山梨から長野。車窓の外の夜は更けて。

2011年1月10日 § コメントする

「福澤さんも大変やね。明日には普通にズームインやるんやろ?」

「もう帰ったらしいよ」

「あ、そうなん?明日はどうなるんやろねえ?福澤さんは朝忙しいから早朝からはクイズできんよねえ」

 

福澤アナのスケジュールを案じる古賀。正直なところ、毎年熱心にこの番組を見ていたわけではないが、こんなに首都圏を離れてクイズをやるのは初めてだろう。

福澤さんはこの期間中、クイズとズームインを往復するのだろうか?

旅館を出ると、小雨が降り始めており、あのステージがもう解体の半分ほどを終えていた。

スタッフに連れられ、日野春の駅舎へと向かう。すると、先に向かう一行は脱落チームの拍手に迎えられた。

彼らの旅はここで終わりだった。

その拍手に感謝しながら改札口を抜ける途中、3人は松川生徒会チームの姿を見た。

「頑張れよ!」

イカしたもみあげの持ち主、林君の声に、

「ありがとう!」

と言い固い握手を交わす清水。中部の戦友の激励を胸にして、通路を渡るクイ中達。

「いい人達やったよね」

「そやね、それに面白かった」

「ここでお別れか」

勝者の影には、常に敗者がいることを思い知らされたシーンであった。

 

次第にスピードを増すFIRE号。3人は、電車を見送る全ての人の顔を見極めることができなかった。

 

「松川が抜けたのは惜しいよなあ」

「そやねえ」

 

そうは言っても、とりあえず第一回戦(だか何だか)は突破した。クイ研への面目も立つ。今夜は枕を高くして眠れそうだ。最も、枕があればの話だが。

 

「やっぱりここで寝るんやろうなあ。冷房効き過ぎっちゃう、ここ?風邪ひかなきゃいいんやけどなあ」

古賀はつぶやいた。この旅は体力勝負、風邪が一番の天敵だと彼は考えていた。

「それじゃあ、今日はお疲れ様。今日は車中でゆっくり休んでください」

ああ、やっぱり車中泊か。覚悟してはいたが、これで一筋の望みも絶たれた。

「寝る前に、持っている時計と携帯電話、携帯の方は電源を切ってこの袋にまとめて下さい。回収はしないけれど、それぞれのカバンにしっかりとしまってもらうから」

その声に従い、クイ中達も時計と携帯電話をスヌーピーの巾着袋に収納する時間は大体11時45分。これは一体何を意味するのだろう?考えてはみるが、それよりも眠気の方が先に立ってしまう。

そこに、スタッフが青くて大きなタオルを配り始めた。[POCARI SWEAT]、スポンサーからの提供だろう。中部大会でも配られていたような記憶が3人にあった。

「お?嬉しいねえ、バスタオルは東京に捨ててきたからねえ」

「でもカバンの容量は増えないんだよね」

「肩にでも掛けていくしかないね」

続いて薄手の毛布も配られて、完全ではないものの、[防寒対策]もきちんと整った。

 

FIRE号は山梨を抜けて長野へと向かう。

車窓の外の夜は更けて、少しずつ寝静まった車内。クイ中達も眠りに落ちていた。目覚めたときにはどこにいるのか、誰にも教えられぬまま。川越高校、第1日目を無事通過。

 

明日も無事に、という保証はどこにもないが、とりあえず彼らにできるのは思いっきり眠ることだけだった。

 

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初日突破、クイ中達の短い休息

2011年1月10日 § コメントする

「お、1抜けか?どこの学校?」

「三重の、川越です」

先手を打って県名も答えた3人。

まだクイズが進行しているであろう、あのステージの方向をちらっと見てから、クイ中達は旅館に入っていった。

スタッフについて奥に進むと、畳が広がりエアコンの効いた広間に着いた。そして弁当とお茶が渡され、味噌汁が配られると、スタッフも旅館の人も部屋を出て行った。

「何か飲み物買ってこようか?」

「ええの、おっしー?」

「ええよええよ。もう今日は何でもするで」

「・・・そやねえ、それじゃあ俺は炭酸系以外で」

「僕は炭酸系で」

「OK!弁当食べとってええよ」

と、押金は自販機を探しに出ていった。

「それじゃあ頂きますかねえ」

と、古賀は弁当のフタを開け、割り箸を割った。何時間振りかの食事である。

「かっちゃん食べやんの?」

「なんか食べる気しやんのやわ。てか何でこんな状態で食えるの?」

「何でやろなあ?とりあえず腹減っとったんやて。昼少なかったやろ?食べとかな体に悪いで」

 

古賀は、清水の半ば呆れた顔を尻目にして味噌汁のお椀のフタを開け、溜息をついた。タマネギ入りの味噌汁。古賀は苦手とする料理と、1日に2つも出会うこととなった。

「・・・こやんね」

他のチームはまだやって来ない。先ほどのクイズに関する積もる話も一段落つき、気になるのはやはりどこのチームが勝ち上がってくるのかである。

「中部勢にはやっぱり上がって来てほしいよなあ」

「そやねえ」

約1名を除き、食の進まないクイ中達。ほぼ半日、列車にカンヅメ状態。豪華列車の旅でよかった。

と、清水と古賀は思っていた。バスに弱い押金は、2人以上に列車での旅に感謝していた。

例年通り、移動の度にバスを使っていては体がもたない。3人それぞれのペースで食事をしていると、不意に廊下の方から声がしてきた。

複数、2抜けチームがきたようだ。箸を止め、じっと入り口を見つめるクイ中達。障子を開いて現れたのは、「はい、じゃあこっちねえ」まずはスタッフの人だった。

続いて現れたのは、はっぴを着た3人。

「おめでとう!」

「お疲れ!」

 

川越クイ中が拍手で迎え入れたのは、長崎代表佐世保高専だった。

「長崎かあ。俺、田舎が佐賀なんやて」

と、古賀。彼は久しぶりにネイティブの九州弁を聞くこととなった。彼は、家族が今九州にいることを思い出した。

「弁当クイズって九州大会でもなかった?」

と、中部大会で出された弁当をにらみ続けた清水が尋ねた。

「あった。ほんとにこの番組のおかげで疑うってことを学んだけんのう」

「九州大会も辛かった?」

「辛かった。最後には大分まで連れてかれたけんのう」

「最後って、タライ漕ぎ?」

「そう」

「なんか中部って地方性がなかったなあ。消防署で『放水!』やもんねえ」

「そやねえ」

「話変わるけど、三重ってどこか知ってる?」

「知っとるよ。うちの奴らで鈴鹿サーキットでやってたロボットの大会に出場したのがおるけん。近くに住んどるとか?」「どうやろ?近いんかな、かっちゃん?」

「近いでしょ。僕は鈴鹿のサティまで自転車で行ったで」

「あれってサーキットの近くなん?」

「鈴鹿ですから」

 

以下、佐世保高専での寮生活などが話題となる。と、再び廊下の方から足音が。6人は入り口に目をやった。3色の甚平姿、千葉代表船橋高校の3人が拍手で迎えられた。
「どのポーズで行く?」

「もちろんクスヒコさんピースでしょ」

「行きますか?」

「チーズッ!」

パシャッ!1、2、3抜けのチームで写真撮影。クスヒコさんピース、これは両手でピースをつくり、さらに人差し指と中指とを閉じて、顔の前に八の字をつくるように構えるポーズのことである。このポーズの由来は清水の携帯電話の裏にある。よっちゃんがそこに貼った、彼女の叔父のプリクラ。

清水はそこに写ったヒゲのオジサンのポーズをえらく気に入り、クイ中のオフィシャルポーズとしたのである。クイ中達はこの機会にクスヒコポーズを全国に知らしめるという壮大なる野望を抱いており、すでに昨晩の写真撮影キャラバンにてその進行は始まっていた。

写真を撮り終え、食事に戻る各チーム。川越の3人は、佐世保高専チームからあるものを受け取った。

「なにこれ?」

と、押金。

「センベイ?」

と、清水。

「九十九島や!」

と、古賀。

「九十九島せんぺい。俺達はまだ持ってるけん、食べて」

「せんぺい?」

と、不思議そうな顔をする押金。

「そうそう、せんぺいで正しい。なかなかいけるんよ、これ。久しぶりやなあ」

懐かしそうに語る古賀。彼は九州への思い以上に、甘いお菓子が恋しかった。

「ほんまや、おいしいわ!」

清水も甘いものが恋しかったくちである。一応昼にはケーキを食べているが、あれとは違う味わいがあった。その点では、昼に思いがけず羊羹を食べてしまった古賀も同様であった。

「米子東も来たねえ」

「来ましたねえ」

食事を終え、次々とやってくる勝ち抜けチームを待つ3人。中部勢は、まだこない。

「こやんなあ、中部地区」

「来ませんねえ」

2週間前に消防車の横で、昨夜はTVで野球を見ながら本戦での健闘を誓い合った戦友達との別れとはこんなに早く訪れるものなのだろうか?また廊下からどこかのチームがやってきたようだ。だんだんと、やってくるチームの間隔が狭まってきたようだ。障子が開いた。3人の目に映ったのは、見慣れた詰襟の制服のチームだった。

「磐田南ぃー!」

「来たー!」

 

と、大喜びで迎え入れる川越クイ中。

「おおーっ!」

「きれいやねえ」

旅館の西の方角に打ちあがった花火。アロハと詰襟の6人は普通に喜んでいた。

「あれは静岡の花火やな」

「また大きいですねえ。ここであの大きさなら、静岡では大変なことになってますねえ」

「・・・ところであれってさっきみたいなクイズのための花火なのかな?」

「どうやろねえ?」

「それにしても、ほんとあっちで何が起こってるのかわからんねえ」

「そうだねえ。休憩と言うより隔離だよね」

「そうやね」

「あっ、ジュラルミンだ!」

時間は9時前、タイムリミットまであと十数分。他の中部勢は、まだ来ない。

[初日終了。無事に生き残っております。]

・・・恐るべし、クイ中。どこにいるのかもわからない3人から三重へと送られた連絡は、川越クイ研秘書の脇谷幸枝を驚愕させるに十分な内容だった

。理事長以下、他の幹部も同様であった。[今日、おっしーはかっちゃんに惚れ直しました。]古賀からの報告に、火元取扱責任者の吉田めぐみは笑みを隠せなかった。

仲良きことは美しき、そう思いつつ、彼女もクイ中達の明日の健闘を祈る。クイ研全員が応援している。だから頑張れ。

「もうすぐ9時やな」

「正確にはあと16秒」

 

古賀のつぶやきに答えたのは佐世保高専のメンバーだった。

「えらい正確やね。時報にあわせたん?」

「ズームイン朝にあわせたけん、見ててみ」

 

クイ中3人がTVに目を向けた。日テレ系列、ここらへんならTV山梨だと古賀は考えていた。日テレで、月曜の夜9時から始まるのはスーパーテレビである。

「・・・4、3、2、1、0!」

「ぴったしや」

 

9時、タイムリミットである。勝ち抜けチーム数は、明らかに30には足りなかった。

「時間は来たけど、会場からここまでには多少なりとも距離があるわけやで、もうどこもやって来ないとは限らんよ」

まだ、来て欲しいチームがあるんだ。清水は祈った。午後9時10分、岐阜北は現れなかった。

「9時に終わったんと違ったん?」

「なんか福澤さんが『時間は来ましたが、せっかくだからあと20問くらいやっちゃいましょうか』ってこと言って、それで勝ち抜けてきた」

「いやあ、よかったよかった」

 

岐阜北、福澤アナの粋な計らいで無事に勝ち抜ける。

9時を大分過ぎ、もう諦めていた川越と磐田南の6人が岐阜北の3人を見たときの驚きは相当のものだった。ほとんどの席が埋まっていたため、クイ中達は自らの席を譲った。

「いやあ、ラブニューよかったなあ!」

心配し通しだった清水の喜びもひとしおである。ちなみに、ラブニューとは清水が岐阜北の武藤君につけたあだ名である。その由来は彼が着ているTシャツの絵にある。アイラブニューヨーク、略してラブニューである。とりあえず食事中の岐阜北チームにトランプを借りて、川越と磐田南は大富豪を始めた。それにしても、ここにはいつまで[監禁]されるのだろう?もしかしたら、今夜は本当はこの旅館に泊まることになるんじゃないのか?

 

「よし、ちゃっちゃと終わらすで!」

「時間は無駄なほどあったんやで、もっと早く入れさせてくれてもよかったよなあ」

「やねえ」

クイ中達のシャワータイム、但し10分間の制限つき。

スタッフはシャワーを浴びろと言ったのに、シャワーは1つ、カランは2つ。

「風呂入れるんちゃうの?」

と、清水はフタを開けた。押金は洗髪中、古賀は洗顔中である。

「なんや、お湯入ってるやん」

と、清水はゆっくり足をさしだし・・・

「うぁっちっ!!」

「熱っ!」

 

前者は無論清水の、後者は飛沫を背中に浴びた古賀の悲鳴である。

「水っ!水っ!」

「・・・大丈夫かっ!?」

「・・・何とか。なんやこれ!?めちゃめちゃ熱いやん!」

「飛沫でもめっちゃ熱かったもん。ほんまに大丈夫なん?」

「たぶんね。ちょっとこれ水入れた方がよさそうやなあ」

「いい感じになるころには10分経ってると思うよ」

「それは困る」

 

しかし清水の努力は功を奏さず、湯船につかることはできなかった。

「古賀ちゃん、先行くでえ」

「ちょい待って、そんなひどいこと言わんといて」

 

例によって古賀は1番遅い。大部屋に戻った3人は磐田南と共に再び大富豪を始める。

さっぱりとはしたものの、服装はやはりアロハシャツ。真実を述べるのならば、下着や靴下も何ら変わらずである。そのとき、座敷に新客がやってきた。12人、4チーム。

「敗者復活や」

「やっぱりやってたんやなあ」

「何してたんやろ?」

 

男子が6人、女子が6人、時計を見るともうすぐ11時である。

地元の山梨英和も敗者復活を果たしている。辺りの声に聞き耳を立ててみると、敗者復活は絵を描くことだったらしい。

町の人の投票で多くの人の支持を得た4チームに復活の切符は渡されたのである。

「うちらだったら絶対無理だよね」

「そやね」

この3人、絵心は持ち合わせていない。

「それじゃあ勝ち抜けチームのみなさん、駅の方に移動しますので準備をして下さい!」

そう言われて、洗面用具その他をカバンに詰める3人。もう手馴れたものである。荷物を持って、各チームが部屋を出るとき、復活組はまだ食事中だった。彼らはシャワーも使えないのだろう。この旅、待たせるときには思いっきり待たせ、急がせるときにはさらに容赦なく急がせる。

「あの子、俺の親戚に似てるなあ」

押金は食事中の1人を見てつぶやいた。

「どの子?」

と、古賀。

「ほら、古賀ちゃんの右手の山梨英和の子」

「へえ」

見ると、背中にはWeの文字が。ただ、古賀は押金の親戚を知らないので似てるかどうか確かめようはなかった。
今から別の宿舎へ移動ってことはないな。

3人は諦めていた。考えられるのはただ1つ、車中泊。高校生クイズらしいと言えば、そうでもある。短い休息を終えて、3人は旅館を後にした。車中泊か。

唯一の救いは電車に乗り遅れる心配がないことぐらいである。

信じて待つ者、待たせる者。

2011年1月10日 § コメントする

「ええ、会場にお越しのみなさん、もしクイズの正解がわかったとしても決してそれを叫んだりしないで下さい。
TVではふざけてやっているようにも見えますが、我々は本気でやっております」
マイクテストを終えた福澤アナの声が会場に響く。
そして、カメラが一斉にまわりだす。

「すっぽりと夜の帳がおりました。
東京から約6時間。ここ日野春駅で行われるのは[3人バラバラ別れて出会い!発車まであとちょっとよクイズ]です」

会場にざわめきが走る。
バラバラだって!?

「それではルールを説明いたします。早押しクイズで解答をし、正解したらその人は、
特にチームを最初に抜ける人には自分達の荷物を持って、あちらのゲートから退場して頂きます。
トリプルチャンスまであり、お手つき、誤答は2回休みです。
3人が抜ければ、そのチームは勝ち抜け、勝ち抜けチームは30です。
しかしみなさん、あのスクリーンをご覧下さい」

川越の3人も背後にあるスクリーンを見上げた。
19:47。古賀は自らの左腕に目をやった。現在の時間である。・・・タイムリミットか・・・。

「現在19時47分です。列車の時間もあり、21時0分、午後9時にはどんな事情があろうと強制終了させて頂きます」

再びざわめく会場。
清水は2人を見た。ここは作戦が重要だ。

「古賀ちゃんは最後まで残って」
「え?」
「一番答えられる確率が高いのは古賀ちゃんだから。頼むよ」
「よっしゃ。わかった」
「それなら俺は1抜けすりゃいいんやな?」
「そやね。古賀ちゃん、僕らがわかってもおっしーに教えるんやで」
「OK」

作戦は立った。

「よし、行くで?」
「よし」
「おっしゃ」

クイ中達は赤いボタンに手を重ねた。

「みなさん、時間はあるんだからもっとゆっくりいきましょうよ」

との福澤アナの言葉に、会場は大ブーイング。

「わかりました。それでは参りましょう」

「問題、君達を乗せてここ日野春駅までやってきたこの列車。特急何号?」

パン
「船橋高校!」

・・・速い。
ええと、あの列車なんていったっけ?
パノラマエクスプレス・・・「FIRE号!」
ティロリロリロン!

「正解、1人勝ち抜けです」・・・!?
アルプス号と違うのか?

・・・高校生クイズらしい問題といえばそうだが。
古賀は半ば強引に納得した。

「問題、発車オーライのオーライ。英語で書くと・・・」

オールライト、そう思った瞬間に3人の力はボタンに向けられた。
パン!

「佐賀西高校!」
「オールライト!」

くそっ、押し負けたか!・・・ブーッ!

「発車オーライのオーライ。英語で書くと、Lは何回?ダブルチャーンス!」

パンッ!

「開成高校森永チーム!」

やはり押し負けたか。

「3回!」

ブーッ!ガガガッという音がステージに響く。

「トリプルチャンス!」

パンッ!
「川越高校!」
古賀は、どうやら自分の台のサインがついているようだ、と気付いた。
何か札のようなものが上がってくれれば解答者にもわかりやすいのだが。
・・・答えるのはおっしーか?いや、かっちゃんがいくようだ。
押金と古賀が清水を見た。
清水は眼で返事をし、マイクへと顔を近づけた。
Lが3回なら、オールライトは[全て光]になる。
オールライ

トのLは・・・

「2回!」
ティロリロリロン!
「正解!1人勝ち抜けです」
清水は2人と手を叩き、ステージ下にある荷物を持って会場を出た。

・・・[all right]、[全て正しい]。
少しは英語科らしい答えが言えたかな?

「問題、列車は乗車、船は乗船、では飛行機は?」

ガガガッ!
パンッ!ブーッ!
くそっ、わからん!
「ダブルチャンス!」
ガガガッ!
パンッ!
「松川高校!」

長野代表松川高校、いけてる生徒会チーム。
押金にとっては中部大会決勝前のバスの中以来の付き合いである。

「搭乗!」

「正解、1人勝ち抜けです。ちょっと、知恵袋が抜けたようです。ここらへんも勝負のあやとなります」

 

日野春駅舎。ここにいるのは、いまのところ2人だけである。

「みんな抜けてこれるか心配やね」
「そうだね」

清水と、船橋高校の男子が1人。
本当に誰か来るのだろうか?と、どこかで見たような男子高校生が1人やってきた。

「おお!?松川やん!」

やはり、同じ予選をくぐり抜けた人間と一緒にいられるのは心強い。
それにしても、何もできずに待つだけ、というのには辛いものがある。

「問題、日本語に訳すと直線軌道、ここ山梨に実験線のある夢の超特急は?」

パンッ!

「・・・くそっ、押された!絶対に今のは押してたぞ!」
「何かおかしいよなあ?このボタン、調子悪いんとちゃうの?」

 

・・・「リニアモーターカー!」

 

 

ティロリロリロン!

 

「正解、1人勝ち抜け」

 

 

また1人が荷物を持っていこうとしている。
しかし、見つからない。

「こうしている間にも、時計は進んでいます」

福澤アナの声で、会場の全員がそのことを思い出した。
呪いのこもった声なき声が、ステージ下のただ1人に突き刺さる。
ようやく荷物を見つけ、[高校生クイズ]の文字プレートをまたいで退場しようとする。
ガタ。荷物がプレートにぶつかった。スタッフが確認に走る。

「大丈夫ですか?はい、そうですか。セットが壊れると、修理するまで時間がかかってしまうので気をつけて下さいね」

・・・いいから、早く問題を出してくれ。会場のイライラは募る。

「問題、次に挙げる元素記号を順番に並べるとできる言葉は?窒素、ヨウ素、リン、リン、酸・・・」

パンッ!

「膳所高校!」
「NIPPON!」
ティロリロリロン!
「正解、2人勝ち抜けです」

・・・ついに2人抜けのチームが出てきたか。1番じゃなくてもいい。何番でも、勝ち抜けれればいい。
かっちゃんがいつも言ってることだ。でも、やっぱりいろいろ考えてしまう。

「ようしっ!」
「ようしっ!」

気合の入っている滋賀代表、膳所高校。
ついに2人抜けのチームが現れたか。
思ったより早かったな。膳所の2人を見て、少し弱気になる清水。
だが、信じなければならない。きっと、いや、必ず来る。来てもらわなきゃ、困る。

「問題、サザンオールスターズのTSUNAMI、一筆書きできないのはTと何?」

パンッ!・・・押し負けた。
Aだ。

「沖縄尚学!」
「A!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです。電車のない沖縄からはるばるやってきました。こんなに長いこと電車に乗るなんて始めてのことじゃないですかねえ?」

そしてゲートから、また1人が退場した。

『1番線を列車が通過いたします。ご注意ください』

隣でクイズをやっていようが、通常通りの運行なのだろう、列車は日野春駅を通過していく。

「列車が来るようですね。それまで少し休憩いたしましょう」

そして、それは往々にしてクイズの運行を順調にさせてくれない。やはり会場からはブーイングがあがる。

「問題、ミツバチが巣穴をふさぐために作る、今注目の・・・」

パンッ!

「熊本学園!」
「・・・プロポリス・・・」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです」
「あちゃ、プロポリスだったか!」

嘆く古賀。押金も、少し不安になってきた。チームメイトを待たせているというのに・・・。

「急げ!」

見ると、熊本の勝ち抜け者が無表情で、しかもすこぶるゆっくりと歩いている。何十対もの眼光が彼を突き刺す。
それでも歩みは変わらない。仲間の声がしても、急ぐ気配は見えない。

「憮然とした表情で、風呂敷包みを下げて出て行きました・・・」

TV的にはおいしいかも知れないが、今の俺達はそれどころではない。彼は駅舎に向かう間も、駅舎に着いてからも、ずっと無表情であった。

「問題、フィリピンから世界中に広がった、Eメール・・・」

パンッ!「柏原高校!」
・・・今のもいけた。決心をつけるのが遅いんだよな。
そんなことを考えながら、古賀は時計をのぞいた。

「アイラブユー!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜け」
「焦らんでいいよ、古賀ちゃん」

押金は古賀を落ち着かせた。

「いやあ、健気ですねえ。彼女の高感度、上がりますねえ」

見ると、柏原の女の子が荷物を持って懸命に歩き、文字プレートのところに差し掛かり・・・。
ガンッ!スタッフが走る。プレートが少し歪んでおり、修理が必要らしい。それでも時計は動く。このクイズ、精神衛生上あまりいいものではない。

「問題、人気の絵本、[すしあざらし]。パパはトロ、ではママは?」

パンッ!
「神奈川工業!」

・・・んなもんわかるかっ!ボタンに手を置いたまま、2人は心の中で毒づいた。

「いくらママ!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜けです。ノースリーブのお姉さんです」

荷物を持って、彼女も会場を後にした。早く行け、という無言の圧力を背に受けて。
福澤アナ曰く「正解したのに、何でこんな眼でにらまれなきゃいけないの、といった表情でしたねえ」

「問題、本年度アカデミー賞・・・」

パンッ!
「速っ!」

速いなんてものではなかった。あんなところで問題の先を読みきれたというのか?

「・・・わかりません」

ブーッ!

「本年度アカデミー賞、[ミュージックオブハート]で主演女優賞にノミネートされた女優は誰?ダブルチャンス!」

パンッ!
押金は青い光が自分達の台の前部に点っていることに気付いた。
「川越高校!」
彼は古賀の眼を見た。
・・・今のはいけた。
確実に1番だった。
早押しというものを実感。古賀は押金の目を見、そして耳打ちした。おっしーならこの女優の名前を絶対に知っている。
古賀は押金の映画知識に賭けた。

「・・・メリル・ストリープ・・・」

時間はない。伝言できるのは1回だけ。
押金はマイクに口を近づけた。聞こえててくれ・・・。

「メリウ・ストリープ!」

押金には申し訳ないところだが、古賀にはそう聞こえた。
伝言がまずかったか?判定よ、少しは大目に見てくれ・・・。
ティロリロリロン!

「ッシャー!」

押金が手を差し出すと、古賀はそれを握った。

「待ってろ!」

との声が、押金の背中に届いた。古賀ちゃんならやってくれるだろう。
かっちゃんも寂しがってるだろうし早く行ってやらないと。

「次に来るのが古賀ちゃんやったらどうしようなあ。おっしーが最後でもいけると思うけど・・・」

清水がそう心のなかで呟いている、ちょうどそのときだった。
眼に黄色いアロハシャツが飛び込んできた。赤い団扇も持っている。
見間違いは、絶対にない。

「おっしー!」
「かっちゃん!」

時計で言えば数十分、しかし清水には長い時間であった。

「古賀ちゃんに答え教えてもらったんや!」
「そうか!」

若干の狂いはあった。しかし、作戦はきちんと機能している。あとは古賀ちゃんを信じるだけだ。彼ならきっとやってくれる。まだ待つかも知れないが、おっしーがいる。1人よりはずっと楽だ。
[永遠に美しく]。
たいして面白い映画じゃなかったけど、見ててよかったなあ。
古賀は、1週間少し前にTVで見た映画を思い出していた。
主演はメリル・ストリープ。放送後のお知らせで、[ミュージックオブハート]の宣伝がやっていた。
それにしても、最近映画を見に行かなくなった。見たい映画は結構あるのだが。
そんなことを考えつつ、古賀は赤いボタンに自らの両手を重ねた。
そして、映画の次に彼が思い出したのは、授業でやった心肺蘇生法だった。手首の付け根で、垂直に、体重をかけて・・・。

「問題、3をかけると111、6をかけると222、9をかけると333。この数字は?」

・・・2人ともゴメン、これは俺の担当じゃないわ。
どっちかって言えば、いや、これは絶対かっちゃん担当の問題やもん。
古賀は、3をかけると111、と読まれた時点でこの問題を捨てていた。

パンッ!

「富山東高校!」
「37!」
ティロリロリロン!
「正解、1人勝ち抜け」
勝ち抜けはしばらく先になりそうだ。

 

「今何時や?」

と、左手に目をやる押金。

「まだ時間はあるから。古賀ちゃんならきっと来る」

清水はそう言い、駅舎を見渡した。船橋、松川、膳所、東大寺、その他諸々のチームの人達が仲間を待っている・・・。今、僕らには信じることしかできない。

「問題、名前が変わる中央省庁、通商産業省は経済産業省。では、大蔵省は?」

[名前が変わる中央省庁]と聞いて、真っ先に思い浮かんだのはあそこだった。
そして、通商産業省がどう変わるのかは知らなかったので、古賀はそこまでの問題文をを聞き流した。
耳に[大蔵省]と入ってきたとき、もう待つ必要はなかった。

パンッ!
「川越高校!」
「財務省!」

・・・ティロリロリロン!

「ファイヤー!!」
「ヨッシャー!!」

古賀の叫びと福澤アナの叫びが重なった。
そして、古賀はクイズの進行を妨げぬように、そそくさと会場を飛び出した。
赤い団扇を握り、カメラに向かってガッツポーズをとりながら駅舎へ向かってダッシュする。
彼の目に、駅舎の前に立つ赤と黄色のシャツが映った。

「・・・ファイヤー!」

おぼろげながら聞こえた福澤アナの声。
ただの勝ち抜けではない。どこかのチームの3人目がやってくるのだ。

「・・・ヨッシャー!」

・・・あんな叫び方をする人間は、そうは見つからない。
「来たか!?」と、押金と清水は駅舎の外に出た。ステージの方向を見る。青いシャツ、
赤い団扇、あの叫び。

「オオーッ!!」
「ヨッシャーッ!」
「ウオーッ!」

1号と3号が抱き合い、続いて2号もその輪に加わった

。叫び止まないクイ中達。輪を解き、ひとまず駅舎へ。堪えきれず、もう一度ガッツポーズを決めたクイ中3号、古賀。3人は改めて握手をし、1抜けを喜び合う。

「来るとは信じてたけど、早かったねえ」

「ありがとう。はー、やれやれ」

「最後はなんやったん?」

「通商産業省は経済産業省になりますが、では大蔵省は何になる?てな問題。とりあえず、ここで落ち着こう」

興奮冷めやらぬ古賀。

「喉渇いたわ。自販機あるんかな?」

「この近くにはなさそう」

「はぁ、そうか。そう言やさ、何かをかけると111、この数字は何?とかって問題が出てね。あれ、いくつかけるんだったかな?1だったかな?かっちゃんわかる?」

「1をかけると111?それは違うんじゃない?」

「・・・違うか。まあいいや」

「なんか俺、メッチャかっこ悪いなあ。自分で答えてないってのバレバレやん」

「てかおっしー、あのとき少し噛んだやろ?」

「ええっ?俺きちんと言ったで、『メリル・ストリープ!』って」

「そうかあ?それよりもメリル・ストリープって知ってたよねえ?」

「知っとったで。俺も考えてたら、古賀ちゃんに言われて、そうや!って思い出したんよ」

「ちょっと前の金曜ロードショーでやってた[永遠に美しく]って見た?それにメリル・ストリープ出とったんよ。その後で[ミュージックオブハート]の宣伝もやってた」

「ああ!あれか!俺そんとき少ししか見てなかった!」

待合室の隅でよもやま話に興じる3人。後続が来る気配は、ない。

「それじゃあ、あっちの旅館に移動して食事してもらうから、ついて来て」

「あ、やっと食えるんや」

「行こう行こう」

と、スタッフに連れられて、あの[長坂]町長お勧めの旅館に向かう。拍手で3人を送るスタッフの中には、昨晩高砂の部屋にやったきた天満さんもいた。彼女にも会釈をし、ようやくの食事に向かう。
待たせた者は信頼に応え、待った者の思いは報われた。川越クイ中、第1日目の関門を突破。1抜けが大きくはカットされることはきっとない。少しは目立つことができた。

これでひとまずは、運とマグレで来たとは言われないだろう。

日野春、本当の力が試されるとき。

2011年1月10日 § コメントする

「この路線で一番富士山に近い駅は甲府だよ。まだ富士山は見えないけど、品川であんだけでっかく問題出してそのままほったらかし、ってのはないんじゃないかなあ?」

と、古賀。彼の言う通り、未だに富士山に関するあの問題について答えはおろか、富士山そのものの話題すら出てこない。

「だいぶ後の方になって、『ここで品川での問題の結果が・・・』なんて言われたら困るよなあ」

「わからんよ」

と、古賀に相槌を打つ清水。FIRE号は甲府で停車。駅は上り、東京方面へ向かう人々で混雑している。そういえば今は世間で言うお盆の季節である。東京へ観光に行くのか?

それとも、もうUターンは始まっているのか?

下りの列車の中にはディズニーランドの土産袋を持った家族がいた。彼らはいい夏を過ごしたのだろうか?車内から駅を眺めながら、押金はそんなことを考えていた。もう、外も大分暗くなってきた。今日はこのまま終わるのだろうか?それよりも、いつ晩御飯が食べられるのだろうか?
夜の甲府盆地、パチンコ屋やゴルフ練習場を横目にしてなおも走り続けるFIRE号。すでに、富士山からは離れ始めている。と、ついに列車が動きを止めた。

『さあみんな、外をご覧あれ!』

福澤アナの声に従い、外に注目する一同。すると、青い光の棒が何十本と現れた。

 

「なんだ?」

 

一瞬、古賀はそれが何か判別できなかった。

 

『ここで本日のクライマックス、クイズを行います!さあみんな、降りて降りて!』

 

・・・早押し台。

 

46チームで早押しをやるのか。光の棒の正体を知り、一抹の不安を抱く古賀。ここで、本当の実力が試される。押し勝つことができるのだろうか?そして、下車する一行。ホームの中ほどで止められる。

「それではみなさん、ご覧あれ!」

線路を隔てた会場のオーロラビジョンに映し出された〔Welcome to the Quiz station〕の文字。「イエーイ!」一行のテンションは上がる一方。

 

「・・・すいません、今のもう一度お願いします」

撮りなおし。

 

「TVだねえ」

「TVやねえ」

 

そんな声が聞こえてくる。

 

「失礼いたしました。それでは、3、2、1、みなさん、あちらをご覧あれ!」

「イエーイ!」

 

再び映し出された文字に先ほど以上にきばって声を出す一行。

「・・・これってライトがバーン、と出たりしないんですか?・・・はい、そうですか。出ないみたいですね。それではみなさん、参りましょうか?」

歩く途中、駅名の書かれた看板に目をつけた古賀。日野春駅、山梨県長坂町か。

名所案内、日本百名山、国蝶オオムラサキ、滝も近くにあるのか。地元問題なんかも出されるのだろうか?と、ブラスバンドの演奏が始まった。駅の外の広場に押金が眼をやると、制服姿の女子中学生らしき吹奏楽団と、多数のギャラリーが見えた。軽快な音楽。初めて聞いた曲だ。

「演奏は、日野春中学校ブラスバンド部のみなさんでした!」

一同の拍手で演奏は終わった。

日野春町のみなさん、そして日野春町長にお越しいただきました!」

 

と、福澤アナ。「ここは長坂町です」と、[日野春]町長。

「これは失礼しました」日本テレビの看板アナウンサーがダメ出しされた瞬間だった。

 

高校生達はかなり喜んでいる。長坂町長の話は続いた。

 

「この町は風光明媚でとても素晴らしい所です。みなさんにも今度はゆっくりと観光して頂きたいものですねえ。美しい山から朝日が昇る景色も素晴らしいです。惜しくもここで脱落されるみなさんには、今晩はあちらの旅館でお泊まり頂きまして・・・」

「あーそこらへんは言わないで下さいねー」

 

町長の舌は絶好調のようだ。

 

「負けたらここで終わりか」

「勝ったらどこで泊まるんだ?」

 

一行の呟き。

 

「は、はい、ありがとうございました!」

 

福澤アナもタジタジである。

「・・・ところで町長、高校生のみなさんにプレゼントがあるとか?」

 

高校生一行に緊張が走った。ここまで(と、言っても一度くらいだが)、プレゼントと言えばロクなことがなかった。そのとき、頭上で大輪の花火が輝いた。

「花火や!」と、押金。

「きれいやねえ」と、清水。

「久々に嬉しいプレゼントやねえ」

と、古賀。高校生の間からは拍手が沸き起こる。

「町長さんありがとうございました。それではみなさん、あちらのセットへ参りましょう」

と、福澤アナに連れられて一行は移動する。ステージの方にもギャラリーは多数集まっていた。

「山梨頑張れえ!」と、おじさんの声。

山梨、山梨英和高校か。地元はいいなあ、と、少しうらやましい古賀。

 

だが、自分達の地元、三重に自分達を応援してくれる人がいる。それだけで十分だ。

「荷物はセットの前に集めて下さい」

 

と、言うので言われた通りに荷物を置いた押金。3段あるステージに載った46の早押し台。

そういえば、俺達が早押しボタンを押すのは初めてじゃないのか?中部大会、思えば準決勝では何もせず(いや、できず)、決勝は早[押し]ではなく早[放水]。どちらのクイズも、ボタンは1回も押していなかった。憧れの、あのボタンを押す日がついにやってきたのだ。全チームが台に着いた。

川越は退場ゲート向かって左側のステージ真ん中の列、クイ中達憧れの奈良代表東大寺学園の隣である。富田プロデューサーがステージ前に立つ。

 

「それじゃあボタンのテストをするから、チーム名を呼ばれたらボタンを押してね。それと、マイクには触らないようにね」

「初めての、この感触」

「本物はいいねえ」

クイ中3人はここでそのクイ中ぶりを発揮する。

「どういう順で重ねる?」

と、古賀。

「古賀ちゃんが一番押すから一番下。おっしーは一番上、僕が真ん中の順で。いい?」

「OK」

「了解」

 

ボタンテストの順番が回ってきた。「川越!」パンッ!クイ中達がこよなく愛する音が鳴る。

「本物は固いね」

「まあ、うちのプチ早押し機に比べればね」

 

確かに固いが、あのプチ早押し機での練習は決して無駄ではなかったはずだ。そう清水は考えていた。

「ルールはあとで説明するけど、トリプルチャンスまであるからね」

演出、遠藤氏の説明が入った。

「トリプルってことは、2択や3択の問題は出ないってことだな」

その、左側のチームの呟きを清水は聞き逃さなかった。奈良代表、クイズの名門、東大寺学園・・・。

トリプル、すなわち3択は出ない。普通に少し考えれば分かることかもしれない。だが、この状況でそんな冷静な判断が自分達に下せるだろうか?さすがだ・・・。

 
出発から約6時間、ついに本格的な難関が現れる。運ではない、本当の力が試されるときがやってきた。まだ1日目。町長には申し訳ないが、この町で宿を取るわけにはいかない。

東京、神奈川、そして東京。

2011年1月10日 § コメントする

「おっしーと古賀ちゃんは左側見といて。僕は右側見とくから。何かあったら迷わずにメモして」

「オッケー」

多摩川を越えて神奈川県に入ったFIRE号。

 

[クイズ正解の車窓から]と銘打たれた、富士山の見える方向を問う二択クイズ。

「まさか富士山の下手なレプリカが置いてあるとか」

という憶測も飛び交う。

「今新幹線はこの電車の右側を走ってる」

「石油タンクが右側にあった」

「変電所もメモしといて」

目に付くものを片っ端から書き留める川越。電車は川崎を通過。2時30分過ぎ、鶴見で停車する。何が起こっているのか?乗客の高校生達には何も知らされない。下車する気配も全くない。

「みなさん、駅を利用している方々に手を振ってみましょう。笑顔でねえ。あ、あのお母さんとお子さんはやっと気付いたみたいですねえ。あの子もいつか高校生クイズに出場してくれるんでしょうか?楽しみですねえ」

福澤アナの語りが車内に響く。

「アナウンサーの仕事も大変ですよ。こんなときもずっとしゃべり続けて場を保たせなければいけないんですから。え?それが楽しそうと思う方は日本テレビのアナウンサー試験を受けてください。たぶん私も面接官の一人としてそこにいますから。・・・話すこともなくなってきましたねえ。それじゃあ彼に何か演奏してもらいましょうか」

と、福澤アナは本荘高のウクレレ奏者に1曲を求める。今度はそのウクレレによってハワイアンな曲が奏でられ、車内は拍手の嵐となる。

 

「いやあ、ありがとう。それにしてもまだ動かないんでしょうか?上空を飛んでいるヘリコプターや、外のお客さん達には何が起こってるのか分かっているのでしょうか?」

 

何か仕掛けてくるのか?首都圏ゆえのダイヤ調節か?答えはどちらかのはずなのだが・・・。そう古賀が考えていたとき、電車が動き始めた。・・・何かが違う。普通、停まっていた電車が動きだすとき、体は進行方向とは逆に傾くはず。そう、今の状態ならシート側に・・・。

 

「おおっと!これはどんでん返し、FIRE号は鶴見駅でいわゆるスイッチバックを行いました!つまり、進行方向に対して左右が逆になったわけです!」

「・・・やられた!」

呪いの声があがった。こんなに早く仕掛けてくるとは・・・。
清水は空腹に襲われていた。無論、他の2人も。車内の時計を見ると、昼飯というよりも、むしろ3時のおやつに相応しい時間帯である。

「長いトンネルですねえ。都心にこんなトンネルがあるなんて知りませんでした」

嘘かまことかは置いといて、福澤アナも驚くほど長い時間トンネルの中を走るFIRE号。もう1回スイッチバックはないものか?そんなことも考えていた。山梨側に行くのなら、そうでもしないと進行方向右側(元左側)から富士山を拝むことはできない。それにしても、食事は出ないのだろうか?こっちは朝食以来何も口にしていない。

「さて、みなさんお腹もすいたでしょう。みなさんにお弁当と飲み物を配ります。電車の旅といえば駅弁ですからねえ。これ、特別発注で結構高いんですよ。3人で分け合って食べてくださいね」

スタッフの人々が各チームに大弁当箱1つとご飯3つ、そして飲み物を配給する。確かに値が張りそうな弁当だ。大きい、というよりも大きすぎる。怪しい、それもあからさまに。

 

「それじゃあトンネルを出たらみんなで頂きましょう」

「・・・でかいねえ」

「うん、でかいねえ」

 

問題を予感し、怪しげな大弁当箱(だかなんだか)をにらむクイ中達。しかし、どうしても食欲が先行してしまう。

「それじゃ、頂きまーす!」

「いただきまーす!」

 

箱を包むビニールがなかなかほどけない。あちこちで何やら声があがる。テープをはずし、フタを開ける清水。中身を心待ちにする押金、古賀。川越高校クイズ研究所所属の3人が見たものは・・・

「何やこれ?」

「あからさまに怪しいやん」

「こりゃメモとっとかな」

と、古賀がメモ帳を取り出す。

 

「これいくつあるの?」

「ちょい待って。・・・5×10で50マスあるわ」

だいたい5cm四方のマスひとつひとつにそれぞれ異なるおかずが入っており、縦5×横10、計50個で並んでいる。

「ワカメ、タコ、ウズラ、枝豆、オクラ。ラッキョ、リンゴ、それなんやろ?ホウレンソウ?ちょっともらうよ。・・・サラダ菜かな?レンコン、ロールキャベツ、ヤマイモ、インゲン、これ何?ちょっともらうよ。・・・何やろ?ユバ?ユバってこんなん?」

「・・・ユバやと思うけどなあ」

「じゃあそうしよ。ええと、エノキ、それは?もらうよ。・・・甘っ!なんで弁当に羊羹が入っとるん?・・・マカロニ、ミツバ、ご飯か、これ?」

「麦が入っとるで」

「じゃあ麦飯かな」

「古賀ちゃん、メモったのから食べてっていい?」

「ええよ、リンゴは頂戴ね。明太子、もやし、ハンペン、ヒジキ、ブロッコリー、ベーコン。あ、今度こそホウレンソウや。ナスの油炒め、ニンジン、これネギだよね?ちょっと確認してくれん?ネギはあかんのよ」

「・・・ネギやで」

「その下のもネギっちゃう?」

「・・・ネギやね。こっちは焼いただけみたい。上の方は味噌和えにしてある」

「ネギ味噌と焼きネギにしとくか、一応。海苔の佃煮、ダイコン、チクワ、・・・それは?・・・鶏肉か。ツクネ、と。これは?かき揚げかな?確認しといて。トマト、サトイモ、シイタケ、スイカ、・・・これはセロリか。・・・魚肉のソーセージ、カマボコ、キュウリ、グリンピース、・・・それは?」

「ケーキでしょ、普通の」

「じゃあ、とりあえずケーキとしとこう。コンブ佃煮、アスパラガス、イカ、梅干し、エビ、オカラ。・・・よしっ、メモ完了。やっと飯が食える」

「ご苦労さん。これ絶対クイズに関係あるはずだから、食べ終わったら暗記するよ」

「了解」

それなりに味はいい。こんなに面倒なつくりなら、そりゃあ値段も張ることだろう。

「古賀ちゃんはメモした順に、おっしーは真ん中辺り、僕はメモの逆に覚えていくから」

八王子に一時停車中のFIRE号。

「高校生達は昼を食べられても、スタッフはまだ食べられない」

と、山名さんは言っていた。長めの停車だが、今度は本当にダイヤ調節らしい。

「あ!!」

弁当メモと、その写しを見て暗記に励む川越。そんな中、清水が不意に叫んだ。

「どうしたん!?」

と、隣の古賀。清水は声を落として押金と古賀を近くに寄らせる。

「どうしたん?」

清水につられ、2人の声のトーンも下がる。

「ちょっと凄いことを発見してまったかもしれん」

「なになに?」

「これよく見て、アスパラ、イカ、ウメボシ、エビ、オカラ・・・。カマボコ、キュウリ、グリンピース、ケーキ、コンブ・・・。こう読んでくと五十音の順なわけよ!」

「・・・すげぇ!かっちゃん、あんた偉いよ!」

「惚れたで!」

清水の発見に、2人は驚きを隠せない。

「よく気付いたねえ」

「いや、憶えやすいように頭文字だけを抜き出してたら気付いたんさ」

「ほんとに偉いわ。・・・それやとところどころおかしいのがあるよね?」

「そう、それなんだよね。かき揚げとか、このネギ2つ。下の方は焼きネギじゃなくてただのネギにしても辻褄は合うんだけど、上の方がねえ」

「・・・あ!これかき揚げじゃなくてテンプラっちゃう?」

「おお、それいいね。後は、サラダ菜、タコ、そしてネギか・・・。」

 

既に列車は八王子を後にしていた。なんだ?頭文字はわかっている。五十音になっているのは確実だ。あと3つ・・・。

 

「みなさん、お弁当はおいしかったですか?」

 

・・・!?

 

来た!

 

「ここで、みなさんが食べたお弁当のおかずを思い出して頂きましょう。弁当思い出しクイズ!」

 

スタッフがフリップを配り始めた。

 

「・・・メモ見てもいいんかなあ?」

「一応伏せとこ、不正になるといかんで。とりあえず聞いてはみるけど」

 

川越の手元にもフリップが届いた。

「それでは、制限時間は15分間。弁当思い出しクイズ、始め!」

「よし、とりあえず梅干し」

「イカとエビもあったね」

と、そこに演出の遠藤氏が通りかかった。

 

「あの、メモは見てもいいんですか?」

「いいよ。メモしようと思い立ったのは君達の実力なんだから」

「よっしゃ、おっしーメモ出して」

「オッケー」

「自己申告までしたかあ。成績はどうかなあ?」

 

と、遠藤氏は川越のフリップとメモを覗くと、後ろの車両に歩いていった。

「・・・タコじゃないよなあ」

 

メモに従ってほとんどのマスが埋まったが、50音から外れている3つのマスは未だに埋まらない。

 

「・・・おっしー、イイダコって言うよね?」

 

清水が思いついた。

 

「あ!イイダコか!あるある!」

「何、イイダコって?」

「駄菓子とかにあるんさ」

「へえ、じゃあ後2つか」

 

サラダ菜じゃない。しかし、苦味とクセのある味だった。

「・・・!ルッコラって知ってる?」

古賀はあまり馴染みのない名前を口にした。

「名前は聞いたことある」

「確か香草の1つだったと思う。食べたことないけど、[ル]で始まる野菜はそれくらいしか思いつかへん」

「もう少し考えよう。まだ時間はあるで、危ない橋を渡るにはまだ早い」

 

清水はそう言った。・・・ル、ル、ル、・・・決定的なものが思い浮かばない。ルッコラ・・・これがルッコラだ、なんて言われて食べた記憶がない。カバンから、重いにも関わらず持ってきた国語辞典を取り出し、[ル]の項目を調べてみる。「[ル]かあ」押金もつぶやいた。ほんとに馴染みのうすい野菜だからなあ。古賀はひとまず[ル]を置いて、[ぬ]を考えることにした。[ぬ]が頭文字にくるネギ?そもそも俺はネギが嫌いなんだ。特に太い白ネギは。しかも味噌で和えてくれるなんてほんとに親切なことや。この、ネギのぬたってのは、好き嫌いのあまりない俺にとって最悪の料理の1つで、うちの母さんは、俺が食べれんと言ってるのに作る・・・。

 

・・・[ぬた]!?それならバッチリじゃないか!

「かっちゃん、[ぬ]は[ぬた]や」

「ぬた?」

「そう、ネギのぬた。俺の大っ嫌いな料理。これは自信ある」

「よっしゃ、あと何分や?」

「2分ちょい」

「・・・[ル]にはアレしかない?」

「うん、それしか思いつかない」

「さあ、残り時間はあと1分です」

「よし、それでいこう」

「・・・時間です!それではフリップを回収してください」

東京、神奈川、そして東京を再び走る特Q!FIRE号。しかし、東京といえどもそこは既に緑深い山の中。一体どこで結果が明かされるのか?どのチームが脱落するのか?列車はその疑問に答えることなく、先へと走りつづける。

四方津から酒折。扉の先にあるのは、やはり扉。
左手に相模湖を眺め、再び神奈川入りしたFIRE号。

「中央本線か・・・」

このまま甲信地方に突入、つまり富士山にだんだん近付いていくということだ。

「結局、あの富士山の問題って何なんやろなあ?」

このまま行けば、ほぼ確実に富士山を左手、つまり元は右サイドだった方に望むことになる。

「わからん。でも油断は出来んよ」

全く、この番組は秘密なことばっかりだ。無論、クイ中達の総論である。と、列車のスピードが落ちた。先ほど山梨入りしてすぐのことだ。

『みなさんお疲れさまです』

久々に福澤アナの声が車内に響く。つまり、何かが起こる。

『長いこと車内に閉じ込められていては健康によくないですね。みんなでおいしい空気を外で吸ってみましょう』

当然、誰一人としてこれを福澤アナの厚意とは考えていない。

『荷物はみんな忘れずにね』

と言われては尚更である。
中央本線、四方津駅。参加者全員が下車し、集められる。

「いやあ、外はいいですねえ。深呼吸してみましょう」

空気はなかなかうまい。だが、不安は一緒には飲み込めない。

 

「四方津駅の駅長さんです」

 

と、福澤アナが紹介。話によると、駅長氏は神奈川出身らしい。

「みなさんの中に、乗車切符がここまでの方々がいらっしゃいます」

 

予想済みとはいえ突然の発表。全員の悲鳴ともとれる声があがる。

「呼ばれた各チームには、それぞれの車両の扉の前に立って頂きます。駅長が『切符を拝見!』と言われましたら、『お願いします!』と言って下さい。扉が開けば旅を続けることができ、開かなければ、残念ながらそのチームはここで途中下車して頂きます」

「川越高校!」

「はい!」

思ったよりも早く呼ばれた。それが3人の感想だった。荷物を背負い、ここまで乗ってきたFIRE号4号車の扉前に立つ。まだ、この列車から降りるわけにはいかない。

「切符を拝見!」

駅長の合図がかかる。

「お願いしますっ!!」

扉よ、開け・・・!・・・プシュー・・・グーン、ガシャン。扉の先にはカメラが待っていた。

「ヨッシャーッ!!!」

ガッツポーズと共に、再びFIRE号に乗車する3人。客室に入ると、先客達の歓迎が待っていた。

「おめでとう!」

「オッシャー!」

ハイタッチが交わされ、生き残りを祝福し合う。川越も祝福の輪に加わって、後続を待つ。岐阜北や磐田南は大丈夫なのだろうか?そんな疑問がふと頭をよぎった。

「あのお弁当、開けてすぐに食べちゃったの?」

「はい」

「お腹すいてたんだねえ。エンゲル係数高そうな体格してるもん」

 

最初の途中下車チームとなってしまったのは、岩手代表盛岡一高と、和歌山代表近大附属和歌山高校新堀チーム。しかし、ダイヤの調節か、すぐには出発をしない。

『もう、終わーりーだねー♪君がー、小さく見ーえるー♪』

福澤アナの歌声がFIRE号車内に響く。

 

「おおっ?『さよなら』や!」

「こんなところで歌うとはなあ」

 

この日の朝に流れたお気に入りの曲が歌われ、喜ぶクイ中達。

 

『フーフフーフーンーンーンー♪ルールルールールールールールー♪』

 

「・・・歌詞知らんのや」

「そうみたいやねえ」

『チャカチャン、ズンチャ、ズンチャンチャチャン』

 

福澤アナは、ドラムの音も忘れない。

 

『さよならー♪さよならー♪さよならー、あぁ♪もうすぐー外ーは白ーいーふーゆー、うぅ♪愛したのはー♪確かにー♪きーみだーけー♪そのままーのー君ーだーけー♪』

「最後はきちんと歌うんや」

「そりゃそうでしょう」

 

そして、福澤アナのリサイタルが終わると、列車は動き出した。ここで『さよなら』。さぞかし無念のことだろう。・・・しかし、明日には、いや、明日とも限らず今日にも自らの身に降りかかりうることとは誰にも分かっていた。

『問題、武田軍の旗印は右?左?どっち?』

橋の下の川岸に何やら見える。

「・・・あの赤いのか?」

「武田軍の旗といやあ[風林火山]やろ?」

「左はどんなん?」

「わからん。見えやんかった」

「右のやつ見て『これだ!』って思った?」

「・・・いや、思わんかった」

「・・・よし、それじゃ左やな」

「OK」

『問題、今年の防火標語は右?左?どっち?』

「中部の決勝で身に染みとる!」

「余裕!」

 

窓の外に眼を向けるクイ中達。山梨を走るFIRE号。その車内で行われているのは[どっちどっちクイズ]である。ルールは簡単、問題によって定められている右か左の答えの内、正しいと思った方を選ぶ普通の2択クイズ。強いて普通でない部分を挙げるとするならば、一部の問題では選択肢が車窓の外に配置されているというぐらいだろうか。

『おっと?これは対向車が邪魔ですねえ、よく見えません。スタッフがボードを持って車内を回るそうです』

車窓の外に選択肢があるため、このようなこともままある。

『一万円札の福澤諭吉、ホクロがついているのは向かって顔の右側?左側?どっち?』

「財布出して!」

「ゆきっつぁんある?」

「僕の財布に入っとる!」

カバンを開け、清水の財布を取り出し、ゆきっつぁんこと福澤諭吉の顔を拝むクイ中3人。

「右やね」

「ですね」

 

『右と左、漢字で書いたとき、1画目を横棒から書くのはどっち?』

「・・・え!?俺はどちらとも横棒から書いてるぞ」

と、古賀。彼にとって、漢字の筆順はどうでもいいものらしい。

「左です」

確信を持って清水は答えた。

「え、まじで?」

「何で知っとんの?」

押金と古賀は、清水の確信に驚きを隠せない。

「一応、書道三段ですから」

と、清水。そうだった、と2人は納得した。

「凄えよかっちゃん!」

古賀は感服し、「惚れ直したぞ!」と、押金は意味深な発言。ちなみに、今のところ2人は危険な仲ではない・・・はず。やはり念のため。

『最後の問題。次のトンネルを抜けた先のカーブは右カーブ?左カーブ?どっち?』


「はあ!?」

「そんなん分かるわけないやん!」

 

文句を言いつつも、時刻表を取り出して路線表のページを開く。

「うーん、微妙に右に曲がってるように見える」

考えている時間はない。

 

「右、だね」

「うん」

かなり長いトンネル。長く感じるのは距離だけのせいではないだろう。暗闇の中の電灯を見るたびに、「出るか?」と思ってしまう。窓からは先頭の方がよく見えない。

だが、強い光が眼に飛び込んできた。こんどこそトンネルを抜けるようだ。右か?左か?窓の外は闇から光に換わり、3人はカーブを待った。体は、左に傾いた。

「・・・左か」

 

正解か、不正解か、唯一はっきりした問題だった。
カメラが4号車にやってきた。列車のスピードが落ち、そして停車する。カメラが来たということは、何かが始まる、ということだ。強いて例を挙げるとするなら、この車両からどこかのチームが下車をする・・・。

「うわっ!カメラが来たー!」

4号車のほぼ全員が、同じようなことを考えたようだ。車内に広がる声の内容もほとんど同じである。外を見るクイ中達。酒折駅、切符がここまでしかないチームはどこなのか?

 

『ここで下車するチームを発表いたします』

 

福澤アナのアナウンス。うなだれ、手を合わせて祈る3人。

『山形、米沢東高校!』

・・・安心するな。

『2チーム目!』

まだ、次がある。

『岡山、倉敷天城高校!』

組んだ手は、まだ解けない。

『以上2チームです!』

「よっしゃー!」

 

4号車で沸きあがる歓声、交わされるハイタッチ。

「ふー」ガッツポーズもつかの間、シートに深く身を預けるクイ中達。とりあえず、首の皮はつながったままか。

『2チームには敗者復活のチャンスが与えられましたが、復活することはできませんでした。残念ながら、ここでお別れです』下車チーム発表後しばらくたっての福澤アナの声。

「敗者復活?何をしたん?」

川越の3人は同じ疑問を口にする。しかしその問いは答えられることなく、FIRE号は2チームを置いて再び走り出した。

夕日の射す甲府盆地。そこを走るFIRE号の車内、座り心地のいいシートで眠る清水、外の景色を眺める押金、それまでのメモをつける古賀。デジタルカメラを持ったスタッフが清水に近付いた。

その目的は明白である。シャッターが押される。その映像を見せてもらう押金と古賀。「爆睡やな」と、笑いを堪える押金。「そやね」と、古賀。清水はまだ起きない。

少したち、ようやく清水起床。「爆睡しとったな、かっちゃん」「しっかり撮ってもらったで」「まじで?いつの間に?」「ついさっき」「やられたなあ」と、清水は悔やむ。不意に、「外のヘリコプターのカメラに手でも振ってみて」とのスタッフの声が飛ぶ。

車内の全員がその声に反応し、窓際に寄る。

品川を発って約6時間、下車したのは4チーム。扉が開いても、その先にも次々と別の扉が立ち塞がる。次の扉は何なのか?それは、全てのチームが抱えた共通の問題である。そして、それは誰も答えることが出来ない問題なのだからタチが悪い。

特Q!FIRE号発車、始発駅品川、終着駅不明

2011年1月10日 § コメントする

TOKYOの地下を走る都営線。その駅の1つ、水道橋に黄色い名札を身に着けた一団がぞろぞろとやってきた。

無論、高校生クイズ一行の一部である。彼らは集合地、品川駅までの道中を確かなものとするべく、スタッフについて行くことにしたチームである。

「300万だってさ。結構いいんじゃない?」

「これって、1人見つけりゃ300万、3人見つけりゃ300万ってことやろ?」

「あ、そうなん?でもそれでもいいんちゃう?クイズやらんと、みんなでこいつら探そうか?」

 

彼らが見ていたのは、オウム指名手配犯の手配写真である。

「いいよねえ、若いって」

とは、川越クイ中と会話していたときの山名さんの言葉である。

「私は去年からやっててね。そのときは友達に誘われたの。その子、この番組のスタッフと文通みたいなことしてて、『バイトやってみないか?』って誘われたの。今年はその子、都合が悪くてこれなかったんだけどね」

「へえ、そうなんすかあ」

都営線は三田で終点、ここからは京浜急行に乗り換えである。

「メモ帳はこれにする?」

「うん、それでいいんちゃう?」

「付箋ってどこだっけ?」

「こっちやで」

「お、それにしとこ。あとはマーカーや。はー、俺の筆箱に付箋もペンも入ってたのにわざわざそれを出して、なんで筆箱だけは持ってきたんやろ?」

「しゃあないしゃあない」

少しヘコんだ古賀を清水が慰める。

 

「マーカー、緑でいいよね?」

「古賀ちゃんに任せるわ。ところであれって監視カメラやんね?」

「どれ、おっしー?」

「あれあれ」

「あ、ほんまや。手振っとこ」

と、清水を皮切りにクイ中達はカメラに手を振り始める。飽きて勘定を済ませにいこうとしていたとき、どこかのチームが方位磁針を購入するのを目撃。

「…うちはいいよね」

「ん、腕時計で代用効くでしょ」

 

次に3人が向かったのは、アウトドアの本コーナー。手にとって読むのは[ロープの結び方]、[アウトドアとっさの応急処置]、[食べられる野草食べられない野草]など。彼らが、今回のテーマは[旅]であり[サバイバル]ではないと気が付くのはあと数分後のことである。まあ、知識はあって困るものではないのだが。

 

山名さんに引き連れられて、川越を先頭にホームへと降りる4号車の乗客達。

高校生達に自由時間を与えるほど(と言っても荷物が制限されているためロクな買い物もできないのだが)暇だったかと思えば、状況は一転して時間はおしているらしい。

撮影のスケジュールとは不思議なものだ、とは古賀の感想。ホームに降り立った4号車組は、山名さん、そして富田さんに連れられてさらに奥へ。川越は最前列に通された。福澤アナがよく見える。

 

「ではみんな、おはよう。いやあ、荷物詰めてきたねえ。君はどこ?ああ、兵庫の柏原か。君はまたその買い物カゴ、よく似合うねえ」

柏原は川越の隣、同じ最前列である。

 

「みなさん、ズームイン朝見てくれましたか?[いい日旅立ち]、この日にぴったりの曲じゃないですか。[日本のどこかに私を待ってる人がいる]。君達の行き先にも誰かが待ってくれているかもしれません。まだ秘密ですがね。それでは、駅長にお言葉を頂きましょう。品川駅長の猪又さんです!」

 

「ええ、高校生のみなさん、こんにちは」

 

福澤アナの紹介で登場した猪又駅長は、高校生達を前にして大いに語ってくれた。そして一同が注目する中、特Q!FIRE号がホームに入る。JR東日本全面協力、全国放送となるとスケールもでかい。

「それではテープカットとくす玉割りを行いたいと思います。くす玉割りは、秋田県代表本荘高校!そしてテープカットは、神奈川県代表神奈川工業!」

 

本荘高校は、前日も当日もアロハ姿で「ネタがかぶった!」と川越に危機感を抱かせているチーム。全員が麦わら帽子、手にはマラカス、1人はウクレレを携えている。そのウクレレ奏者は[さくらさくら]を素晴らしい腕前で演奏。荷物にしてまで持ってきたことも、決してポーズではないことを証明する。

そして、女子3人チーム神奈川工業と猪又駅長が鋏を持ってスタンバイは完了。「それではどうぞ!」と、福澤アナの掛け声でテープに鋏が入れられ、紐も引かれる。その一瞬、誰もが油断していた。その一瞬だけ、誰もがこの番組の何たるかを忘れかけていた。

そして、それは現れた。

 

「おおっと、これは!?」

福澤アナのわざとらしいリアクション

 

「問題、日本一の富士山、車内から見えるのは進行方向の右?左?どっち?さあ、来ましたねえ。それではみんな、早速FIRE号に乗り込んで下さい」


豪華列車特Q!FIRE号で行くクイズミステリーツアー、とはよく言ったもので、実際素晴らしい豪華列車である。

座席はゆったりとしており、前後の間隔もとても広く、通路から一段高く造られており、足を置く場所のカーペットは二重となって・・・例を挙げればきりがない。

列車は猪又駅長に見送られながら始発駅、品川を発つ。

「この企画はJR東日本の協力やろ?

てことはJR東海管轄下の静岡県には行かないと思うんさ。

静岡側で富士山が見れないのなら、後は山梨側しかない。

山梨はJR東日本の管轄。

そして昨日のビデオで出てきた五千円札、あの富士山は山梨側から見たもの。

だから、この列車がこのまま進めば富士山が見えるのは進行方向左。どうでしょう?」

 

と、古賀。FIRE号は東京から川崎方面へと進んでいく。

「それでは、進行方向右と思うチームは車両の右半分へ、左と思うチームは左半分へ移動して下さい」

スピーカーから福澤アナの声が届く。

「いい?他のチームに流されたらあかんよ。僕らは自分達が思った通りの答えを選ぶんやで」

と、清水。自分達が決めたならば、それが間違いでも後悔は小さい。そもそも、流されて選んだものにどれほどの価値があるというのか?

「大丈夫、分かってる。俺は左や」

と、古賀。

「俺もそれでいいと思う」

と、押金。

「うん、じゃあ左やね?」

 

清水の問いにうなずく2人。左サイドに移動し、押金は[右・左]と書かれ、その下に円が書かれたフリップの[左]の方を黒く塗りつぶす。スタッフがそのフリップを回収し、古賀は座席の後ろを振り向いた。

・・・4号車は全員が左サイドである。

この一問で全てが決まるのか?それともこれから先への布石にすぎないのか?

特Q!FIRE号はそんな不安を抱く高校生達をよそに、始発駅品川からどんどん遠ざかる。

 

途中停車駅も、終着駅すらも乗客達に告げぬまま・・・。

 

8月14日、出発、カバン1つに全てを詰めて。全国大会

2011年1月10日 § コメントする

感じられる時間は長く、そして睡眠時間はすこぶる短い夜が明けた。その朝、川越クイ研所長、清水が目を醒ますと気が付いた。

自分が虫に、虫に刺されてしまっていたことに。しかも、両の眼のまぶたが刺されていることに

頭は冴えていても、まぶたが持ち上がらない・・・。

「何かプーンって音が耳元でしてはいたんだけどねえ。網戸なかったからねえ」

と、古賀。

「俺が気合で1匹撃墜したはずなんやけどなあ」

と、押金。

とりあえず、朝食が始まったようなので3人はそちらに向かうことにする。
『それでは朝一番、北海道に向かってズームインッ!』朝食の置かれた広間のTVから福澤アナの声が響く。

「昨日の吸い物もそうだったけど、この味噌汁うすいねえ」

と、ぼやく古賀。この朝も、彼の口には次々と箸が運ばれる。

「なんで旅先での朝飯ってこんなに入るんやろ?」

解決されない彼の疑問である。他の2人に言わせれば、古賀の食欲への疑問が解決されない。

「・・・古賀ちゃん、ハム食べる?」

「あ、いらんの?ありがと。・・・2人とも食えるときに食っとかないと体が持たんよ」

押金のハムを頂きつつ食の進む古賀。

「あんたは食べすぎなの。何で朝からそんなに食べれるの?」

と、呆れる清水。

「何でやろねえ?あ、おかわりお願いします!」

今日も体調は良さそうだ。惜しむらくは、この朝食、あまり味が良くない。修学旅行系の旅館の食事に味を求めるのは酷なことだろうが。

『本日の特集は、日本の名曲ランキング・ベスト20です。どうですか?吾郎さんも思い出の曲はおありだと思いますが』

『そうですねえ・・・』

今のところ、ヒントらしいヒントはないまま始まった特集。福澤アナと、コメンテーターの橋本吾郎氏とで思い出の曲に関する会話が交わされる。高砂の部屋の6人は、突然現れる可能性のあるヒントを見逃すまいと、TVに釘付けであった。

「この手の企画の第1位は大抵[川の流れのように]だよね」

「そうそう」

TVからは、[なごり雪]が流れ始めた。

「イルカだね」

「いい曲やねえ」

ランキングは進む。

「お、きたね。[いい日旅立ち]。」

川越クイ研の旗印のもととなった山口百恵の名曲である。

「しかし、このランキングの歌がヒントだったりするのかねえ?」

「わからんねえ」

疑問は解決されぬまま、次々と名曲が発表されていく。

 

「おおっ!オフコースの[さよなら]や!」

「いい曲やからねえ」

『もう、終わーりーだねー♪君がー、小さく見ーえるー♪』

「・・・いい曲だけど、歌い出しがいきなり縁起悪いよね、少し」

「まあね」

『さよならー♪さよならー♪さよならー、あぁ♪もうすぐー外―は、白ーいーふーゆー、うぅ♪愛したのはー♪確かにー♪きーみだーけー♪そのままーのー君ーだーけー♪』

「いい曲ですねえ」

「なんか切なくなるけどねえ」

どの部屋からも同じ音声が聞こえてくる。やはり全チームがヒントを待っているのだろう。

「どこの部屋も見てるねえ、やっぱり」

「そりゃそうでしょ」

『第1位は・・・美空ひばり[川の流れのように]です』

「ほらやっぱりね。これが1番の名曲なのよ」

[名物日本の味]のコーナーが始まった。ヒントらしいヒントは未だ現れていない。

「最後の『また明日』ってところで何か言うんじゃない?」

という予想。あのテーマが流れ、エンディングが始まった。各地の天気リレーがあって、全国の天気を福澤アナが尋ね、お天気アナがそれに答えて、テーマは終わりに近付き、『それではまた明日』と、福澤アナが締めくくる。

普通通りのエンディング。

『この後はルックLOOKこんにちは』

と、松永アナが後を引き取る・・・。

「ええ!?終わりですかっ!?」

「まじで!?」

「ヒントなんてどこに出てきた!?」

呪いの声をあげる高砂組。

開会式で流れた映像の風景があるところからの中継なんかを予想していた面々にとっては肩透かしを喰らったようなものである。謀られたのか?

いや、実はヒントが隠れていたのか・・・?

恐るべし、日テレ・・・。

「おおっ?こうすりゃ背負えるやん!」

と、青いカバンの握りの部分を肩に担ぐ古賀。これなら手で持って歩くよりも楽になる。カバン1つに全てを詰め、身にはアロハシャツをまとい、手には赤い団扇を携えて、クイ中達は大栄館を後にした。

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