眼下の暗闇、眼上の陽光。

2011年1月14日 § コメントする

一度は抜けた改札口をまた通る。向かって右手に進めばもと来たホームへ進む。だが、ここまで待たせといてそっちに進むことはないだろう。他方、左手の通路を見ると、曲がり角があって、そこから先をうかがうことはできない。

外での[トイレ休憩]中にこの駅の外観を眺めていると、駅舎から屋根付きの通路が伸びて、駅前の道路を横切り、その先の川が流れているらしい谷まで横切って、山にぶつかって、そこから先もまだ伸びているような、そんな雰囲気が認められた。恐らく、この改札口左手通路はその通路なのだろう。

その先がクイズの舞台であることだけには、疑いを挟む余地はない。

「それでは参りましょう」との羽鳥アナについて-このときもクイ中達はちゃっかりと彼の側にいた-高校生一行は歩き出した。

 

スタッフの指示から、「何か話しましょう」ということになる。

「それにしても君、そのアロハは凄いねえ」と、羽鳥アナ。

「それって金魚?」その話の話題は、リーダー2号の黄色い金魚アロハである。

「そうっすよ、凄いでしょ?どうですか?」
「う~ん、それは放送ギリギリだねえ」
「マジすか!?」
「フフ、どうするよ、おっしー?」
「放送禁止は困るなあ」

押金を始め、清水と古賀も大ウケである。

「そう言えば、改札口の方に[日本一のもぐら駅]ってあったけど、どういう意味だろうねえ?」
「さあ、どうなんでしょうねえ?」
「モグラでもいるんじゃないんですか?」
「どうなんだろうねえ?・・・なんか、だんだん涼しくなってきたねえ」

羽鳥アナの言葉にうなずく一行。彼ら彼女らは、少しずつ理解し始めてきた。この先に何があるのかを、[もぐら]という言葉の意味を、この先に待つのは、トンネル、しかも普通じゃないトンネルだろうということを。

「それにしても、これはカナリ気合の入ったトンネルやなあ」

と、押金。だが、壁にはガラス窓があり、思いっきり陽の光が射し込んでいた。

「ここ、まだ外ですよ」

とツッこむ古賀。

「あほー!わからんのか!?だからこそ気合入っとるんじゃあ!」
「・・・そういうもんなんですか?」
「そーゆーもんなんじゃあ!」
「・・・すいません、わかりました」
「よし、それならいい」

 

いつもの冗談トークである。そして、細い通路を抜けると、急に広い空間が広がった。横の窓からの光もまぶしいその空間だったが、一行の眼前を塞いだのは、斜めになった天井であった。

「はい、それじゃあここで一旦停まってね」

と、後ろのチームを待つ。恐らく、ここから地下に下っていくのだろう。だが、この下り通路の横幅は、クイ中達が普段利用しているような駅の階段のそれの比ではなかった。

細くて長い通路はたくさんあるが、広くて短い通路は意外と少ないものである。その幅から、地下への道のりの長さを察することは比較的容易であった。

そして、一行が入ってきた空間に目を転じて見ると、スタッフ一同がスタンバイし、かなりの数の機材が準備されている。目の前の深そうな通路と、これだけのスタッフ。少し勘が働けば、おぼろげながら予想というものもついてくる。そして、それはあまり楽しいものでもないということもわかっていた。

 

「それでは、皆さんにこの駅の日本一たる由縁をお見せしましょう!」

高校生達十数人がフロアに到着し、羽鳥アナについて再び歩きだした。

 

「・・・うわ」
「さあ、この駅の日本一!」
「おおー!」
「長さが338m。全部降りると、462段。これがこの駅の日本一です!」

 

今まで、これほどまでに深く伸びる階段を、3人は見たことがなかった。眼下の暗闇は、深く、重く、冷たい。

「はい、みなさん。降りるのは少し待って下さいね。この旅も3日目、かなりハードな日程でしたので、番組としては皆さんの体調が心配です。ですので、ここで看護婦さんに健康診断をして頂きます。それじゃあ、お願いします」

 

目を転じると、ナース服姿の女性がこちらに向かって歩いてきていた。古賀が見る限り、確かにその人は看護婦さんであった。あの、足を挫いた柏原高校のメンバーの具合を診ているところを、何度か目撃している。

他のスタッフも「看護婦さん」と呼んでいたのだから、正式な看護婦のはずである。古賀の脳裏に引っかかったのは、そちらに対する疑いではなく、その服装についてであった。何も、ナース服は白よりピンクの方がいいというような話ではない。

彼女は、今の今まで、他のスタッフ同様私服姿だったのである。なぜ、この期に及んでわざわざナース服を着る必要がある?

「それじゃあ、最初は山梨英和の伊東さんから」

彼女は、羽鳥アナに指名された英和チームの1人の手を取って、脈拍を測り始めた。先の問いに対する答えは明白だ。この場面には、放送の可能性があるということである。なぜ放送する?普通の健康診断なら、ひっそりとやってもいいではないか。やはり、答えは明白である。

これが、この次のクイズに関係あるということだ。

「どうですか?」
「はい、脈拍は問題ありません」
「それじゃあ次の人にいこうか」

脈拍だけで終わるのが、この健康診断に対する疑念をさらに強めさせた。普通、健康診断というものは、下まぶたの裏側の色を診てみたり、喉の方を診てみたりと、いろいろするものである。

以上の様々な要素から弾き出された答え、それは、NTVは高校生達の健康なんて(本格的には)気にしていないんだろうなあ、ということであった。
・・・とまあ、なんだかんだと言っても、健康診断と言われて脈を測られるのは、やはり緊張する。

「はい、もういいですよ」
「どうも」
「彼の脈拍はどうでした?」
「93ですね。問題ありません」

そして、「問題ない」と言われればやはり安心する。安心した古賀の次は、リーダーの押金である。

「86、問題ありませんね」

やはり一安心。3人のトリは清水。

「108ですね」
「108、少し高いですね。大丈夫なんですか?」
「はい、特に問題はありません」

お墨付きも得て、清水は小躍りした。

「脈拍トップやで~」
「やりましたねえ」
「おいしいなあ」

こういうところでは、何はともあれおいしいもの勝ちである。

「108ですね」
「あ、彼も少し高いですねえ」

 

最高脈拍数を清水とタイの数字で飾ったのは、東大寺の田部君であった。

「かっちゃん、並ばれたねえ」

古賀がそうつぶやいたとき。同じ東大寺の安達君には更なる診断が下された。

「ちょっと不整脈がありますねえ」
「・・・それって、大丈夫なんですか?」
「はい。あまり問題はありません」

[あまり]とはどこまでを[あまり]と言うのか、医療用語は[オペ]や[クランケ](記録班注:オペは手術、クランケは患者の意)くらいしか知らないので、それこそ[あまり]安心できるものではない。

だが、本人には嬉しいことではないだろうが、安達君に対する不整脈診断はTV的においしいものと感じられた

「それでは参りましょうか」

と、(とりあえず)問題なしとの診断を受けた一行が羽鳥アナについてようやく階段を降りようとしたときだった。

「観光客が来るから少し待って!」

との遠藤氏の声。

故に、高校生達はその家族連れに道を譲る。

「はい、そっちに観光客が行くから少し待ちます。どうぞ」

無線で下に指示を送る遠藤氏。撮影スケジュールが押しているのかどうか知る由はないが、時間が有り余っている、とまではいかないだろう。この中断も、あまり愉快なものではないはずである。

だが、「折角の夏休みなんだから、思い出作ってもらわなきゃいけないだろう」と遠藤氏は言った。

「全員下まで降りた、はい了解。それじゃ本番、カメラスタンバイ。それじゃ高校生、降りるからね」

遠藤氏の号令で、全員が荷物を持って階段の第一段目に立つ。

「ハイ、それじゃ本番行きまーす。5秒前、4、3・・・」
「それじゃあ行きましょう。みんな荷物ちゃんと持ってるよね?持ってるね」

一行は、それぞれの荷物を携えてぞろぞろと階段を下り始めた。

「いやー、すごいねえ。駅の構内とは思えないよねえ」

とは羽鳥アナの弁。クイ中達、全く同感である。普通、こんな階段には、エスカレーターの類があって然るべきなのだ。それどころか、古賀にはここならケーブルカーを走らせてもイケるんじゃないのか?などという考えまで浮かんだ。

進行方向左手には、赤い看板に白抜きの文字で段数が示されていた。ようやく50。[終着駅]のプラットホームなど、見えるべくもない。

「みんな、ちゃんと付いてきてる?後ろの方が少し遅れてるね。じゃあちょっと待とうか」

 

数十段おきかに置かれている踊り場、それも上から数えて何番目のものだろうか、ようやく道のりの半分を示す数字が白字でペイントされた所までやってきた。

ふと両脇を見てみると、地下水が染み出てくるのだろう、それを流すための水路-と言うよりも斜面-があった。それにしても、かなり気温が下がってきた。

「まだ底が見えそうにないねえ。それじゃ、後ろの人達も追いついたみたいだから行こうか」

ふと清水は、当初掲げていた友達を作る計画を思い出した。そこで、大きな荷物を抱えた神奈川工業のメンバーに話しかけてみる。

 

「荷物たいへんそうやね」
「うん。けっこう重いんだよね」
「袋破れちゃったの?」

 

途中で破れてしまったのか、荷物袋を東京都指定ゴミ袋に入れて担いでいる。

「そうなの。だからスタッフにゴミ袋をもらったんだけど、誰かがほんとのゴミ袋と間違えてゴミ入れていったんだよねー。違うって!って感じやった」
「へぇーそれは失礼な話やな」

こうして、また友達の輪を広げることに清水は成功した。一方古賀は、今まで下ってきた道を振り返ってみた。まだ、闇の底に足を踏み入れているわけではなかったが、しかしそこから見る陽光は、遠く、そして、小さかった。
高校生達の心には、同じような思いがあった。次のクイズは、眼下の暗闇の中なのか、それとも眼上の陽光の中なのか。どちらに転んでも確実なことが一つ。

 

それは、自分達が踏んでいるこの階段は、クイズの素材として、無視するにはあまりにも惜しいものだということである。

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