始まりの時は満ちて。

2011年1月23日 § コメントする

青い扉をくぐってまず古賀が見たのは、たくさんのスタッフだった。前にはパイプ椅子が並べられ、スーツ姿の男性が数人座っている。まだ数に余裕があるところを見ると、まだ人は来るのだろう。

長く黒いカーテンで囲まれたスタジオの中心を押金が見ると、3つの早押し台と1つの司会者台があった。3つの早押し台には、それぞれのチーム名が白く刻まれたプレートが置かれている。

清水がその台の背後を見ると、『All Japan High School Quiz Championship』という文字のブロックが吊るされていた。・・・これ、日野春の使い回しだな。彼は見るなりそう思った。そして、それぞれの台についた3チーム。正面向かって右が神奈川工業、左が東大寺学園、そして真ん中が川越高校である。

「それじゃ、マイクとボタンのチェックをします。東大寺から順番にボタンを押して、大きな声でチーム名を叫んで下さい。それじゃ、まず東大寺」

パン!

 

「東大寺学園!」

 

「はい、それじゃ川越」

パン!

「・・・せ~の、川越高校!」

 

「最後、神奈川工業」

パン!

「神奈川工業!」

 

「ハイ、ありがとう」

装置の試験が終わったところで、

「よろしくお願いしまーす!」

と、9人の前に再び福澤アナが姿を現した。手には何枚かのカードを持っている。あれに決勝問題が書かれているのだろう。彼は、パラパラとそれに目を通し、司会者台でトントンと揃え、そして口を開いた。

「それじゃあ、参りましょうか」

スタッフの動きが少し大きくなった。クイ中達も、来るべきときが来た、という表情で福澤アナを見た。

「じゃあね、照明は上からだから、顔はちょっと上目にしておいた方がいいね。1チームずつ紹介していきますから、ライトで照らされたときにはまっすぐ前を向いて。インタビューなんかをしていくけれども、そんなに深く考えずに、緊張を解くくらいのものと思ってもらえればいいからね。カタくならなくても、オンエアではほとんど使われないから。僕の言ってることすらほとんどカットされちゃうくらいだから」

彼は9人にそう言葉をかける。言われるように正面を向いた古賀は、暗いスタジオを見回した。

映す側-つまり視る側-から見たスタジオは立派だが、こうして映される側から見てみると結構殺風景で、遊びの空間も多いように感じられる。ただ、これが普通なのかそうでないのかまでは彼には判じかねた。

「それじゃ、よろしくお願いします」

「お願いしまーす!」

「お願いしまーす!」

「それでは本番参りまーす!5秒前、4、3、・・・」

「今世紀最後の夏を最高の夏に最高の夏にするのは一体どのチームでありましょうか?ライオンスペシャル全国高等学校クイズ選手権。3日間に渡って走り続けた特Q!FIRE号の旅。走行距離、およそ730キロ。駆け抜けた駅の数、163駅。50チームによって、しのぎを削りました。いよいよその、クライマックス、決勝戦を迎えようとしています。さあそれでは、日本一をかけて戦う3チームを紹介いたしましょう。まずは、神奈川県代表、神奈川工業高等学校!」

パチパチパチパチ!スタジオ内に拍手が響いた。

 

「私ですね、素直に言わせて頂くと、君達がここまで来るとは思っていませんでした」

「ハハハ!」

 

スタジオの全員に笑顔が浮かぶ。・・・正直に言わせてもらえれば、失礼ながら自分もそうだった。と、思っていたのは古賀である。4日前の機山館での開会式で

 

「天然ぽいね」

 

などという会話を押金と交わしたことを彼は思い出していた。よく思い出してみれば、クイ中達の両サイドに立っているチームは、両方ともあのとき彼らの話にのぼったチームである。感慨深いものがあった。

 

「ではお隣です。三重県代表、川越高等学校!」

 

パチパチパチ!クイ中達は、深く礼をした。

 

「埼玉の川越高校ではありません、ということをしっかりと言っておかなければいけませんねえ。いろんな人から、『埼玉の川越高校でしょ?』とか言われるの?」

「はい」

「かなり・・・」

「はあ、そういうときは何て答えるんですか?」

・・・しまった、そこは普通にノーマークだった。クイ中達はそう思った。なんだかんだ言いながらもイッパイイッパイで、インタビュー対策はしていなかったのである。

・・・くそっ、何か考えてくりゃよかった。そうは思ったものの、後悔先に立たずである。

 

「・・・『三重です』と」

「『三重県の、川越高校です』と」

・・・普通だ。どっちつかずは逆に救えないんだろうな。

「はあ。さて、三重県代表が決勝進出を果たしたのは・・・」

・・・初めて、とクイ中の誰もが思った。

「第2回大会の県立伊勢高校以来2度目です」

「・・・へえ、そうだったんや」

「てっきり初めてかと思っとった」

「俺も」

つぶやく3人。

 

「そのときの成績は第3位ですね。2位以上になれば、歴代の三重県代表としては最高の成績となります」

「ところで、川越高校は県下でも有数の進学校らしいですねえ」

「・・・そうなんですか?」

と、懲りずに古賀。半ば本音である。・・・進学校は進学校だが、『県下有数』と言われては素直に首を縦に振れない。だが、言った後で悔やんだ。万が一放送されたら、リアルに痛い。

 

「素晴らしい学校です」

 

見ていられず、清水はフォローに入った。・・・古賀ちゃん、無理をするな。

 

「さて、まずは古賀君。今回のクイズで一番印象深かったことは何ですか?」

「・・・そうですね、日野春で一抜け出来たことと、鯨波で一生分綱を引いたことですかね」

「そうですか。学校ではバドミントン部に所属しているんですか。スポーツマンなんですね~」

断崖の際を行く古賀に、さらに追い討ちがかかった。・・・なぜ、ここにきて部活の話題にいくんですか、福澤さん!?本気でそう思った。

 

「はい、まあ」

 

・・・部活関係を突っ込んでも、何も出てこないんですよ。申し込み用紙には『得意技・もののけ姫』だとか、もっと掘り出し甲斐のあるネタを書いておいたのに・・・。

 

「腕前としては、どんな塩梅なの?」

 

この質問は古賀にとってトドメに等しいものだった。クイズにかまけて部活や練習会をサボった高校生に、その実力を聞いてはならない。

 

「・・・ボチボチ、ってところですかね」

 

彼の心中を知ってか知らずか-おそらくは後者だろうが-、福澤アナは追撃の手を緩めなかった。

 

「ボチボチというと?」

「・・・え~と、1回戦負けです」

・・・十中八九、カットだな。

 

「はあ、なるほど。さて、お父様の一孝さんからのメッセージです」

 

神奈川工業へのメッセージは全てそれぞれの母親からのものだったので、古賀は苦笑しながら少し不思議に思った。男子は父親からなのか?などと無根拠なことも考えている中、福澤アナは続けた。

 

「『自分の目指す物が手の届くところまできたのだから、悔いのないよう全力で頑張って下さい』と、結構冷静におっしゃっていたそうです」

自分で予想していた以上に感謝して聞いていた古賀に、福澤アナはまだ続けた。

 

「続いて、お母様の典子さんからのメッセージです」

 

・・・合わせ技ですか・・・。これには古賀も意表を衝かれた。

 

「『驚きました。まさか決勝までいってしまうなんて。今は、優勝して欲しいのが半分、して欲しくないのが半分です』と、いうことです。これ、どういうことなんでしょうかねえ?」

「・・・どういうことなんでしょう?」

 

そうは言いながらも、古賀は思った。うちの母親、目立つことがあんまり好きじゃないからなあ。

 

「続いて清水君」

「はい」

「お母さんの貴美子さんからのメッセージです。『そうなんですか!?せっかくそこまで行くことができたのだから、悔いのないようにがんばりなさい』とのことです。お母さん結果とか知らなかったみたいですね。旅の途中に連絡取ったりしていなかったの?」

「ええ、あまり・・・」

「そっかあ、じゃあけっこうサッパリした関係なんだねえ」

「そうですねえ、わりと」

 

別に仲が悪いわけではないが、これといって連絡してもしょうがないだろう、と思っていた清水は、この旅の間、家とほとんど連絡を取っていなかったことに気がついた。

しかし家出をしているわけでもないし、所在は分かっているのだから問題はない、と彼は一人で結論を出していた。

 

「押金君、お母さんの節子さんからメッセージ頂戴しました」

 

押金も苦笑した。

 

「『えらいことになりました!本人も、何があるかわからないと言っていたのでビックリです。今、家族は大いに盛り上がっています!』」

・・・盛り上がるだろうなあ。なにせ言った本人が一番驚いているんだから。押金は思った。

 

「という川越高校、埼玉県じゃありません、といったところで頑張って下さいね」

「さて、最後は奈良県代表、東大寺学園高等学校!」

パチパチパチパチ!

 

「名門東大寺であります。もし優勝すれば、同一高での2度目の優勝という快挙ですよ」

同一校でニ度目の優勝。意外と言えば意外なのだが、これまで19回行われた大会で同じ学校が二度優勝したことはない、らしい。確かに、クイ研が図書室に入れてもらった高校生クイズ第1回から第15回までの本に載っている優勝校はすべて違っていた。本が発行されなくなったそれ以降の大会でも、連続地区代表はあった-クイ中達の乏しい記憶では今回の高知県代表もそうであった-にせよ、二度の優勝をした学校はない。

 

「ラーメンが好きで、近畿のおいしい店は大体食べ歩きました」

 

と言う室田君に対し、福澤アナは店の名前を尋ねてメモを取って笑いを誘った。

・・・それにしても、まさか、東大寺と決勝で戦うことになるとは。それはクイ中全員の思いだった。3人にとって、東大寺は、甲子園で言えばPL学園のような存在なのである。

この旅では、いつでも彼らの危なげのない戦いぶり-この点では、川越クイ中と本当に対照的である-を驚きの眼で見てきた。・・・だが、ここまで来たからには、無様な戦いはできない。これが3人の総意だった。

 

「ではルールを説明します。ルールは、問答無用の早押しクイズです。お手つき誤答はマイナス1ポイントです。10ポイント先取で優勝決定、今世紀最後の高校生クイズ、第20回記念大会のチャンピオンと輝くわけでありますねえ」

福澤アナがルールを説明した。恐らく、この第20回大会で一番説明が楽なクイズだろう。

 

「・・・ちょっと手の重ね方を変えてみやん?」

 

清水が口を開いた。

 

「どういう風に?」

「古賀ちゃんと僕は手の平じゃなくて、指をボタンに置くんさ。んで、おっしーはその上に手を重ねる。これでそれぞれの力がボタンに伝わりやすいやろ?」

「お、そやね」

「じゃあこれでいこうか」

 

3人は清水の提案通りに手を重ね、クイ研の団扇は腰の後ろのベルトに差し、そして、始まりの時は満ちた。

 

 

「・・・それでは、参りましょう!ライオンスペシャル第20回全国高等学校クイズ選手権、決勝戦!

 

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中

これは何 ?

川越高校クイズ研究所大会参加記録 で「始まりの時は満ちて。」を表示中です。

メタ情報

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。