戦いの扉の先。

2011年1月22日 § コメントする

古賀が日本テレビの扉をくぐって初めて思ったこと、それはやっぱり『マイスタ』のことだった。

彼は、あのスタジオはてっきり入り口すぐ側にあって、だから福澤さんや羽鳥さんはあんなに簡単に出入り出来ているのだと思っていた。

しかし、彼が建物に入ってすぐに目にしたのは、スタジオではなく2階に続く階段だった。よくよく考えれば普通はそうだよなあ、とやはり1人で納得しながら彼は他の8人と共に3人のスタッフに連れられて階段を昇り、2階へ。富田氏は、やはり手続きがあるのか受付けに行き、高校生たちはロビーのソファーで座って待つ。少し経つと呼ばれ、何やら書類にサインを求められた。

TV局に一般人が入るのは、こんなに面倒なことなんだなあと思いながら名前を書くクイ中達。その隣では、土居さんと矢野さんも同じ書類に名前を書いていた。

 

「あれ?2人もかかなきゃいけないんですか?」

 

「そうだよ。だって俺達バイトだもん」

 

「あ、そっか。でも、一応スタッフだから通してもらえるんじゃないんですか?」

 

「正社員じゃないからね」

 

「そういうもんなんすかー」

 

所定の欄を埋めて受付けの人に渡すと、なんだろう君のマークが入ったチケットのようなものを渡された。それには『1回入構許可証』と印刷されている。

 

「それを守衛さんに渡してゲートを通って」

 

と言われ、各々制服姿の守衛さんにゲートを開けてもらう。古賀は以前、TV局はテロなどによる乗っ取りの危険性を小さくするために、階段などの構造が複雑になっていたりセキュリティが厳しくなっていたりすると聞いたことがあったが、今その片鱗を身を持って味わった。

 

相変わらず重い荷物を担ぎながら、富田氏に従って歩く11人。

気象予報室と貼り紙された部屋や『ゴールデンタイム視聴率三冠王!』という社内ポスターなどの前を通り過ぎた先に、幾つかの椅子が並んだ広めのロビーがあった。そこでタバコを吸う人には、数人見覚えのある人が混じっている。

そして、その先には青く大きな両開きの扉。

 

「・・・このスタジオか」

 

誰ともなくつぶやいた。

 

「それじゃ、こっちに控え室があるから」

 

と、9人はその青い扉の横にある扉から、控え室に通された。

 

「お、いわゆる楽屋ですか?」

 

と古賀。

 

「あ、お菓子とジュースがある!」

 

との声も。確かに、テーブルの上を見ると菓子類盛り合わせとペットボトルが数本ある。お菓子はともかくとして、暑いので飲み物はクイ中達にとって嬉しいものだった。

 

 

「うわ!めっちゃ柔らかいやん!」

 

「何か、体操とかバレエとかやってたん?」

 

「いや、この子の趣味は柔軟体操だから」

 

「あ、そうなんすか」

 

楽屋では、神奈川工業の藤田さんがその柔軟性を披露していた。それに対抗して土居さんも挑戦してみるが、結果は、古賀に最高のシャッターチャンスを与えただけだった。

決勝戦は2時から行われると言われているが、まだ1時20分過ぎで時間は沢山ある。

東大寺、神奈川工業、そして川越の3チームは、決勝直前とは思えないほど和やかな雰囲気の中で待ち時間を過ごしていた。もっとピリピリしたムードを想像していた古賀にとってはそれが少し意外だった。

彼のイメージでは、こういうときにはそれぞれのチームが別の個所に固まって、話すときも小声で、というようになっていたのだ。だが、今の状況はそれとは全く逆であり、全員でテーブルを囲み、大声で談笑までしている。

彼にとってそれは嬉しかった。そして、もっと言ってしまえば、あえて決勝をやる必要はないんじゃないかとまで思い始めていた。しかし、その考えは振り切らなければならないとも自分でわかっている。ここまで来たら最後まではっきりとケリをつけなければ気がすまないのは、誰であろう自分自身なのだ。

決着をつけたい、つけたくない。両方ともが同じように自分の思いなのだと知っているからこそ、クイ中3号の頭の中は堂々巡りを繰り返していた。そして、それは1号と2号も一緒だった。

この時間が、クイズも何も関係のない、ただ楽しい旅の延長のような気がしてならないのである。振り払おうとしても、雲はなかなか晴れない。そんな小さな葛藤を、彼らが笑顔の下で繰り返していたとき、どこへ行っていたのかいなくなっていた富田プロデューサーが控え室に戻ってきた。

 

「どのチームが優勝すると思う?」

 

ふと、彼は3チームにそんな疑問をぶつける。

・・・この人は自分達に、決勝前から心理戦でもやらせようってのか?

と、古賀は思った。だが、サッカーや柔道などならともかく、クイズでは必勝の秘策などないのだから腹を探り合っても仕方ない。ならばMr.Tはどんな意図で質問をしたのだろう?そうは考えながらも、質問に対する答えは決めた。

一瞬だけ横に座るチームメイトの眼を見たが、2人の選ぶ答えもきっと同じだろう。

 

・・・

 

「なんで私らのとこにはどこも指ささないの?」

 

と、冗談ぽく言った神奈川工業の3人。その彼女達は東大寺を指し、東大寺は川越を指していた。

流れとしては、クイ中達は神奈川工業を指すべきだったろう。

しかし、彼女達には悪いと思ったが、ずっと憧れてきた東大寺学園を指さないわけにはいかなかった。

 

「やっぱり東大寺が本命かあ」

 

そこに演出の遠藤氏が、タバコを吸いながらやってきた。昨日までの高校生クイズのスタッフTシャツと違い、きちんとした襟付きのシャツを着ていた。

周りや控え室の外をよく見てみれば、ロゴ入りスタッフTシャツを着ていたのはバイトの土居さんと矢野さんくらいで、日テレ正社員-少なくとも正式な番組関係者-はほとんど全員が私服(?)姿である。不意にMr.Tが遠藤氏を見、彼を注意する

 

「高校生の前で煙草吸うってのはよくないんじゃないのか?」

 

「あ、そうですね」

 

と、遠藤氏は火を消した。そのやりとりを真横で見ていたクイ中達は思った。

・・・よく考えてみれば、この2人が会話しているところをまともに見たのはこれが初めてじゃないのか?

以外にない取り合わせだよな・・・。

 

聴き慣れた声に、部屋の9人はその目をドアの方に向けた。

 

「あ!」

 

「わ!」

 

「福澤さんだ!」

 

そこには高校生クイズ司会者、福澤朗アナウンサーが立っていたのである。9人にとっては、あの日野春駅以来3日ぶりの再会であった。

 

「あと10分くらいで本番です。よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

「第20回大会、優勝すれば新世紀の旅と研修費用ですか~」

 

そう言えば、優勝賞品は『新世紀の旅』っていう話だったなあ。忘れていたわけではないが、古賀はあらためて思い出した。

・・・ん?

研修費用?

 

「え?優勝って、旅行だけじゃないんですか?」

 

「ん~、まあそれは最後のお楽しみですかね」

・・・毎回、賞品は旅行だということはなんとなく知っていた。研修費用も毎回のことなのだろうか?だとしたら、今のでいつも番組を見てないのがバレバレだな。クイ中歴2、3ヶ月の3号はそう思った。

 

「それじゃもうすぐ本番ですけど、リラックスしていきましょう。では、よろしくお願いします」

 

「お願いしまーす!」

 

 

古賀は2度目のトイレに立った。毎度毎度のこととなってしまったが、本番中にトイレに行きたくなって集中出来ないより何倍もマシである。もうすぐスタジオ入りだった。

やっぱりトイレに行きたくなるのは緊張しているからなのだろう。

…決勝はどんなものになるのだろうか?

トイレを出、彼は歩きながら考えた。日野春で1抜け、鯨波で最後から2抜け、原地区で1抜け、そして土合でギリギリの4位抜け。

FIRE号を降りて行われてきたクイズを、自分達はやたらと浮沈の激しい順位で通過してきた。

・・・だが、この折れ線グラフから考えれば、・・・もしかしたら決勝は・・・。

・・・いや、やめよう。むやみに希望を抱いても、ロクなことはない。首を振ってあらぬ考えを捨て、彼は控え室に戻った。そして間もなく、9人はついにスタジオ入りとなった。

クイ中達はクイ研の赤団扇を握り締めて控え室を出る。9人は、この夏最後の扉をくぐった。

 

戦いの扉の先がどんなものか、その予想がつかないのは毎度のことであり、クイ中達が出来るただ一つのことも、今までと大して変わらなかった。ベストを誓う、それだけである。

 

 

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