時間も鼓動も止まることなく。

2011年1月14日 § コメントする

「よかったねえ。さっきここ昇りながら、『もっかい全部昇れって言われたらどうしよう』とか思ってたからねえ」
「ほんまほんま。それにしてもここ、声響くねえ」
「ほんとやねえ。何か歌いたいねえ」
「SPEEDとか?」
「理事長らみたいに?・・・あかん、こないだ理事長らが歌ってた曲の歌詞忘れたわ」
「やっぱ[さよなら]ですか?」
「やっぱそれになるんですかねえ。縁起悪いなあ」
「ええやんええやん、ええ曲なんやで」

『問題。数を数えるときには折り、欲しくても手が出ないときにはくわえる体の一部分は?』

 

パン!

『加治木高校』

 

『指』

 

ティロリロン!

 

 

『さあ、加治木高校1ポイント目です。東大寺はまだ消えませんね』

「東大寺、まだ下がらんのやね」
「だいぶ走ってたでなあ」

 

この出だしの遅れはどう響いてくるのだろうか?

 

「お?もう150やん」

 

胸から伸びたコードをクルクルと回しながら古賀がつぶやいた。彼と清水は踊り場を踏むと、即座に踵を返した。押金はすぐに戻っていいものか決めあぐね、「戻っていいんですか?」とスタッフに尋ねたが、「いいよ」と言われたので2人に追いつく。

 

「・・・今カメラ独占だよね?」
「ペナルティ1番だし、ここはカットしにくいやろね」

 

まだこんなことを話す余裕もあった。

 

『問題。小麦粉を水でこね、発酵させて、薄く伸ばします。壺型のカマドの内側に貼り付けて焼けば…』

「チャパティ、かね?」

 

解答台のかなり後方にて、古賀の解答。但し、目の前にあるのはボタンではなく、階段のみである。

 

・・・パン!

 

『山梨英和』

 

『チャパティ』

 

「あ、正解やね」

 

ブー!

 

『残念、正解はナンです』

 

『あ、ナンだ!』

 

「・・・あ、どっちか迷ったんやけどねえ。あれってさ、どう違うの?」

 

『それでは山梨英和、くじを引いてください。・・・50段ですね。それでは行ってきて下さい』

 

「・・・ええなあ、うちらの3分の1やん」

「結構ラッキーっちゃう?」
「ほんまやなあ」

 

クイ中3人は、山梨英和のペナルティ段数である50の看板を通過。上からは、その看板を目指す3人が降りてきた。

 

「頑張れー」
「50なんてすぐやで」
「そうそう」

 

彼女達にそう声をかけ、川越はようやく解答台フロアに到着しようとしていた。

 

「我々は帰ってきた」

 

と言った直後に、昨日の金大附属のマネになっていることに気付いて独りで失笑した古賀。その彼が、階段にあった石らしきものを見つけた。こんなところに転がっているには、少し大きい。目を凝らしてよく見てみる。

 

「うわっ、なんやこのでかいカエルは」

 

「うわっ、ほんまや。何でこんなとこにおんねん」

 

そして、ついに150段を往復した3人は、それぞれのプラグを機械につないだ。古賀、120。押金、130。そして、清水は140

 

「問題。オスマン帝国となってからイスタンブールとなった、この都市のある国はどこ?」

パン!

 

「東大寺学園」
「トルコ」

すぐ横には東大寺。プレッシャーは大きい。

 

「問題。平均気温の基準は過去何年間の気温?」

パン!「神奈川工業」

「30年」

ティロリロン!

 

「さあ、神奈川工業が独走しています。でも皆さん、焦ると心拍数が上がりますよ」

 

「問題。何の種類か、わかったところで答えなさい。カッペリ、ダンジェロ…」

 

パン!

「東大寺学園」
「マカロニ」

ブー!

「残念。正解はパスタでした。東大寺、ペナルティです。川越は、まだ解答権がありません」

「よし!」
「ヨッシャ!」

 

・・・長かった。ようやく戻った心拍数。今度こそ正解させる、という気合がクイ中達-特に清水-にみなぎっていた。

 

「問題。俗に三国一の花嫁と言われるときの三国とは中国、日本、天竺のことですが、この天竺とは現在の…」

パン!「川越高校」

 

かなりフリの長い問題、というのが古賀の印象だった。彼は、押すべきかどうか、だいぶ迷っていた。先程の[東照宮→茨城県]は自分でも信じられない位の-しかし、一番自分らしいとは思える-ミスであった。

時間はまだあるだろう。だがこれ以上2人に苦労と足労をかけるわけにはいかなかった。自分のすぐ上に置かれた手に、強く力が込められたのは、そんなときだった。
・・・ノーマルな問題のときは早とちりしちゃいけないんだよな。問題文が読まれている間、清水は頭の中で今回のクイズの傾向を思い返していた。

 

 

簡単な問題ほど一つひねりが加えられる、それが清水なりに分析した結果である。

 

…ひねりの部分は、もう読まれた。ここしかない。日野春以来、約40時間ぶりに彼は早押しボタンを押した。

 

「インド」

ティロリロン!

「よし!」
「ナイスかっちゃん!」

 

やっとつかんだ1ポイント。まずい雰囲気を引きずることなくここで正解できたのは、精神的に大きな安心をもたらした。今日初めてのタッチを、3人は交わした。

 

「問題。今年、作家の町田康が芥川賞を受賞した作品は?」

パン!「加治木高校」
「きれぎれ」

 

ティロリロン!

 

「・・・しまった。逆なら、中部の朝に新聞で調べてたのに・・・」

 

 

今年の問題で必ず触れられるだろうと、古賀は朝の時間ギリギリまで新聞を読んでいた。結局中部大会では発揮されることなく、そのまま虫に食われていた記憶が、こんなところで蘇る。

 

「問題。JISマークのJIS、略さずに、日本語で言うとなんと言う?」

 

パン!「川越高校」

 

清水には全くわからなかった。押したのは古賀だということはわかっていたが、かなり心配なのは事実であった。
一方、古賀にとっては久方振りの得意ジャンル問題であった。いささか問題の転じ方が多少強引に感じられ、それが不安ではあったが、大丈夫だろう。

 

Japanese Industrial Standard・・・「日本工業規格」

 

ティロリロン!

 

「ィヨッシャッ!」
「ナイス」

 

「問題。英語では『メイフライ』、儚い命の代名詞として用いられる、この昆虫は何?」

パン!「神奈川工業」

 

押したタイミングは、[儚い命]。古賀は躊躇から後の文章を待ってしまい、コンマ数秒差で押し負けてしまった。

 

「カゲロウ」

ティロリロン!

・・・トンボはドラゴン、

ホタルはファイア、

そしてカゲロウはメイ・・・。

 

危ない橋は渡れないとはいえ、悔やまれる躊躇である。

 

「問題。[バイオハザード3]で、路面電車を動かすのに必要な道具は、電気コード、混合オイルと、もう1つは何?」

・・・今、今何故[バイオ3]

一体いつ出たゲームだと思ってるんだ?

押金と古賀は、そう胸の中で毒づいた。2人とも、[2]ならばやった経験がある。・・・どのチームも、押す気配を見せない。

・・・ブー!「わからなかったんでしょうか?正解はヒューズです」

 

・・・帰ったら、[3]をやろう。そう心に決めた押金であった。


「日本の祝日で、漢字だけで表されるのは、天皇誕生日、憲法記念日と何?」

パン!「川越高校」

 

押したのは清水だった。その瞬間、クイ中達は正解を確信した。

1号の得意ジャンルが記念日であることは、自他共に認められている。一年最初から1つ1つ確かめてもいいが、早押しでそんなことはやってられない、と清水はその計画を頭の中で却下。

それに最近こんな感じの問題をやった覚えもある。ということで答えは、「建国記念日」・・・それしかないでしょ。次に来るはずのブザーの音が、3人の脳裏には既に流れていた。

・・・ブー!

思わず清水は舌を出し、押金もそれにつられた。・・・なんで違う?

 

おかしいところなんてどこにも・・・

 

「・・・!あ、そうや!建国記念”の”日やった!」

 

古賀がそう気付いたのは、「正解は元日です」と羽鳥アナが言う少し前だった。

 

「川越高校、ペナルティです」

 

今度は50段。救いがあるとすれば、前のペナルティの3分の1だということくらいだった。
・・・よりによって自分が不正解してしまうなんて。清水は階段を歩きながら、何度もこの言葉を思いの中で繰り返していた。…自分が1番心拍数下がるの遅くて、1番迷惑かけてるのに、その自分が間違えてしまうなんて、ごめんな、おっしー、古賀ちゃん。しかし謝っていてもしょうがない。

また必死になって、というか落ち着いて心拍数を下げるしかない。そのことは2人にも十分わかっていた。

 

「グリコでもやってこか?」
「よし、ジャンケンポン」
「チ・ョ・コ・レ・ー・ト…やっぱ辛いでやめにしません?」
「…そやね」

さっきのカエルはどこかに行ってしまったようだ。

…あいつはのんきでいいな。お前にもこの緊張感を分けてやりたいよ。

そう、どこにいるとも知れないカエルに語りかけながら、3人は再び解答台のところへ戻ってきた。

古賀、120。押金、130。清水、140。

 

「問題。仕事をサボる、のように使われる言葉[サボる]。もともとは、フランス語のどんな言葉を略した言葉?」

「・・・サボタージュ」

 

クイ中達は、誰ともなくつぶやいた。その声を、ボタンを押した上で言えないのが、彼らにはとてもやり切れなかった。

 

パン!「山梨英和」
「サボタージュ」

ティロリロン!

 

問題があり、答えがわかり、ボタンが目の前にある。しかし、それを押すことは出来ない。答えることに情熱を注ぎ続けてきた3人にとって、これほどもどかしいことはなかった。

 

 

時間と鼓動、日頃止まることのない、また、止まってはならないものだと理解はしている。だが今、その事実ほど、素直に受け止め難いものはない。

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