ボタンまでの遠い道と長い時間。

2011年1月14日 § コメントする

「さむーい」
「寒いなあ。凄いね、霧がかかってるよ、ホームに」

長い道のりであった。一行が到着したプラットホームは、明かりと言えば古びた蛍光灯ぐらいの、暗い空間であった。8月だというのに、白く冷たい霧が漂っていて、昨日の妙法高原を超えてアロハのクイ中達には辛い環境であった。

「みんな、上を見てごらん」

と羽鳥アナが指す方向を、高校生達は見上げた。光は、遠い。

「これは遠いねえ。戻るには、1回は昇らなきゃいけないねえ」

「え?『1回は』って?」

少しずつ、疑念も渦巻き始めてきた。

「・・・ん?君、湯気立ってない?」

意外な一言に、一同は振り返った。神奈川工業チーム、市村さん。羽鳥アナの言う通り、彼女の肩からは、何かオーラのように、白い湯気が立ち昇っていた。それを見たその場の全員は、大爆笑。

息を吐くと、白い。確かに、それなりの運動をすれば湯気も出てくるような環境である。

「向こうの方は真っ暗だねえ。ちょっと行ってみたら?」

そんな言葉に従い、暗闇の向こう側を向いて歩いてみる。

「なんか滑りそうやなあ」

真っ暗な上に、霧や染み出した水で、何かと滑りやすそうな足元である。本当に、こんなところに電車が停まるのだろうか?

とんでもないところにホームなんか建設したものである。

何も知らない乗客がここに降りたらどう思うのだろう?

そんなことを考えながら、ホームの端までやってきた。

小さな階段があり、点検用の通路に出られるような造りになっていた。

「映画にでも出てきそうな場所やね」
「ほんまやなあ。それじゃ戻ろうか」

スタッフがいる、階段下を振り返って歩き出した。そんなとき、ふと古賀が思ったこと。

ここには時刻表すら見当たらない。不意にトイレに行きたくなったとき、まずは462段-と、改札口までの道のり-をクリアしなきゃならんよな・・・。

「いやあ、みんな来ましたね。それでは、ここでクイズを行います」

 

・・・やっぱり、である。

 

「詳しいことは後で説明しますが、とりあえず、上の解答ボタンを目指してこの階段をもう一度昇ってもらいます」

 

・・・再びやっぱり、である。

 

「それじゃあ久しぶりに、私が福澤アナに代わってFIRE!をやらせていただきたいと思います。・・・それじゃあみんな、燃えていけ、FIRE!」
「FIRE!」
「FIRE!」
「FIRE!」
「FIRE!」
「FIRE!」
「よし、それじゃみんな、上で待ってます」

全チーム、各メンバーに何やら妙なベルトのようなものが渡された。そのベルトからは、謎のリード線、さらにその先にはもっと謎なプラグが付いている。

「それじゃあ、それを胸の肌のところに着けてください」

要するに、心電図のようなものらしい。だんだんと、このクイズの趣旨が理解できてきた。

 

「それじゃ、女の子はこっちの方に来てね」

と、神奈川工業と山梨英和の6人は男子チーム-と、スタッフ-から少し離れた場所に連れて行かれた。

 

「それじゃ、まずはこの濡れタオルで胸を湿らせて、そして胸の真ん中にこの金属の部分がくるように付けてね」

 

との説明。

 

見ると、確かに銅らしき色をした金属板がはめ込まれていた。手渡されたタオルで胸を拭き、ベルトを合わせる。濡らすことで体表にナトリウムイオンが発生し、電気が通りやすくなって、などと、古賀が埒もないことを考えながらベルトをいじっていると、カメラが彼の胸を映し始めた。

何も、こんな貧弱な体を映すことはないだろう。古賀は、胸の内、というより頭の中で思った。清水は少しサイズが合わなかったらしく、スタッフのお姉さんに調整してもらっていた。

 

「これぐらいでいいかな?」
「はい、大丈夫です」

 

と答えた清水。心なしかきついような感じがしたが、緩いよりはましだろうと思って気にしないことにした。

彼がその両の眼をベルトから正面の方に戻すと、富田プロデューサーが女子チームの方向を見ていた。

・・・おっさんおっさん。清水は無言のツッコミを入れてみた。

まあ、女の子が気になるのか、時間が気になるのかは、暗かったのでその眼からは判じかねたのだが・・・。

「詳しいルールはもうすぐ説明されるけど、上には解答台とボタンがあります。そこには、皆さんがさっき着けたベルトのプラグの差込口が3つあります。1人ずつの名前が書いてあるので、必ず自分の名前が書かれた穴に差し込んでくださいね」

と、遠藤さんの説明。

「この靴下はまずいよねえ?」

「う~ん、マズいんじゃない?それこそ放送禁止になりそうやでなあ」
「じゃあカバンの中に入れとこう」

クイ中達は、ポケットなどに入った不要なものをカバンの隙間に押込み、ポカリのタオルをそれぞれ肩に担いだ。

・・・一応、体力担当は俺だからな。そう思いながら、押金はカバンの持ち手を両肩にかけ、リュックを背負うような形にした。・・・462段、なんとかなるかな・・・。

『それでは、クイズを始めたいと思います。皆さんには、この目の前の階段を昇って、上の解答台まで来てもらい、そこで、それぞれのプラグを装置に差し込んで頂きます。すると、自分の心拍数が表示されます。一定数になると自分のランプが点灯するようになっていますので、そしたらコードを抜いてください。全員のランプが点灯して、初めてボタンを押すことが出来ます。勝ち抜けチーム数は、4です』

 

階段の両脇に設置されたスピーカーから、上にいる羽鳥アナの声が届いてきた。

いよいよ始まりである。

・・・どうやらこの場合、必ずしも一番で上に行く必要はなさそうだ。

クイ中達がそう考えていたとき、羽鳥アナは付け加えた。

 

『敗者復活の石橋高校には、厳しいですが特別ルールです。君達は、1・2・3フィニッシュで上に到着しなければその時点で失格となります』

 

・・・!

 

クイ中達は、そのとき初めて、昨日原地区で脱落したはずの石橋高校がいることに気が付いた。敗者復活というものはもっと劇的な手段を以って発表されるものだ、と思っていたクイ中達は、口には出さなかったにせよ、不意を衝かれたような心持ちであった。

本当に、いつの間に彼らはいたのだろう?

朝からあまり他チームと交流することがなかったので、ずっと一緒だったのか、つい先程現れたのか、3人には全くわからなかった。

 

「どうします?一気に行きますか?」
「いや、いいでしょ。多分このクイズは、心拍数が高いと困る方のクイズだと思う。だから、そんなに急いでもいかんよ

 

確かに、心拍数を上げるだけなら、その場でスクワットでもすれば済むことである。

「1・2・3フィニッシュか・・・。かなり厳しいルールやね・・・」

「そやね。他チームの誰か、1人でも石橋よりも早く着けばその時点で失格やもんな」

 

今までの復活組の中で最も厳しいハンデだろうなと思いつつ、川越は階段前のラインについた。

「おい、そこ!!映るぞ、下がれ!!!」

トンネルにベテランスタッフの怒声が響いた。相変わらず、現場は緊迫している。

『それでは位置についてください。まず問題を発表します』

全員が、上の光を仰ぎ見た。

『問題、キシャのキシャがキシャでキシャする。さて、乗り物の汽車は何番目?それでは、用意、スタート!』

一瞬、それぞれのチームは様子見のためか、二の足を踏んでいたが、ラインを越えて階段に第一歩をかけ始めた。

「・・・やっぱり行くよね、石橋は」
「うん。走らなきゃ、もう終わりだもんね」

 

そんな彼らにつられてか、クイ中達の足も速くなりつつあった。

「・・・落ち着いて、ゆっくりいこうさ」

急ぎ足は止めたが、一段飛ばしで昇る。全体から見れば、川越はやや先行気味である。やはり先頭は石橋高校であったが、その彼らをかなりのスピードで追う3人がいた。

「・・・東大寺、勝負かけてきたね」
「うん」

 

正直、クイ中達は、石橋を落としにかかるのなら、一番スポーツマンらしい加治木高校だと予想していた。神奈川工業と山梨英和は、やはり女子チームということで1着狙いは無理だと思っていたし、自分達が狙うなんて、体力なしを自認するクイ中達には及びもつかないことであった。

その点、加治木高校は、メンバーの服装からスポーツマンらしく、体力もありそうだった。さらに、かなり失礼ではあったが、東大寺学園チームが体力勝負をかけてくるとは考えていなかったのである。

「ふう、やっと半分か・・・」

 

長い道のりである。上の2チームを見ると、それぞれスピードが落ちているようにも感じられた。

「大丈夫か、おっしー?」

 

清水が声をかける。

 

「・・・おう。大丈夫」

 

3人が後ろの位置関係を見ることはなかったが、思う限りではそれほど変化もなさそうだった。ただ、スピードが落ちてるとは言え、東大寺が石橋追尾を諦めたわけではなさそうである。

 

・・・[キシャのキシャがキシャでキシャする]。

 
先頭争いも気になったが、それ以上にクイ中達には先程の問題の方が気になった。・・・キシャの記者が汽車でキシャする。押金には最初と最後のキシャがわからなかったが、乗り物の汽車が何番目かを聞く問題なのだから、それは不要な部分だった。正解は[3番目]、である。

 

あとはボタンを押すだけ。残りの階段は、あと半分か・・・

 

「さあ、最初に来たのが東大寺学園!東大寺学園が3人揃いました!残念ながら、石橋高校はここで失格となります!!」
「・・・失格しちゃったか」
「やっぱルール厳しかったよね」

 

石橋高校は、がっくりと肩を落としながら、それでも上の方へと歩いていた。

「・・・ちょっと先行するよ」
「うん」

いつも歩みの速い古賀は、2人を置いて先に行き、上で落ち着くことにした。・・・きっと俺、長生きしないだろうな。後ろの2人に心の中で謝りながら、古賀は最上段を目指した。

しかし、それもそんなに遠いものではなかった。できるだけ早く落ち着いて、2人の足を引っ張らないようにするため、古賀は動かずに集中したかった。

 

・・・[キシャのキシャがキシャでキシャする]。

 

・・・汽車の記者が汽車で記写する・・・。

 

鉄道旅行の記事でも作るつもりなのだろうか?

 

・・・聞かれていたのは[幾つ]かだったっけ?

 

[何番目]かだったっけ?

 

・・・汽車が2回出てきているなら、普通は[幾つ]かだよな・・・。

 

「さあ、心拍数上がってますねえ。さあそして、川越高校が1人来ました。そして、加治木高校」

 

古賀は、向かって一番右側の解答台に[川越]と記されているのを見つけ、さらに3つの差込口のうち左のそれに自分の名前が貼ってあったので、説明どおりにコードを接続した。眼前に現れた数字は、163。

 

それにしても、この、ボタンの手前にある穴はなんだろうか?作業用か?

「お疲れ」
「やっと着いた」
「さあ落ち着いて、心拍数を戻していきましょう」

 

時間を追うごとに、各チームのメンバーが揃ってきた。

川越の心拍数は、今のところ押金が140台、清水は170台、古賀は130台である。右隣の東大寺の数字を覗いてみると、先程までのハイスピードが効いたのだろうか、古賀が着いてからずっと、3人とも180台のままである

しばらく、静かな戦いが続いた。

ただし、「さあ、落ち着いていきましょうね」羽鳥アナを除いてである。

「このクイズは、電車の時間もあり、30分で終わらせて頂きます。ここを勝ち抜けられるのは、時間内に稼いだポイントが一番多かった順から4チームです。皆さんがさっき計ってもらった心拍数、これを早く下げることが出来れば、それだけ有利になるわけです。さてこの場合、不整脈は有利になるんでしょうか?」

焦りによって心拍数を乱してやろうという魂胆が見え見えである

そのとき、観光客が来たらしく、その人たちを通すために一番端の石橋の解答台が外されることとなった。その石橋チームは、他5チームの陰となる場所に座り込んでいた。

折角の敗者復活だったのに、相当悔しいところだろう。何もあんなところに座らせなくてもいいのに、と古賀は思った。

「おい、モタモタすんな!早くしろ!!」

ベテランらしきスタッフが、作業中の若いスタッフをどやしつけていた。なぜかこちらが怒られているような気がして、心拍数も上がりそうだった
「よし」

100前後になり、古賀の心拍数表示が消えた。

急いでプラグを抜いた彼は「俺って、さっき計ったときにはこんなに高かったっけ?」と、つぶやいた。

 

・・・確かに、と押金が思ったとき、彼の表示も消えた。確かに、さっきのとは違う。一方、清水の心拍数はまだ下がらなかった。

 

右側を見てみる。東大寺はまだまだ高いが、その向こうの加治木と神奈川は自分達と同じく2人の表示が消えていた。一番向こうの山梨英和の表示は見えなかったが、そんなに差はないだろう

・・・なんで下がらないんだ?

 

・・・[キシャのキシャがキシャでキシャする]。汽車の記者が汽車で帰社するのだから、乗り物の汽車はつだ。あとはこの表示さえ消えてくれれば・・・。

押金が注視していた清水の表示が、108を指した。先程の測定のときに出て来た数字である。これで押せる、と彼は思った。しかし、その表示が消えることはない。

 

・・・なぜ?

一体幾つまで下げればいい?

 

とりあえず、今の彼にとっては、清水の心拍数を下げる方が重要であった。

 

「かっちゃん、数字は見やんほうがええで」
「さあ、川越高校もあと1人ですね」

 

・・・羽鳥さん、余計なことを言ってくれる。

 

・・・それにしても心拍数というものはこんなに下がらないものなのだろうか?

清水は自問自答していた。他の2人のランプが消えてから、かなりの時間が経っている。

多少の焦りも感じていた。ふと清水は、旅の間ずっと持ち歩いてきたクイ研特製団扇を手にし、そこに書かれたメッセージを読み始めた。

『よく考えれば1番喜んどんのはかっちゃんやね。だって1番危険やもん』

・・・確かに、今危険なんだよ諸岡さん。

 

『私はかっちゃんが何かやってくれることを信じております。』

・・・よっちゃん、ほんと何かやっちゃったよ。みんないろんなこと書いてくれてるなあ・・・。

多少気分も紛れたところで心拍数を見てみると、「130」

無常な電光掲示板によって映し出された数字は、清水にかなりのダメージを与えた。

「あまりさっきと変わってないじゃないか・・・」

一旦下がっていたはずの心拍数が、再び跳ね上がってしばらく経っていた。

もう、下がり始めてくれてもいい頃なのに・・・。清水は他の二人からも団扇を貸りることにした。

「おっしーたちのも貸してもらえる?」
「うん、いいよ。かっちゃん、落ち着いてな」
「おう」

 

そんなやりとりの中、羽鳥アナの声が響いた。

「さあ、神奈川工業が3人とも消えました!では行くぞ!」

「問題!キシャのキシャがキシャでキシャする。さて、乗り物の汽車は…」

パン!

「神奈川工業」

「3」

 

ティロリロン!

 

「・・・え?」

 

清水と古賀は軽い驚きを覚えた。順番を聞いていたということは、自分の考えていたキシャのどれか1つが違っていたということである。

2人は言葉を交わさなかったが、ほとんど同じ間違いをしていた。だが、今の清水にとって、そんなことはどうでもよかった。相変わらず心拍数は120~140をいったりきたりしている。

「フゥー」

 

深いため息が漏れる。まだ、神奈川工業以外に、全員のランプが点灯したチームはない。いつまで、神奈川工業の独壇場が続くのだろう?

 

「問題。興奮すると騒ぎ、兄弟の間柄では分け、人間的にあたたかいと…」

パン!

 

「神奈川工業」

 

「血」

ティロリロン!

 

「さあ、神奈川工業2ポイント目です。あ、川越高校と、加治木高校も消えましたね。それでは3チームで参りましょう」
「よーし!」
「よーし、よっしゃよっしゃ!」

 

ボタンに手をかけるクイ中達。特に、清水の喜び様はひとしおである。

 

「問題。昨年、酪農家から出荷された生乳生産第一位は北海道。では、第二位の、日光東照宮で有名な県はどこ?」

パン!

「川越高校」

 

押したのは古賀だった。酪農うんぬんは知らないが、日光東照宮と言えば・・・

 

「茨城県!」

ブー!

 

「残念、正解は栃木県です。誤答・お手つきにはペナルティがあります」

 

その瞬間、ボタン手前の穴の意味に3人は気付いた。

 

「その解答台に手を入れる部分がありますね。それではその穴から札を引いてください

 

古賀は手を突っ込み、4つほどある札の中から1つを選んだ。クイ中達が予想する最悪は、[全段降りる]であった。

 

「何と書いてありますか?」
「150」
「それでは150段戻って、再びこの解答台に戻ってきて下さい」
「なんや、150でええの?」
「ラッキーやね」
「おや?川越高校、嬉しそうですねえ。あ、荷物は置いていっていいですよ」

 

3人は、番組がしていたであろう予想よりも軽い足取りで、再び階段を降り始めた。

150段、462段を予想していた人間に言わせれば、半分にも満たない数字である。
必ずしも1番になる必要はない。だからそんなに急ぐ必要はなかった。

 

3人は、ただ問題を答え、勝ち抜けられればよかったのだが、その前に、ボタンへの道は遠く、まだ長い時間がかかりそうだった。

 

 

そして、清水にとってそれは、さらに長い時間が待ち受けていることを意味していた。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

これは何 ?

川越高校クイズ研究所大会参加記録 で「ボタンまでの遠い道と長い時間。」を表示中です。

メタ情報

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。