に降ろされるか、そこで何が起こるのか、全くわからない旅の始まりである。昨日と変わらず陽は昇っていたが、そう見えるだけだ。昨日と同じことなんて、今日という日には何一つ、そう、何一つ起こりはしない。

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