新潟から群馬、トンネルを抜けるとそこは山国。

2011年1月10日 § コメントする

乗り込んだ列車内は、微妙な込み具合。先客の人々の中には一行に向かって、どこのどいつだ?と言いたげな視線を投げかけてくる人もいたが、あまり気にせずに着席しようとする。

クイ中達も席を探すが、その車両には4人がけのボックス席が並んでいて、どのボックスにも大抵1人が座っていた。

 

「すいません、ここ、よろしいですか?」

 

仕方がないので、引け目を感じつつも、ある男性に相席を頼み込み、ようやく着席。天満さんは、各チームに朝食を配り始めた。透明なパックに入った朝食は、おむすび2個と、なぜか鶏の唐揚げ1つ、そしてウーロン茶である。

食事時間の飲み物は、スポンサーの関係からか今までジャワティやポカリスエットが配られていたが、ストックが尽きたのか、そんなことは元々どうでもよかったのか、全く別の会社の製品であった。

 

「…絶対足りんぞ」

 

古賀のそんなぼやきを、他の2人はそりゃそうだろうと思いながら聞いていた。しかし、グチっても得るものはないので、古賀も観念しておにぎりを口に運び始めた。

 

「これは魚沼産?」

「ふふ、どうなんやろねえ?」

 

相席の男性が降り、やっとリラックスし始めた3人。次の駅辺りで地元の女子高生達-もし中学生だったのならば、かなり老け顔ということになる-が乗ってきたのに古賀は気付いた。

とりあえず、彼女らを見て思うことは幾つかあったのだが、聞こえてしまうとアレなので、しばらく黙っておくことにした。押金にとっては、そんなことよりもトイレに行くことの方が重要問題となっていた。

 

「すいません、降りるまであとどのくらいですか?」

 

「どうしたの?」

「いや、トイレに行きたくなっちゃって」

 

「あ、おっしーも?俺もなんやけど」

 

天満さんに尋ねた押金に、古賀も同調する。

 

「ちょっと待っててね」

 

と、彼女は他のスタッフに相談しに行った。

 

「また古賀ちゃんトイレかー?」

 

と、清水。

 

「なんで?おっしーもやん」

 

「古賀ちゃんと一緒にしたらあかんよ。おっしーはまだ1回目やろ?」

 

「そうやて。一緒にせんといて」

 

「・・・は~、またイジメや」

「え?イジメってのは心外やな。そんなんうちらに対するイジメやん。なあ、おっしー?」

 

「なあ」

 

「はいはい、ごーめーんなさーいー」

 

結局いつもの負けパターンにはまった古賀がキリのいいところで白旗を揚げたとき、天満さんが戻ってきた。

 

「もう少ししたら通過待ちでしばらく停まるらしいから、そのときに行っておいで」

「はい、ありがとうございます」

 

「で、停車時間は?」

「大体5、6分」

 

「トイレはどこに?」

「階段上って、右に曲がって、左手の階段を下りたホーム」

 

「よっしゃ、行くぞおっしー」

「おう!」

 

「急いでねー」

 

「はい」

 

矢野さんに道順を聞いて、トイレにダッシュ-時間以外、特に切羽詰まっていたわけではないが-するクイ中2号と3号。まず階段を駆け上がる。

 

「右やな。どの階段を下るんや?」

 

越後湯沢駅、JR上越新幹線も停まり、冬にはスキーで賑わう駅である。

 

「あっち、表示があるわ」

 

 

 

「急げー!」

 

と、今度は駆け下りる。

 

「あった!」

 

ここまでで、大体1分半である。

「セーフ!」

「よし!間に合った!」

 

出発までに余裕を残して、2号と3号は無事帰還。

 

「みんないるね?」

「はい」

 

列車は再び出発した。走ること大体3分、列車が次に停まったのは、岩原スキー場前駅。スキー場前と言う割に、先程の女子高生を含めてかなりの数の高校生が下車していく。列車の扉が閉まり、動き出した風景の中で固まって歩くガン黒女子高生を見た古賀は、押金に呟いた。

 

「秋田とか、新潟とか、こういう雪の多い地方には、色白の美人が多いって聞いてたんですけどねぇ」

「ホントですねぇ」

「それじゃ、次の駅で降りるからね。荷物まとめて、忘れ物のないように」

 

そろそろ降りるとは聞いていたので、既に荷物はまとめてあった-と言ってもこの車内では一度もカバンを開けていない-3人。さて、どんな駅なのだろうか?と考えていた矢先、いきなりトンネルへ。

ここまでに結構な数のトンネルがあったためにそれほど気にはしなかったのだが、それでもかなり長いトンネルである。

 

「あ、もう群馬入りなの?」

 

時折蛍光灯が光を覗かせる、車窓の外の壁を見ていたクイ中達は、光に照らされた[新潟⇔群馬]という表示を見つけた。新潟と聞けば、県民の方々には大変失礼だが、東京からだいぶ離れているような、つまり、旅の終わりからはまだまだ遠いような気がした。しかし、群馬と聞けば、一気に東京に近付いたような気がする。

そう、既に、とうの昔にこの旅は折り返しているのである。勝ち抜けるにしろ、脱落するにしろ、始まりよりも終わりの方が近いところまで旅してきたことを考えると、3人の胸には驚きと寂しさがやってきた。

楽しい旅、素晴らしい旅ほど、終わりが近付くごとに何とも言えない思いが大きくなっていくものである。だが3人は、それぞれその思いを口にすることなく、自分の胸にしまいこんで、次の関門に向けての覚悟を固め始めた。そんな思いと裏腹に、列車を新しい光が包み込み始めた。名実共に、群馬県入りである。

 

トンネルを越えると、そこは山国。空の雲は白く、山の頂きは青かった。

周りの木々も緑鮮やかな一筋の線路、そこにまた、1つの駅。誰かが乗り込むことはない。

 

周知のことだが、この旅は非情なものである。駅がある限り、誰かが降りなければならない。

 

輝く月の下、白い輝きは三分の一。

2011年1月10日 § コメントする

「中島誠之助先生でした。ありがとうございました!」

拍手に送られ、公民館前に待たせてあったらしいタクシーに乗って中島氏は原地区を後にした。

「通過クイズってどんなんなんやろね?」

「あれっちゃう?上から順に、1チームずつ問題が1問出されて、それに答えられれば通過。ダメなら列の後ろに戻ってもう一周」

 

「あ、あの司会用らしいテーブルみたいなやつの前で?」

「そうそう」

「それだと1番は他の様子が見れやんね」

「うん、そやね」

お宝はスタッフに回収され、準備は整ったらしい。

「それでは本番参りまーす。5秒前、4、3、」

例によって残りカウントは指で数えられ、収録は再開された。

「さあ、鑑定の結果はこのようになりましたが、つぎに皆さんを待つ通過クイズはこちらです!!」

羽鳥アナが手を伸ばしたその方向から、浴衣を着た女性が盆を持って歩いてきた。

「見えてきたでしょうか?」

その手の盆の上には、白い何かが3つ。

「何持ってんだあ?」

そのとき、古賀は全てを飲み込んだ。

「利き米や!」

「そう、こちらに3つのおむすびが用意してあります。皆さんもごちそうになったと思います。コシヒカリ、この中から、ここ魚沼産のコシヒカリを当てていただきます。題して、ザ・越後魚沼産おむすび当てクイズ!」

「うわー!」

「うそー!」

「ルールを説明します。皆さんが座っている順番にこの3つのおにぎりを30秒以内に食べ比べてもらい、1つだけある魚沼産コシヒカリで作ったおにぎりがどれかを答えていただきます。勝ち抜けチームは5チームです」

・・・こんなことなら、あの御飯をもう一杯食べておけばよかった。皆がそう思っているだろう。こんな形で半分も削ることに多少の理不尽さを感じながらも、クイ中達は約2時間前に食べていたあの御飯の味を反すうしようと努力していた。この形式なら、確かに自分達は有利だろう。

だからといって、実力かどうこうという問題でもないし、落としたときのリスクは鯨波の綱引きクイズ以上である。一度落とせば、勝ち抜けチーム数は5である、もう二度と順番が回ってこないかもしれない。抜けるには、当てるしかなかった。

「それでは、一番目は川越高校です。制限時間は30秒、よーい、スタート!」

とりあえず、光加減を見てみる。本物はツヤが違う、ような気がする。

「川越高校、まずはよく見ていますねえ」

次は味見である。時間は30秒、あまり頬張るのは得策ではない。それぞれの立ち位置から一番近いおにぎりを摘まむ。・・・まずい。なんじゃこりゃ?うちの米よりもマズイぞ。2番を摘まんだ押金は思った。

古賀にとって、3番のおむすびは結構おいしかった。これが当たりだろうか?だが、まだ2つ残っていた。次は右回りに食べるおむすびをチェンジ。・・・うまい!先程の2番とは、味に雲泥の差がある。

「めっちゃ3ぽい」

その言葉の根拠となるに値する味だ。・・・これは難しい。古賀は1番を食べて当惑した。こちらもうまいのである。こんな中から本物の魚沼コシヒカリを当てろと言うのか?胸のうちで毒づきながら、3つ目のおむすびである2番へと指を伸ばした。・・・これは違う。他の2つとの差が歴然としていた。1か、3。『めっちゃ3ぽい』と言ってしまった押金だったが、1番を食べてその意見が揺らいできた。こちらもうまい。クイ中達はそれぞれ3つを味見し、絞込みに入ろうとしていた。疑わしいものに手をつけ、摘まんで、口に運ぶ。

「時間です」

うそや!と、古賀はつぶやきたかった。30秒にしては短すぎる。

「どう?」

「・・・1か、3」

「2は違う・・・」

全く自信が持てない。

「それでは川越高校、答えは?」

古賀は、渡辺さん宅で一番御飯を食べた清水に手で合図した。清水は考えた。2は明らかに違う。問題は1と3。なんとなく、本当になんとなくだが、1番の方がおいしかったような気がした。1番は、米の香りがしたのである。あれだけの特盛をごちそうになったのだ。その舌がそう感じたのなら、その感覚に賭けよう。

「・・・1番」

・・・ティロリロリロリロリロン!!

「ウオー!」

「オッシャー!!」

「イヨッシャー!!」

「川越高校、見事正解です!」

「ハイ!」

「ハイ!」

「ハーイ!」

今までで一番リズミカルなハイタッチをそれぞれ交わしたクイ中達。

「いやあ、すごいねえ。どうだった?」

「おいしかったですから」

「渡辺さんちのお米は天下一品っすよ!」

「君は?」

「最っ高でしたね!」

「おめでとう!川越高校、勝ち抜けー!それじゃあ、せっかくだからおむすびも食べちゃって」

羽鳥アナのお言葉に甘え、3人それぞれおむすびを取り、脇に退がった。

スタッフの矢野さんからおしぼりと水も渡され、残りのおむすびを頬張る3人。空を見上げると、きれいな月である。

「すごすぎる」

「やりましたねえ」

「ほんとに当たっちゃうとはね」

「渡辺さんに感謝感謝だね」

「ほんま、新潟に足向けて寝れやんわ」

現在、味見中なのは2番手東大寺学園である。

「では、東大寺学園。答えは?」

「・・・2番」

・・・ティロリロリロリロリロン!

「うわっ」

「当ててきたねえ」

「来たねえ」

 

おにぎりを食べながら残りチームの動向をうかがっていると、次に正解のブザーを鳴らしたのは東大寺学園だった。清水-実は古賀もだったのだが-は、東大寺が落ちるとしたらおそらくここだろう、と考えていた。だからここで彼らが勝ち抜けてきたことに、正直なところ少々残念な気持ちもあった。が、もうしばらくこのクイズの名門、『東大寺学園』とともに旅を続けられることがうれしかった。

「おめでとう!」

「お疲れ!」

こちらに歩いてきた東大寺学園を拍手で迎えるクイ中達であった。

「なんか、これめっちゃまずいんやけど・・・」

とぼやいたのは清水である。彼が取ったのは、3人の誰もがニセモノと見抜くほどまずかった2番のおにぎりであった。

「あ、それきっと2番やわ。たぶん、当たりは俺が食ってるヤツだと思う」

「古賀ちゃんか、持ってったのは」

「古賀ちゃーん」

「俺か?俺が悪いのか?」

「おう、古賀ちゃんが悪い」

「ごーめーんー。許してーなー」

そんな会話の最中、次に正解のブザーを鳴らしたのは3番手加治木高校であった。

「すごいなあ。なんでこんなに当たるんやろ?」

クイ中達は半分勘で当たっているため、彼らにとって、この連続正解は驚嘆に値するものである。

「おめでとう!」

「すごいなあ。すぐにわかった?」

「なんか、1つだけまずいのがあった」

「あ、あれか。やっぱりあれはわかるんだ」

その次の金大附属、中央高校は連続してはずしてしまう。残り枠は後2つ、未試食のチームは次の神奈川工業を含めて5である。ティロリロリロリロン!

「お、ついに当てたか」

「女の子チームが残ったね」

「こうなると、金大と中央は厳しいよね。2周目に行くには4チーム連続ではずさなきゃいけないから」

続いては、神奈川工業と同じくメンバー全員が女子の山梨英和。

「・・・1番」

ティロリロリロリロン!ギリギリのところでの勝ち抜けである。彼女達も心からの

「おめでとう!」

との声と、拍手に迎えられた。

「あの3チームは特に辛いやろうな」

「何も出来ずに脱落やもんな」

「自分達の間違いならともかくな・・・」

「ありがとうございました!」

「次も頑張ってね」

「あ、そうだ。住所教えてもらえますか?」

おむすび当てクイズの収録終了後、少し自由時間があったので、クイ中達は渡辺さんにあらためて礼をつげに行った。古賀は、出来るときに尋ねておこうと渡辺さんにメモ帳を渡した。昼間の経験から、こういうことは出来るだけ早く聞いておくべきだと考え始めたのだ。

「それじゃ、勝者チームはこっちにきてくれる?」

スタッフに呼ばれて、3人は公民館の入り口に向かった。目を転じてみると、柏原チームが涙を流しているのが見えた。

 

月の輝く夜空の下、舌が憶える味の記憶を頼りに夜の部の勝ち抜けを決めた3人。自分達の力だけではきっと無理であった。旅先で受けた優しさ、絶対に忘れてはならない。

ルーペを通して見抜かれる価値は。

2011年1月10日 § コメントする

「おっしー。がんばってアピールしたってな。渡辺さんにも話題を振ったりしていけばいいと思

 

「あのさあ、かっちゃんがいろいろとしゃべってもらえやん?」

 

「あ、うん、ええよ。それじゃあ、ものすごく涙腺を誘うエピソードで、中島さんの心をしっかりとつかむわ」

 

こんなやり取りがなされている間に、鑑定は山梨英和高校へと移っていった。

 

「山梨英和高校って、清里に行く途中に寮があるでしょ?」

 

「はい」

「どんな子達が通ってる学校かと思ってたけど、やっと会えましたねえ」

「お?これは先生、評価上がりますか?」

 

「甘いからねえ」

 

「さあ山梨英和、アピールのチャンスですよ」

清里か・・・清泉寮でソフトクリーム食ったぐらいの記憶しかないなあ。

古賀の清里に関する知識はこの程度である。山梨英和が私立の学校だということは知っていたが、どうやら清里にある全寮制か、少なくとも寮付きの学校らしい、と古賀は勝手に解釈した。

 

「ぜひ、『いい仕事』のお言葉を」

 

ワラで作られた[せなっこうじ]を持ってきた英和高校、中島氏に果敢にアタックをかける。

「山梨英和、攻めてきましたねえ。先生、どうですか?」

 

「ええ、そりゃもうこれはいい仕事してますよ」

 

会場は大喝采。

「生『いい仕事』聞いちゃった」

 

「本物だよ」

 

クイ中達も大喜びである。

 

「でも仕事と値段は別ですからねえ。はい、出ました」

 

「それでは山梨英和高校の評価額はおいくらでしょうか?」

 

TVでやってるような、ティロロロロロロといった感じの音が流れると思っていたクイ中達にとっては、音もなく数字を出す電光掲示板は少し拍子抜けするものだった。まあ、コレがTVというものなのだろう。現れた数字は5000。やはり、ワラ細工では難しかったのだろうか?

「ほら、このシャッターの音。もうあんまりないよ、こんなにいい音だすのものは」

 

「カシャッ!」

 

その音に、会場からは溜息が漏れる。

「あちらにいる方のカメラなんですけど」

と、年季の入った一眼レフカメラを持ってきた佐賀西高校チームは、会場にいるお世話になったご家族の方を手で示した。

「あ、アルバムに写っていたお父さんとお母さんですか。どうぞこちらに」

と、羽鳥アナは夫妻を佐賀西の横へと呼んだ。夫妻はアピールを必死で考える清水ら、川越高校チームの横を通り過ぎた。

「あれいいね。僕らも渡辺さん来てるし、そこんとこもアピールしとこうか」

古賀の言葉に

「そこらへんはすでに計画済みさ。涙の出てくるようなエピソードで攻めるよ」

と、すでにアピールタイムのときに話すことが、大体頭の中でまとまった清水が答えた。

「おう、んじゃ頼むで」

 

正面に目を戻すと、電光掲示板が回り始めた。

「佐賀西高校の鑑定額は2500円でした。あっと、お父さん、がっくしと片膝をついてズボンが汚れてしまいました」

そんな値段にも関わらず、中島さんは

「音がいい」

と言って最後にまたシャッターを鳴らした。カシャッ!

白ヘルメットの金沢大学附属高校が持ってきたのは、いかにもな感じの古文書と古地図であった。

「なるほど、この辺りの地図ですかねえ」

と、中島氏もかなりの注目をしている。

「それでは、金沢大学附属高校、先生の鑑定はおいくらでしょう?」

結構高そうだな、そんな3人の予想に、数字はたがわなかった。

「金沢大学附属高校、35000円です!どういったものなんでしょうか、先生?」

 

「これはねえ、地図が高かったんですよ」

 

「それでは、石橋高校の評価額はおいくらでしょう?」

 

石橋高校チームが持ってきていたのは、南総里見八犬伝数冊であった。先の古文書と地図には結構な額がついたので、クイ中達もそれなりの額を予想していた。今のところ、トップバッターの東大寺学園に及ぶチームは現れていない。

「2000円!がっくし石橋高校」

「これはねえ、八犬伝は数が出てるんですよ。ですから、初版本でもない限り難しいんですよ。それと、全巻そろってないのが残念ですねえ」

やはり、見るべきところはきちんと見ている。

「戦争に関するアンティークとして見ちゃうと、どうしてもこんな値段になっちゃうんだよねえ。でもねえ、お金には出来ない価値があるんだから、大事にして欲しいですね」

柏原高校が持ってきた戦時中の水筒も3500円という大分低い評価となった。『お金に出来ない価値』という言葉も、鑑定額が低かった人を慰めるために言っているんだろうが、時には結構残酷な言葉にもなるよな、と古賀は思った。

カンフー服のメンバーを始めとした大阪市立中央高校チームは、珍しい2レンズのカメラを持ってきた。あの2レンズは、写真を撮影する上で一体どんな役に立っているのだろうか?

カメラに詳しくないのでよくわからない古賀に、もう1つある疑問が浮かんだ。なんか順番が妙な感じがするんだけどなあ。中央高校は、鯨波ではもう少し早く抜けていたと思うのだが。

「さあ、中央高校、先生の鑑定はおいくらでしょう?・・・28000円です!」

同じカメラだったが、中央と佐賀西は明暗を分ける結果となってしまった。

「こういうコレクションはですね、たまにあっちゃいけないコインが入ってたりするんですよね」

「つまりそれは…」

「ニセモノって事です。うん、これは大丈夫だね」

加治木高校が持ってきたのは、かなりの数の古銭コレクションである。まだ、東大寺学園を超える額を叩き出したチームはいない。今のところ、鑑定待ちをしているのは神奈川工業チームと川越高校チーム。

ここまでの順番がおかしいような気もしていたが、やはり綱引きの順なのだろう。ずっと綱を引いていた自分達に、抜けた高校の順番がきちんと憶えろと言う方が難しい。きっと思い違いだったのだ。

 

「よっしゃ、次やね」

 

「いよいよやな。かっちゃん、アピールはよろしくね」

 

「おう、任しといて」

 

「それでは、加治木高校の評価額はおいくらでしょう?」

 

43000円、東大寺には及ばなかったが、数が効いたのだろうか、なかなかの高額鑑定となった。よし、いよいよだ。クイ中達が、羽鳥アナの呼び声を待ち受けていたそのとき

「それでは、次は神奈川工業です」

どういうことだ?3人の脳裏に、同じ疑問が浮かんだ。綱引き勝ち抜けの順番なら、8番目が川越、9番目が神奈川工業だったはずである。よく考えてみれば、敗者復活の金大附属はだいぶ前に鑑定を終えている。

鑑定の順番の根拠は一体何なのか?そんなことを考えていると、既に神奈川工業のアピールは始まっていた。

「斧がキチンと取り外し出来るんですよ」

 

「ほうほう。あ、この、手にある本はきちんと文字が読めるんですねえ」

「ページもきちんとあるんですよ」

「ああ、これはさすがにいい仕事してますねえ」

 

「おおっと、また出ました、『いい仕事』です!」

 

神奈川工業が持ってきたのは、二宮金次郎の像であった。あれのでっかいやつは夜に運動場を走り回るんだよな、などと古賀は再び埒もないことを考えていた。

「さあ、神奈川工業、先生の鑑定はおいくらでしょう?」

赤い光が示したのは、12000円。クイ中達の予想よりも低い額であった。こうしてみると、東大寺の65000円はかなり高い壁だと言える。彼らはあれだけの数の写真から、よくいい写真を選んだものである。さて、次は自分達だ。3人は、今度こそ必ずかかるはずの、羽鳥アナの呼び声を待った。

「これはですね、私達がお世話になった、渡辺公一さん、あちらにいらっしゃるんですが」

と清水はその方向を手で示し、渡辺さんへ話を振る、という当初の計画をまず果たす。

「そちらのお宅にあった人形で、約240年間代々続くって言われる歴史の中で、いつ頃からあったのかわからないくらい古いんです。江戸時代末期か?なんて話も聞いて、その歴史に惹かれて選びました」

中島氏の眼が、人形の折れてる方の角に向いた。

「角が折れちゃってるんですけど、それすらもいつ折れたかわからないくらい古いんですよ」

古賀も、話題が折れている角に向く前に先手を打った。少しでも好意的に見てもらわなければならない。

「ああ、中にクモの巣張ってるねえ」

・・・やはり、見るところは見てくる人である。

「クモも安心して巣を張れるような、そんな場所なんですよ」

清水がかなり苦しい言い訳をして、話を丸くおさめた。

「さあ、川越高校もどんどんアピールしていかないと」

羽鳥アナがクイ中達を促す。

「でもこんな風に力強く見つめられるとやりづらいねえ。この人形、彼に似ていない?」

と、中島氏は清水と人形を見比べて言う。

「きっと縁があるんですよ」

と、古賀がもう一押し。その言葉には中島氏も苦笑いをし、それを見た古賀も深追いしすぎたと少し後悔した。

「それでは評価の方に参りましょうか。どれくらいになると思う?」

「そうですねえ・・・」

安いかもしれない、という不安を打ち砕くように

「10万円ぐらい、いや100万ぐらいかな」

と清水は言った。

「そうですかあ。じゃあ鑑定結果を見てみましょうか。川越高校、先生の鑑定はおいくらになるでしょう?」

くどいようだが、赤い明滅には電子音もドラムロールもない。いくらになるのか?

いつも清水が言うように、1番でなくてもいい。ただ勝ち抜けることが出来ればいい。だが、出来るだけ高額であってくれ・・・。クイ中達が注視する中で、赤い光はやはり音もなく数字を形作った

。1と、後は0の羅列。一瞬は、10000円かと思われた。とりあえず、下の方の桁から数えてみる。一、十、百、千、万、十万・・・。十万!?

 

「おおーっ!」

 

「あっ!!」

 

「うおーっ!」

 

「おっと、川越高校の鑑定額は100,000円です!」

「おっしゃーっ!」

 

「ヨッシャー!!」

 

「ありがとうございます!ありがとうございます!!」

古賀は、渡辺さんのいる方に向かって二度の礼をした。2人もそれに続いて礼をする。喜びのあまり、古賀は夜空を仰いでのガッツポーズ。

「先生、これはどういったものなんでしょうか?」

「これはですねえ、江戸時代後期に作られた泥人形ですね。残念なのは、この兜が折れちゃってるのよねえ。でもね、いいこと?お人形ってのは顔が命だから、ほらこれ、染み1つないでしょ?これが買えますね」

 

「よかったですねえ、川越高校。お父さんにもう一度お礼をしてね」

そのとおり、3人はもう一度深く礼をして1位の席に向かった。

「さあ、川越高校が1位に踊り出ました」

このテの関門で1位になれるとは、クイ中達も全く予想していなかった。渡辺さんに感謝しつつ、ルーペ越しに現れた価値を助けにして、次の関門、本当の問題に挑む。

本物を見抜く本物。

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「もうどこかのチームが着いてるかね」

「さあ、どうでしょ?なんかあんまりいないみたいやけどねえ」

カメラクルー1班を引き連れたクイ中3人と渡辺さんが会場入り。しかし、まだどのチームも着いていなかったらしい。

「さあ、三重代表川越高校が一番乗りです。大事そうに風呂敷包みを持っていますねえ」

この場合、一番乗りには何か特典があるのだろうか?そんなことを考えながら、クイ中達は通されるままに羽鳥アナの近くへと陣取った。

「お宝は見つかりましたか?」

「はい、このとおりです」

「どうでした、夕御飯は?」

「刺身とか、いごっていう料理もごちそうになりました」

「いごってなんですか?」

「なんか、海藻を煮詰めたものを固めた料理らしいです」

「へえ、他には?ご飯はどうだった?」

「もちろんおいしかったです。本場のコシヒカリですから」

「魚沼の米ですよ」

「いいですねえ、司会の僕は晩御飯まだなんですよ」

「あ、そうなんすか?」

そういえば、羽鳥アナと本格的に絡むのは初めてではなかろうか?そう思った矢先に、次のチームがやってきた。

「さあ、次のチームは奈良代表東大寺学園です」

彼らの包みは長細いものであった。

「何持ってきたん?」

クイ中達は、羽鳥アナとのトークを終えた東大寺に探りを入れてみたりする。

「掛軸。そっちは?」

「人形。自信ある?」

「ないねえ」

掛軸・・・鑑定品目の王道である。

「ライトはどうしました?」

突然、スタッフの人が聞いてきた。どうやら、渡辺さんが渡されたライトのことらしい。

「あ、それなら僕らがお世話になった渡辺さんが持ってますよ」

「あ、そう。ありがとう」

・・・ところで、あまり考えていなかったのだが本当にお宝鑑定をするのだろうか?いきなり、『その重さによって、このクイズの結果が左右されます』なんてことにならないだろうか?などという埒もない考えが古賀の脳裏に浮かんだ。だが、それもすぐに消し飛んだ。高校生クイズとはいえ、そこまでひねることはないだろう。それに、重さネタは既に今日行われている。

「どうでした、御飯は?」

「おいしかったんですけど、食べてる途中に電話がかかってきて、ほとんど食べられなかったんです」

「それは軽ーい司会者批判ですか?」

山梨英和高校の女の子の苦情に、上手く切り返す羽鳥アナ。会場は笑いに包まれる。彼は福澤アナの代役を見事に果たしているな。クイ中達は、羽鳥アナのことを高く評価していた。全チームが会場に到着して少し、どこかで見たような、眼鏡にスーツ姿の男性が櫓前のテーブルに着いた。

「なあ古賀ちゃん。あれって、『いい仕事』のあの人っちゃう?」

「え?あ、ほんまや!本物の中島誠之助や!『いい仕事』や!」

彼が出向いたということは、やはりお宝鑑定を行うのだろう。なにやらスタッフと打ち合わせをしたらしい彼は、公民館の方へと戻っていった。まもなく本番である。

「本番5秒前、4、3・・・」

2,1、0は指で示され、夜の部の本番が始まった。

「ええ、皆さんにお宝を持ってきてもらいました。これからですね、そのお宝を鑑定いたします。鑑定と言えばこの方です、中島誠之助先生でございます。どうぞー!」

「はい、どうもどうも」

「本物です!いい仕事をしております!よろしくお願いします」

会場を包む拍手。かなりの数の人が集まっているようだ。夜だからそう感じるのか、夕方よりも人が多いような気がする。

「ここではみなさんが持ってきたお宝を鑑定し、その順位によって通過クイズに挑む順番を決定いたします。勝ち抜けチーム数は5です。それでは鑑定の方に参りましょう。トップバッターは、奈良代表、東大寺学園」

なるほど、ここも綱引きの順らしい。まあここは、先に行っても後に行っても大して変わらないだろう。

「東大寺が持ってきたのは、掛軸ですねえ」

「なるほど、いきなり掛軸ですか。はい、それじゃここを持ってね」

と、中島氏は東大寺チームの1人に掛軸の端を持たせて、つつーっとそれを広げた。その手の動きにも、プロの技のようなものが感じられる。

「『ほうがんしじょうめい・・・なんとか』って書いてありますねえ。これは部屋かどこかに飾ってあったものだね?」

「はい」

「ああ、ほら、この軸のところに埃が」

「あ、先生、そんなところまで」

と羽鳥アナが言葉をかけようとすると、中島氏は息を吹きかけて埃を散らせた。やはりプロらしい。

「さあ、東大寺学園の評価額はおいくらでしょう?」

会場の全員の眼が、電光掲示板に釘付けとなった。それは、赤い光の棒を音もなく明滅させ、そして5つの数字を示した。

「65,000円です!」

はたしてこの金額は高いのだろうか?それとも、それほどでもないのだろうか?彼らがトップバッターであるゆえに、3人は決めあぐねた。

 
本物を見抜く、本物の鑑定人が現れた。それぞれのチームが、自分達の持ってきた品を、期待と不安を込めて見つめている。中島氏の鑑定する、宝の過去が持つ価値。それに、彼らはどんな未来を見出せるのか?それを見抜くことだけは、どんな鑑定士にも難しいだろう。

古さで勝負、歴史の重さを心の頼みに。

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「この家で一番古い品ってなんですかねえ?」
「一番古いとなると、これかねえ。ちょっと角が折れてるけど」

と、渡辺さんが手で示したのは、言葉通りの古さを感じさせる人形だった。

「武者人形・・・」

確かに、向かって右側の角が折れてしまっているが、それ以外は色も鮮やかで勇ましさの感じられる人形である。材質は、泥のようである。

「何かエピソードか何かは?」
「エピソードねえ。それはうちのじいちゃんの方が」

と、渡辺さんはお父さんに話を振る。

 

「うーん、なにせ、あんまり古くてわかんないんだよねえ」
「・・・なるほど。この角が壊れたのはいつくらいに?」
「それもわかんないんだよねえ。かなり古いからねえ」
「この家は大体何年くらい続いてるんですか?」
「そうだなあ、大体240年くらいかなあ」
「じゃあこの人形はずっとこの家にあるんですか?」
「そうだねえ。もの心ついたときにはあったから、全然わからんね」
「んじゃあ、これは第一候補やね。何か他に良さそうなものありますかね?」
「んー、どうだろうねえ」

 

とりあえず、3人で部屋を探し回ることに。

 

「あの額に入ってる書はどういったものですか?」
「うーん、あれは大臣になった人の書いたやつだけど、結構新しいからねえ」
「そうですか」
「あの壺なんてどんなもんですか?」
「あれは何かのお祝いにもらったやつだからねえ」
「それじゃこの掛け軸は?」
「それもそんなに大したことないはずだよ」
「・・・どうします?」
「やっぱりあの人形かなあ?」
「・・・そやね。価値はわからんけど、古さなら十分やからね。そっちで勝負しましょうや」
「よし、そうしよ」
「決まった?それならきちんとお願いしようか」
「それじゃ、この人形をお借りします」
「どうぞ。風呂敷か何かに包んだ方がいいね」

と、風呂敷まで持ってきてくれた。

「すいません、トイレお借りしてもよろしいですか?」
「あ、どうぞ。そこの扉を出て、奥に少し行ったら右側ですよ」
「あ、どうもすいません」
「古賀ちゃん、またトイレか?」
「ええやん、行かせてえな」

 

と、古賀はトイレを探しに向かった。彼がトイレの間に、押金が人形を梱包する。大切なお宝に、何かあっては事である。

「それでいいの?」

 

スタッフ氏が清水に話し掛けてきた。

「はい」

このおじさん、この期に及んで何を言ってくれるのか?

 

「本当にそれでいいの?」
「はい。僕らは古さで勝負しますから」

 

少しして、古賀が戻ってきた。

「・・・?この鉄瓶は?」
「あ、それももらったものだから」
「あ、そうですか。ところで、ここには囲炉裏があったんですか?」

すると、おじいさんがやってきた。

 

「そうそう。この部屋の壁は黒くなってるだろ?火を焚くとススがでるだろ?それが壁に付くんだ。このススが虫を防いでね」
「・・・じいちゃん、趣旨が変わってきてるよ。家自慢じゃないんだから」
「そうか?」

 

渡辺家のおじいちゃん、お孫さんにツッコミをいれられる。時計を見ると、時間ももう頃合である。

 

「それじゃ、もうそろそろ行こうか」
「そやね」

 

と、立ち上がったそのとき

 

「テーブルこのままで行くのかい?」

 

つくづくもっともな事だ。食べっぱなしでは失礼至極である。

 

「んじゃ、持ってきますわ」
「ああ、いいよいいよ」
「じゃあ、せめて盆の上にだけでも」

 

と、3人は卓上の皿を盆に片付ける。

 

「一緒に来て頂けますか?」
「いいですよ」

快く同行を引き受けて下さった渡辺さんと共に、クイ中達は玄関に立った。

「じゃあお人形お借りします!」
「御飯、ごちそうさまでした!」
「お世話になりました!」

 

心からのお礼を言い、武者人形と荷物を持って、3人は渡辺さん宅を出た。

 

「それじゃお父さんにこのライトをもってもらいましょうか」
「はい」

 

と、渡辺さんはスタッフ氏から携行ライトを受け取った。時計を見ると、まだ8時10分。5分もあれば余裕で会場まで着ける。急ぐ必要もないだろう。
写真を選ぶ前から、遅かれ早かれこのような形でクイズが行われるのは予想はされていた。不安を無視することは不可能だが、今更じたばたしても仕方がなかった。『古さで勝負』の言葉は強がりのそれかもしれない。

 

だが、今は手にある人形が見てきた歴史を信じたかった。

輝く御飯と、特盛と、電話のベルと。

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中に通された3人がまず見たのは、テーブルの上に並べられた料理の数々であった。とりあえず、着席。テーブルを隔てて左前方のTVを見ると、中日の選手がバッターボックスに立っていた。

すると、スタッフがチャンネルをいじって巨人戦に変えた。さすがに他局の野球を放送しているTVの撮影は出来ないのだろう。照明の調節やらカメラの調整やらが行われている間に、3人は部屋の隅に据え付けられたCCDを発見した。とりあえず、手を振ってみる。あらためて家族の皆さん-渡辺さん、奥さん、お父さん、息子さん-に自己紹介をしたクイ中達。

「それじゃあ食べてください」

と言われて、箸を取り、待ち望んでいた食事の時を迎える。そこに、奥さんがお盆に御飯をのせてやってきた。

「自分のところの田んぼで作ったお米ですからね」
「正真正銘、魚沼のコシヒカリ」
「え?本当すか!?」
「野菜もほとんどうちで作ったものですよ」

 

このとき3人は、という地区の名前しか教えられていなかったこの地一体が、おいしい米で名高いあの魚沼だということを初めて知る。

「やっぱね、ツヤが違うね、ツヤが」

と、清水。

「頂きまーす!」

と3人は輝く御飯を口に運ぶ。古賀の感動は言葉にならず、眼をつむって、ただただうなずくだけであった。

「温かい御飯なんていつ以来やろ?」

ようやく古賀の口から出た言葉。思えば、品川を発って以来温かい御飯とは縁遠い旅が続いていたものである。

「どんな風な旅をしてきたの?」
「はい。ええと、まず東京の品川駅を出まして、そこから山梨まで電車で行きましたね」
「その山梨の夜に、46チームで早押しクイズをやりましたね。一応一抜けでした」
「へえ、それはすごいねえ」
「その夜は電車の中で寝まして、その間に長野を通過しました。直江津のあたりで少しずつ落とされて、鯨波海岸ってところで綱引きクイズをやったんですよ」
「綱引きクイズ?」
「はい、全チームが半分に分かれて、それで綱引きをするんです。引き勝った方の先頭チームがクイズに答えて、さらに通過クイズをするんです。ダメだったら列の一番後ろに戻って、またもう一周。僕らは結局9チーム通過のうちの8番目でした」
「もう一生分綱引きをしましたね」
「普通は1年に1回するかしないかやもんね」
「ところで、こちらではお米と野菜以外に何か作ってるんですか?」
「花を作ってるね。あの仏壇に飾ってある花もうちで作った花なんだよ」
「へえ」テーブルの上には刺身や肉、野菜と盛り沢山である。その中の1つが古賀の目を惹いた。「これなんですか?」
「これは[いご]といって、海藻を煮詰めたものを固めたものです。うちのが作ったんですよ」
「へえ」

 

と、古賀は皿に取って口に運ぶ。独特の味わいである。

「あ、結構おいしいです」
「あ、古賀ちゃん、醤油取って」
「はいよ」

古賀以外の2人も食が進んでいる。今までのような緊張の直後の食事ではないためであろう。

 

「おかわりはどうですか?」
「あ、いいんですか?頂きます」

だが、おかわり1号は古賀であった。

「そういえば、三重の川越町ってどこかわかります?」

「さあ、ちょっと知らないねえ」
「埼玉の方は有名だけどねえ」息子さんも知らない様である。「よく言われます。桑名市ってわかりますよね?」
「はい」
「四日市市もわかりますよね?ちょうどその間にある結構小さな町ですよ。何で有名だろう?」
火力発電所じゃない?」
「まあ、そんくらいの町です」
「でも優勝出来れば結構有名になるんじゃない?」
「出来ればいいんですけどねえ」
「そう言えば、優勝の賞品は何なの?」
「『21世紀、新世紀への旅』って言ってますけどねえ。要は世界で一番早い初日の出が見れる旅だとか」
「『それならトンガ王国だ』ってうちのある先生が言ってましたけどねえ」
「へえ。君達海外旅行は?」
「僕らはないですねえ。古賀ちゃんぐらいか?」
「あ、そうや。春休みに学校の海外研修に行ったわ」
「それは何かの試験か何かがあって?」
「いや、行きたい人が自腹で行く研修です。春休みの2週間ぐらいでしたかね」
「うちの学校、英語に力入れてましてね、僕のクラスからも1人、1年間の海外留学に行きました」
「あ、僕らのクラスからも行ったよね?」
「おお、行った行った」
「おかわりどうします?」

再三おかわりを勧めてくださるので、断ると失礼かなと思った清水は

「あ、じゃあ少しだけお願いします」

と言い、茶碗を差し出した。奥さんが戻ってきて、その手の盆にのせられていた茶碗を見たとき、清水はびっくりした。大盛、いや、むしろ特盛という形容の方が正確だろう。

「かっちゃん食えよ」
「出されたものは食うのが礼儀やぞ」
「全然オッケー。なんたって本場のコシヒカリだからさあ」

と、清水はその茶碗に箸を運んだ。食べきれるだろうか、という不安はあったものの、清水は勢いよく目の前の特盛を食べ始めた。

「お父さんのコップが空だけど」

と、スタッフの声。

「おっしー、お酌して」

との言葉に、リーダー押金は立ち上がる。まず、

「あ、どうも」

と言う渡辺さんにお注ぎする。次の息子さんには、「あ、俺は飲まないから」と言われたのでビンを置いて席に戻る。

「俺お酌なんて生まれて初めて」
「うそ?」
「ほんまに?」
「お父さんには?」
「ない」

スタッフの誘導から、息子さんがパソコンで作成した、祭のポスターのことが話題になっていた。その途中、不意に部屋の電話が鳴った。「はい、はい。高校生の方と代わってくれって」と、奥さんが押金に受話器を差し出した。

「はい、お電話代わりました」

『こんばんは、司会の羽鳥です』

「あ、こんばんは」

『御飯頂いてますか?』

「あ、はい」

 

羽鳥アナ直々に電話をかけてきたということは・・・、押金は思った。なにかあるってことじゃないだろうか?

 

『これからクイズを行います。よく聞いてください。そのお宅にある一番古くて価値のあるお宝を、8時15分までに探してお祭の会場まで持ってきてください。よろしいですか?』

「あ、はい」

 

この番組が、今日という日を易々と終わらせてくれるはずもない。そう思いながら、押金はチームメイトに電話の内容を告げた。

 

「クイズだって」
「エエーッ!?」
「マジでー!?」
「モ―――――ッ!!」あの『今日は畳の上でゆっくりと』って言葉はなんだったんやねん!と、胸の内で毒づきながらも、古賀は「んで、どんなクイズ?」と尋ねた。「何か、この家で一番古くて価値のあるお宝を探して、8時15分までに例の祭の会場まで持って来いってさ」
「・・・今何時?」
「・・・7時40分」
「そんなにゆっくりしとれやんね」
「それじゃ早速探したいんですけどいいですか?」
「家の中を探して回るんだから、きちんとお願いした方がいいんじゃない?」とスタッフ氏。やはりもっともな話である。3人は起立。「ごちそうさまでした。家の中を探してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。ところで、何かよさそうなものありますか?」
「それじゃこっちに」

 

輝く御飯に感動し、特盛に驚いた3人だったが、その幸せも、電話のベルに終結を迎える。

高校生クイズをなめると痛い目に遭う。その言葉を忘れてかけていた罰を身をもって受け、クイ中達はこの夜本当の関門に挑み始める。

夕暮れの原地区、モノクロの光景だけを手がかりに。

2011年1月10日 § コメントする

高校生達が説明を受けているときに、会場にいた人々は帰宅したようである。

「それでは家探し、スタート!!」
羽鳥アナの掛け声で、各チームはぞろぞろと公民館前広場をスタートした。押金が荷物持ちを進んで引き受けて、それを背に負っていた。古賀はまず、その荷物の中に入っていた筆箱からルーペを取り出した。

「この古さやと、知ってるのは年寄りの人くらいかもしれんやろ。目が悪い人やったらあかんでね」

そう言いながら、彼は地図と写真を手に取った。

「とりあえず、ここから一番近いこの家からやね」

清水は古賀の持つ地図を覗き込んでから作戦を確認した。

 

「そうそう。ローラーの第一目標やで」

 

ローラー』は押金お気に入りの言葉らしい。坂道を下ると、すぐにその家はあった。他のチームはその家の前のT字路を曲がっていくだけで、まだその家にアタックをかけているチームはなかった。

「よし、それじゃ行こうか」

この番組が今日ここでロケをすることは恐らく知れ渡っているだろう。だが、いきなりこんなアロハの3人が来るってことはどんな風に受け取られるのだろうか?

「こんばんはー!」
「こんばんはー!」

「おじゃましまーす!」

そんな緊張や挨拶の声と共に、古賀は扉に手をかけた。

「あのですね、ちょっとお伺いしたいんですけど、こちらの方がどなたかわかりますかね?」

 

我ながら妙な敬語だ、そう思いながらも、古賀はポケットのルーペを差し出した。

「・・・こりゃヨシオじゃねえか?」

「・・・?どちらのヨシオさんですか?」

老人は、なおも古賀の小さなルーペ越しに写真を覗きこむ。

「おじいちゃん、コレ」

と、家族の方がもっと大きなルーペを差し出した。

「・・・おお違う、こりゃあコウイチだな」

「・・・?どちらのコウイチさんですか?この地図で言うとどのあたりに?」

と、古賀は愛用のペンを渡す。

「ここの、[渡辺公一]だな」

その通りなら-恐らくその通りだろうが-ローラー作戦はここに終了である。

「ありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

「おじゃましましたー!」

と、アロハの3人組は足取りも軽くそのお宅をおいとました。
原地区の道を歩くクイ中達。すれ違う各チームにも、そして自分達にもカメラがそれぞれ付いて回っているのにあらためて気が付いていた。

それは、それだけのチームが脱落していることの証明でもあった。今日は本当に御飯を食べてゆっくり休むだけで終われるのだろうか?そんな不安はあったが3人の歩みは軽く、歌を口ずさむほどであった。

 

「『愛したのはー[ほんとにー]♪』やって」

「絶対に違うって。『愛したのはー[確かにー]♪』やって」

「ええ?そうやっけ?」

ふと思い浮かんで口ずさまれていたのは、オフコースの[さよなら]であった。その歌詞のサビの部分で、清水と他2人の記憶が食い違っていたのである。

「愛したのはー確かにー♪・・・ああ、そうなんかなあ?」

「うん、そう。絶対にそう」

とりあえず、意見の一致をみる。こんなところで[さよなら]とは縁起が悪いのもいいところだが、クイ中達にとっては「いい曲はいい」のであって、縁起など二の次であった。こんな会話も収録されているのだろうか?少しはうしろのレンズを気にしながらも、彼らは少しずつ目標である[渡辺]さん宅に近付いていた。「ここを右やね」「OK」日もだいぶ低くなって暗くなった脇道だったが、後ろに引き連れたスタッフの照明に照らされて、とりあえずつまずく心配はなかった。

「ん?たぶんあの家かな?」

「よし、着いたね」

どんな人なのだろうか?不安も混じりながら、3人は渡辺さん宅の玄関をくぐった。

「おじゃましまーす!」

「こんばんは-!」

「こんばんはー!」

奥から、ご主人らしき人物が出てきた。清水はその顔を見て確信した。

 

 

-この人だ・・・-

 

「ちょっとお伺いしたいんですが、こちらの写真に見覚えはありますかね?」

「あぁ私です!」

「やったー!」

「泊めてください!」

「お世話になります!」

歓喜の声と共に、クイ中達は渡辺公一さんの手を握った。

 

「自己紹介もせずに上がるのかい?」

 

スタッフの声。もっともな話である。

 

「三重県の川越高校から参りました、押金康作です!」

「古賀洋輝です!」

「清水克樹です!」

「それじゃこちらにどうぞ」

 

 
モノクロの光景だけを手がかりに、思いもかけないほど早く目標の家にたどり着いたクイ中達。今日はこれで本当に終わりなのだろうか?そんな不安もあったが、それよりも空腹の方が勝っていた。

笑顔で迎え入れてくれた渡辺さんに深く深く感謝しつつ、お宅に上がりこむ3人であった。

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川越高校クイズ研究所大会参加記録第二部 カテゴリーを表示中です。

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