決勝前夜、クイ中達の一番長い夜。

2011年1月22日 § コメントする

 

そこには見慣れた荷物があった。機山館地階。そこの広間にはこの期間中ずっと高校生達の荷物が置かれていたらしい。

 

「ひっさしぶりやなあ」

 

「ほんまやあ」

妙な感動である。

「これってさ、あのジュラルミンじゃない?」

古賀が気付いた。

「あ、ほんまや!やっぱりでかいなあ」

他、数個の見慣れたカバンが置かれていた。全てのチームが、ここでカバンを返し、各自の荷物を持って帰路についていったのだろう。

・・・それにしても、こんなに重かったか?

三重からの荷物を肩にかけ、そんなことを思いながら、今度は上階の部屋に向かった。

 

 

「それじゃ、7時に下の食堂で」

 

「ハイ、わかりました」

部屋の扉を開け、明かりを点けた。

「おー!」

 

「こーれはすごいねえ」

 

「リッチやなー」

 

確か東大寺と神奈川工業は2度目のはずだが、クイ中達には初めての機山館宿泊である。

「すげー、風呂にトイレ付きだよ」

「すーげー」

よくわからないが、半分ヤケッパチである。

「バスタオル付きやで。太栄館じゃバスタオルも荷物送りにして大変やったのにねえ」

 

「こっち泊まりはラッキーだったんやねえ」

「ほんまやわ。とりあえず着替えよ。やっと持ってきた服が着れるわ」

「あ、古賀ちゃん、あのコンセントのヤツ貸して」

清水は団扇を机の上に置き、古賀に尋ねた。

「ん。ええと、なぜか旅のカバンの中に入れて持ってってたんだよね。・・・あった。ホイ」

「サンキュー。やっぱりコンセントの数は少ないわ」

「そやね。充電用に持ってきてよかった」

清水と古賀は二股になったコンセントにそれぞれの電話充電器のプラグを差し込んだ。

「ちょっと電話しよう」

と、古賀は充電をする前に携帯のメモリーを呼び出した。今日九州から自宅に帰ってくるはずだが、この時間には戻れているか微妙だったので父親の携帯番号を選んだ。

「頂きまーす」

7時の集合時間にクイ中達がやってきたときには、東大寺、神奈川工業、加治木、そして土居さんと矢野さんの11人は既に席に着いていた。おかずは刺身とトンカツと、サラダと味噌汁、御飯はオカワリ自由と、大喰らいには嬉しいメニュー。

ここでも市村さんと土居さんの爆笑トークが炸裂し、楽しい食事となった。そんな中で、土居さんの素性が明らかとなる。

「え、役者さんなんですか?」

驚きの古賀。

 

「そうそう」

「どんな役をやってたんですか?」

「『葵・徳川三代』ってやってるでしょ。その関ヶ原の合戦のときの兵隊」

「切られ役とか?」

「そうそう。3回くらい死んだかな」

「3回?」

「別の役で何回もでたからねえ。足軽から、結構上位の侍まで」

「他には?」

「オカマとか」

 

一同大爆笑。

「似合いそー!」

と市村さんも大ウケ。

「有名な人とも一緒に出てたんですか?」

「うん、そうだね」

「一緒にやってみて、『実は性格悪かったんだ』って人とかいますか?」

「・・・うーん、それは言っちゃうとアレだからなあ。でもね、いい人もいっぱいいるから。羽鳥さんなんかもすごくいい人だったよ」

「そうそう。実は原地区で涙ぐんだりしていたからね」

と、土居さんの言葉に矢野さんも賛同した。

「でも羽鳥さん、ホントにいい人そうだったよね。一緒にいた時間が長かったからか、すごく身近に感じたし」

「そうやね」

全員が、この旅の一場面一場面を思い出していた。

「土居さん、今は何をしてるんですか?」

「あ、台本見る?」

「え?あるんですか?見ます見ます!」

土居さんはカバンから本を一枚取り出し、古賀に手渡した。

「・・・『恋愛恐怖症』・・・。・・・この、『別の男』ってのが土居さんですか?」

「そうそう」

「この、『男』が主人公ですよね?・・・この主人公の台詞、『・・・・・・』ばっかりですねえ。『別の男』の方がしゃべりは多いですね」

「見せて見せて」

「はいはい」

台本が各テーブルを回る。そして、土居さんの台本暗記度チェックなどで盛り上がった後、夕食はお開きとなった。

「何年生?」

先程約束をした集合写真を撮り終えて、清水は加治木のメンバーに、少しばかりの疑問をぶつけてみる。

「2年生ですけど…」

「え?タメじゃん!」

「え?マジすか-!?ずっと3年生だと思ってた-!」

「え!そうだったん!?」

 

先程清水が測りかねた疑問は、ここに解決された。

「それじゃ、川越と東大寺と神奈川は、明日のための勉強会をやるから9時になったらまたロビーに集合ね」

「はい」

・・・そう返事はしたものの、一体勉強会とは何か、それはわからなかった。

「うちの父さんエライこと言ってくれた」

「ん?どうしたん、おっしー?」

自宅に電話をしに行き、戻るなりグチを漏らした押金に古賀が尋ねた。

 

「それがさ、うちに日テレから電話がかかってきたらしいんさ。スタッフが俺のこと聞いたみたいなんよ。そんときうちの父さんが俺のことを阪神ファンって言ったんさ。俺はアンチ巨人だけど阪神じゃなくて横浜ファンなんやって」

「そうやったねえ。てか、自宅に電話なんてかかってきたんだ。うちの父さんはそんなこと言ってなかったな。リーダーのとこだけなんかな?」

「わからん。でもどうすんの?もし放送で嘘流れたら?」

「まあ、大丈夫じゃない?そんなに気になるのなら、富田さんにでも言えばいいんやし」

「そやな~」

流れから一番端の-いわゆるエクストラの-ベッドとなった古賀は、旅のカバンから自分のカバンへと荷物を移し終えて寝そべった。彼は一番初めにシャワーを済ませており、今は2番目の清水が浴室を使っている。

「明日はどうなるんやろね?」

ふと、荷物を整理していた押金に言葉をかけた。

 

「どうなるんやろねえ?」

「神奈川は3年生だよね。東大寺も3年やったっけ?」

「ん、そやで」

「東大寺、強いやろね」

「そうやろねえ」

「ん?東大寺がどうしたって?」

 

不意に浴室の扉が開いて、パンツ一丁の清水が出て来た。

 

「おわ!びっくりした。・・・いやね、東大寺は強いやろなあってね」

「やろ?やろ?大方の予想はそうなのよ。そ、こ、で、最低だったはずの僕らがどこまで喰らいつけるかってことなんだよね。僕らがどれだけ自分達らしく戦えるか?クイ研や、中部の仲間に恥ずかしくない戦いができるか?これが大事なんやで」

「そやな」

「そうやね」

「ちょっとこのパンツ見てくれん?」

「・・・それ、そのパンツ替えないの?」

風呂あがり、半裸の清水が身に着けていたのは、旅と変わらない赤の勝負パンツだった。

「こうなったら最後まで履いていくよ」

と、彼は髪を乾かすために再び浴室に入っていった。

勉強会』の集合時間である九時前。今度は遅刻にならないよう、クイ中達は割と早めに部屋を出た。地階の会議室でやると思い、必要かどうかはわからなかったが筆箱も持参することにする。

エレベーターでひとまずロビーへ。

チン♪

と扉が開くと、ロビーには既に8人が集まっていた。

時計を見ると大体8時45分くらいである。富田プロデューサーも来るらしいのだが、まだその姿は見当たらない。脇に新聞を見つけた古賀は、手にとってざっと眼を通してみる。

 

「あのさ、どこぞで潜水艦が沈没したとか言ってるけど、今世の中はどうなってるん?」

「さあ、どうなってるんやろ?」

 

2日や3日ニュースや新聞を見てないだけでも相当のブランクを感じることは、それだけ世の中の動きが激しいのを意味しているのだろう。忙しい時代である。お盆も夏休みも関係はないらしい。

「え?土居さん、13回で決勝まで行ったんですか!?」

「うん、行ったよ。3位だったけどね」

「よし、13回なら本持ってきてたやんね?」

「うん、あるよ」

「あとで見ましょか?」

「え?あの本持ってきてるの?」

「ハイ、図書室に入れてもらってたんですよ」

「すごいなー」

「・・・ところで、Mr.Tはまだ来ないんですか?」

Mr.Tとの呼び名は、先の話題に出ていたTプロデューサーの名を踏んでのことである。

「Mr.Tねえ。もうそろそろ来るはずなんだけどなあ」

「登場のときにダースベイダーのテーマとかかかるんですかね?」

「あ、俺の携帯の着メロに入ってるよ。うまくかけてみよか?」

と土居さんは携帯を取り出し、ボタンをいじりだした。

・・・チャーチャーチャチャーズンチャチャーズンチャチャー♪

一同爆笑。

「いいっすねー、それ!」

「富田さん、どうリアクションとるやろ?」

 

期待は高まる。

「あ、来ましたよ」

「あ、やべ」

入り口からフロント前を通り、富田さんがやって来た。即座に土居さんの携帯がなる予定だったが、タイミングを合わせ損なう。

「おう、悪い悪い」

と数分の遅刻を謝る富田氏の後ろで、ついに計画は決行された。

・・・チャーチャーチャチャーズンチャチャーズンチャチャー♪

「それじゃ、時間がないから早く始めようか」

富田氏は背後の音に気づかなかったのか、普通の着信だと思ったのか、それとも無視しているのか、ノーリアクションでエレベーター前まで歩いていく。それはそれで、一同の笑いを誘った。

説明を受けると、勉強会とは、スタッフ1人が1チームに付いて30分程の限られた時間で出来るだけの問題を読み上げ、高校生はそれにひたすら答えるという形式らしい。

川越クイ中には土居さんが、神奈川工業には矢野さんが、そして東大寺には富田氏が付くことになった。

「男3人で申し訳ないですねえ」

「いやいや」

「あ、例の本見ます?」

「見る見る」

「ええと、愛媛、愛媛・・・、あった!・・・『リーダーの土居君は、父親譲りの電撃アイズ。』・・・ハハハハ!」

「見して見して。・・・ハッハッハッハ!」

「電撃アイズ!か~。そんなこと書いてあったなあ」

「それにしても、土居さん若いねえ」

「ほんまや~」

そして、クイ中達は本を置いて、それぞれのベッドに腰掛けた。

「それじゃ、3人の早言いでやっていこうか」

「ハイ」

「古賀ちゃん、おっしー、書くものある?」

「あるで」

「正解数と間違いの数とを書いてかん?」

「おう。そうやね」

 

土居さんは椅子に座り、体制は整った。

「『エデンの東』を書いたアメリカの作家は?」

「・・・ちょっと待って、2人とも待ってよ。ええとね、これはやったぞー!」

清水が押金と古賀を制した。今までに2、3回程やっている問題である。・・・くそ、いつになってもカタカナは憶えづらい。

「かっちゃん、答えていい?」

清水には申し訳ないと思ったが、あまり後に引かせるわけにもいかず、古賀は尋ねた。

「しゃーない。ええよ」

「スタインベック」

「正解」

「フルトンがハドソン川で走らせた世界で初めての蒸気船は何号?」

「あー、これ調べた!今日がその日なんだよ」

まさかこんなところで出てくるとは・・・。古賀は、1週間ほど前に何気なく本屋で立ち読みした記憶を蘇らせようとした。そのとき読んだ本は『今日は何の日』。

なんとなく、このクイズの期間は何の日に当たるかを調べたのである。一番印象に残っていたのが、8月16日の、世界初の蒸気船航行のくだりであった。

「ちょっと待って下さいね。携帯のメモリーに入れてあるから・・・。・・・あった!・・・クラーモント号」

「正解」

「駆け込み寺として有名な、鎌倉にあるお寺は?」

「南禅寺!」

と清水。

「違います」

と土居さん。

 

「やっぱし!似たような問題が2つあったんだよね。もう1つ、何やったかな~?」

「正解は東慶寺」

「ああ~そうや!」

「灰の汁と書いてアク。では、墨の汁と書いて何と読む?」

「ボクジュウ!」

「正解」

「小さい『や』、『ゆ』、『よ』は、拗音。では、小さい『つ』は何?」

「・・・促音!」

「正解」

「・・・キョーオン?」

「よ・う・お・ん」

「・・・へえ、知ってた?」

「いや、知らんかった」

「ヨウオンねえ」

「ところでさ、この『促音』って、いっつも『撥音』と間違えてまうんだよね」

「僕も」

「なんでやろ?」

「石川五右衛門が『絶景かな』と言ったことでもしられる・・・これがさっきの」

南禅寺ですね」

「その通り」

「『めぐり逢いて、見しやそれともわかぬまに』さて、このあと雲に隠れてしまったのは何?」

・・・雲隠れにし・・・

「夜半の月!」

古賀、この旅始まって以来始めて出題された百人一首問題に張り切って答えた。

「正解。月、夜半の月、どちらでも構わないですね」

この歌は、昨年末の川越高校クラスマッチ、百人一首部門に友人と3人で出場したときの彼が憶えた守備範囲33首のうち1つだった。

「体内に入り込んだ異物を攻撃するのは抗体。では、それに対して体内に入り込んだ異物を何と言う?」

「抗原」

 

押金が答えた。

「あー。そやったそやった」

「労働省が定めるフリーターの定義、下は15歳、では上は何歳まで?」

「・・・25!」

「違う」

「28!」

「まだ」

「30?」

「あ~、惜しいねえ」

「35?」

「行き過ぎた」

「32!」

「違う」

「34?」

「あ、正解」

「へえ~、結構上までいっとるんやねぇ」

「それじゃ、ここらへんで時間だね。すぐ寝るの?まあ無理だろうね」

「ハイ。もう少し勉強しようかなと」

「そうか。それじゃ頑張ってね」

「はい、ありがとうございました」

数十の問題をダッシュで解いた、30分ほどの勉強会が終わり、土居さんはクイ中達の部屋を出て行った。

 

「・・・ちょっと力が足りやんね」

と、古賀はつぶやいた。

「そやね。古賀ちゃんの成績はどうやった?」

と清水。

 

「正解数は結構あるけど、間違いもかなりある。俺らしいっちゃ俺らしいんやけどね」

「やね。このままじゃちょっと東大寺にはかなわんと思うんよ。きちんと役割分担をしていこうに」

「どういう風に?」

と押金。

「例えば『十中八九』『三三九度』『五十歩百歩』って読まれたとする。こういう問題は、計算に転ぶ可能性もあれば、普通の問題になる可能性もある。そんなときに、僕は頭を計算に持っていくから、古賀ちゃんとおっしーは文系に持っていく。文系でも、古賀ちゃんは正面から純粋に考えて、おっしーは辞書順とかアルファベット順で考えるってな風に」

「なるほど」

「あとはもう攻めるしかないね。神さんもそう言ってたやろ?」

「『攻めろ』か」

「よし、今夜は猛練習やで。明日に備えて頭をクイズモードにしよに」

「よっしゃ」

「そやね」

「ちょっとお茶でも飲もうかな」

 

と、古賀はポットを手に洗面所に向かった。水を入れ、机に戻りコンセントを差し込む。

「それじゃ始めよか。いい?ここで読ませ押しのタイミングなんかの確認をするんやで?」

「OK」

まずは清水が、数ある持参本の中から『高校生クイズ最強の指南書』を手にし、先程は土居さんが座っていた椅子に座った。・・・以前クイズの研究をしているときに、ある本に出会ったことがある。『クイズは創造力』。筆者の長戸勇人さん(記録班注:第14回ウルトラクイズであの永田さんと戦って優勝を収めたクイズ王。彼の理論は、清水を始めとしてクイ中達に大きな影響を与えている)はこう書いていた。・・・『クイズの実力は、やった問題の数に比例する。』

「それじゃ、交代しよか」

「おう」

 

古賀は押金から指南書を受け取り、椅子に座った。数問問題を読み終わり、ふと横を見たとき、彼は重大なことに気がついた。

「あ!漏れとる!!」

少し前に水を入れ、お茶をいれることなくすっかり忘れていたポットから、入れすぎていたのか、水が漏れ出していたのだ。

「かっちゃんの団扇も濡れとる!」

「マジで!?」

 

確かに、清水の団扇も、一部分ではあるが漏水の被害を受けていた。

「ティッシュ!ティッシュ!」

急いで拭き取るが、寄せ書きは水性ペンで書かれていたため、少しにじんでしまった。

「ゴメン、かっちゃん!」

古賀は平謝り。クイズもそうだが、どうも自分にはこういうウッカリが多い。早くそれを治す必要性を痛感した彼だった。

「・・・答えるタイミング、今のじゃ早すぎるかな?」

古賀が尋ねた。

「今のだと少し早いかもしれんね。まだ他の方向に転ぶ可能性もあるから」

と清水。

「やな。・・・俺、どうしても急いでまうんやな。注意せなあかん」

「やね。でもね、攻めるってやっぱり大切だと思うで」

「ん、わかった。ところでさ、さっきの勉強会、どんな意味があったんやろ?」

「あの問題がそのまま出てくるって事はないけど、やっぱりヒントは隠されとるんちゃう?」

と、押金。

「問題の構成が逆になるって可能性は大きいよね」

と、清水。

 

「『AならばB、ではCならば何?』って問題が、逆に『CならばD、ではAならば何?』って問題に化けるってことやね」

「そうそうそう。だからさっきの『拗音』やったっけ?あれなんか、『促音』でも『撥音』でも『半濁音』でもいくらでも仲間がおるでね。ああいうのはとっさに選択肢を頭の中に浮かべやんとね」

「やっぱり勉強会をやるってことは、TV的に決勝は面白くってのがあるんかな~?」

「そうっちゃう?」

「・・・不公平、にはならんか。どのチームも同じ問題やってるだろうからね」

「そうそう」

「よっしゃ、次の問題いくで」

「おし」

「うし」

問題練習も一段落し、ベッドに寝転がったクイ中達。黙っていると、枕側の隣の部屋から物音が聞こえてきた。隣は神奈川工業だっただろうか?

「神奈川は起きてるみたいやね」

「反対側は東大寺だったっけ?」

「そうだったと思うけどね。静かやね」

「もう寝たんかな?」

「じゃない?あ、古賀ちゃん、そのクッション貸して」

 

古賀のベッドは本来ソファーなのか、背もたれ部分が取り外し可能なクッションになっていた。彼はそれを2つ隣の押金に投げた。

「結構大きいなあ」

古賀が起き上がったついでに時間を見るともう1時くらいになっていた。

「そろそろ寝ますか。明日何時起き?」

彼は尋ねた。

「9時にチェックアウトって言ったね。7時くらいでいいんちゃう?」

その応答に、携帯のアラームを7時にセットする。音量は最大、振動もつけてである。3人は明かりも消し、布団にもぐりこんだ。

「何か賭けようか?」

そうそう簡単に眠れるわけもない。他の2人も起きてると思い、清水は口を開いた。

「賭けかー」

「かっちゃん何賭けるん?」

予想通り、ほかの2人とも寝ていなかった。

 

「僕かー。僕はなー、何賭けよう?あ、優勝できやんだら、現文の授業寝ないで真面目に聞くことにするわ」

「てことは、優勝したら寝るってことやね?」

「そうそう。あー、こりゃ優勝せないかんわ」

「せないかんね」

「俺は携帯買うわ」

「お!?ついに買うか?」

「ホントはあんまり欲しくないんやけどね。でも優勝したら買うわ」

「そうかー、ついにおっしーにも携帯がやってくるかー」

 

2人には悪いと思ったが、古賀は何も賭けないことにした。理由は、賭け事に弱い-と自覚している-からである。何かがかかると、本当に弱いのである。だから、あえて何も賭けないことにした。臆病かも知れないが、勝負以上のことまで気にかけていられるほど器用な人間でないのは、自分が一番よく知っている。そんなことを考えながらボーッとしていると、段々意識がおぼろになってきた。そのまま眠りに落ちるかというところで、不意に何かが彼とぶつかった。

「おわっ!!なんや!?」

見ると、先程押金に渡したクッションである。

「古賀ーっ!」

「かっちゃんか。何してくれるん!?」

「遊んどる」

「・・・かっちゃん、何か夜になってキャラ変わってきてへん?」

「え?そんなことないで、なあ、おっしー?」

「なあ?古賀ちゃんのが変やで」

「またそんなことを言う・・・」

 

 

8月16日。関東甲信越を一周した3日間の旅は終点を迎え、残すのは、明日の決勝戦だけとなった。

あの中部大会の1日、そして様々な出会いと別れがあったこの旅の3日間。その思い出と絆の集大成を、自分達の力の全てにして明日にぶつけるべく胸に誓った3人。

第20回全国高等学校クイズ選手権、その決勝前夜。時刻は深夜2時過ぎ。3人の、この旅で一番長い夜は、まだまだ続く。

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失意を知る者、知らぬ者、笑う者

2011年1月10日 § コメントする

海が見えたかと思えば視界から消え、また現れてまた消える。そんな繰り返しで新潟の日本海沿いを行く特Q!FIRE号。今度は何の用事だか、柿崎駅で停車。やはり周りには何も設営されていない。

『しばらくここで停車いたします。新鮮な空気を吸いたい人は、外に出ても構いませんよ』

・・・新鮮な空気。全員の脳裏に昨日の四方津駅での出来事が浮かんだのは想像に難くない。

 

しかし、

「何か大丈夫そうやね」

「かっちゃんどうする?」

「僕は中におるわ」

「おっしーどこいったん?」

「トイレっちゃう?」

「ん、それじゃちょっと外に出てみるわ」

 

「あ、前の方は来ないで」

「あ、すいません・・・」

そういえば、この豪華列車と一緒に写真に写ってなかった、と思った古賀は、押金に撮影を頼んだ。

車両前方部は演出の遠藤氏に禁止されてしまったので、後方に向かう。

「よしっ!激写すんで!!」

「激写はあかん。フィルムには限りがあるんやでな」

「えぇー、そんなんつまらん」

古賀は昨日押金に撮影を頼んだとき、4枚分もフィルムを使われていた。ただ、押金に言わせればその4枚は「全部アングルが違う!」らしい。

「それじゃ、このFIRE号と一緒のやつと、あの高校生クイズのロゴと一緒のやつ、合わせて2枚でどう?」

古賀が妥協案を示した。

「しゃーないなー、全くー」

と、押金は古賀からカメラを受け取った。

「この膝の曲げ具合がええやろ?」

「おっしー、そこまでこだわるん?」

「あほーっ!あたりまえやろ!激写するんやで!!」

[激写]カメラマンは、普通のそれと撮影の姿勢から違うらしい。パシャッ、パシャッ。

「ん、ありがとう。なんか向こうのホームに自販機あるらしいんやけど」

古賀は、押金がよからぬ気を起こす前にカメラを受け取って言った。

「マジで?いこいこ!」

「[Dakara]お願いしまーす!」

「僕もお願いしまーす」

自販機はホームと言うより、駅舎の外にあった。高校生達は駅舎の外に出るわけにもいかず、スタッフの人に頼んで買ってもらうことにした。と、駅の方へと自転車でおじさんがやってきた。

「新潟チームのリーダーの父親です」

とのこと。そう言えばここは新潟だった、と思い出した2人は、ジュースを持って反対側に戻ろうと階段に向かった。

そのとき、とあるチームがジュースの1.5Lペットボトル数本と、結構な量のお菓子を持ってやってきた。名札を見ると、新潟チームだった。

「どうしたの、それ?」

「ちょっと里帰りしてね、差し入れもらってきた」

質問にそう答え、柏崎高校は2人にペットボトル1本と、ケーキらしきものが入ったパックを2つほどを差し出した。

「え?」

「もらって。たくさんあるから」

「ほんとに!?めっちゃうれしいわ。ありがとう!」

2人は礼を言ってFIRE号に戻った。

「どうしたん、それ?」

清水は、いきなり届いた大物に驚いた。ジュースを買いに行くとは聞いていたが、ペットボトルとは聞いていなかった。

「新潟チームが里帰りしたらしくってね、もらってきた差し入れをお裾分けしてもらっちゃったんやわ」

「新潟の人達、ここが地元らしいねえ」

この停車の理由の1つであろうものが判明した。しかし、3人で頂くわけにはいかないだろう。

「みんな飲むやんね?」

清水は後ろの岐阜北、磐田南にも声をかけた。

「どうしたの、それ?」

「なんかねえ、新潟からのお裾分けらしい」

「ほんとに?新潟に感謝だねえ」

「ほんまやねえ。ところでコップどうする?」

「洗面所に水飲み用の簡易紙コップがあったやろ?」

「持ってくるわ」

「そのパックは?」

「バナナクレープ」

「それはどうしよう?」

「あ、割り箸持ってるよ」

と、磐田南チームが割り箸を取り出した。

「さすが!」

紙コップもやってきて、ペットボトルのふたが開けられたが、自分達だけで盛り上がるのはどうかと思い、後ろにも声をかけてみる。

「ジュースいりますか?」

「どうしたの、それ?」

「新潟からの差し入れです」

「欲しい!」

と言うことで、ペットボトルとバナナクレープが車内をまわった。

「バナナなんて久しぶりだねえ」

「ほんまやなあ」

「新潟最高!」

久しぶりに果物を口にして宴もたけなわの頃、列車は柿崎を後にした。しばし海沿いを行くFIRE号。ジュースは一回りし、中部勢の方に戻ってきた。ちびちびやりながら、新潟に感動する。

「新潟に足向けて寝れやんね」

「ほんまやね」

そのとき、フリップが配布された。再び始まる・・・。

 

『みなさん、そろそろ出てきますからよーく見ていて下さい』

 

全員が窓の外を注視したが、まだトンネルの中だった。

『問題、国土地理院で灯台の地図記号として定められているのは右?左?どっち?』

トンネルを抜けたが、見えたのは海だけだった。と、スタッフが昨日の防火標語のときと同じようにボードを持って現れた。右側は歯車のような、左側は太陽の真ん中に点を入れたようなデザインだった。

右は工場の記号、正解は左。3人はそう思った。しかし、手元に清水の地図帳があるのだから、それで確認するに越したことはない。

『あ、大漁旗に描かれているあれがそうですねえ』

見ると、波に揺られた漁船の上に、風で煽られた大漁旗があった。そして漁船は2隻、旗も2本あった。とりあえず、3人は地図帳へと目を戻す。あった。

「左やね?」

「間違いないでしょ」

「うん」

「それじゃ回収します」

「え?」

ほぼ全員が次の問題を予想していた矢先、フリップは回収された。

 

「たった1問?」

 

当惑を隠せない乗客達。その脇を、富田プロデューサーが通り過ぎた。

 

「次は一気に降ろすぞー」

 

との言葉を、意味ありげな笑顔と共に残して。

一気に降ろすのならば、自分達はもう終わりだろう。清水はそう考えていた。実力から言えば、ここらへんが関の山。悔いはない。運で来たのなら、ここらへんがもう潮時だ。

「はあ、ここで終わりか」

押金も寂しそうだった。まあ、ここらへんならキリもいいところだろう。

だが、「残りたいな」誰ともなく、そうつぶやいた。

 

『次の駅で、自分のチーム名の書かれた札が立っていたら、そのチームは降りて頂きます』


その言葉は、今までのどの言葉よりも彼らを落ち込ませた。しかし、残りたかった。この列車から乗り換えて、東京に直行。その車内で、どんな言葉を互いに掛け合えばいいのか?

今まで出来るだけ封じ込めていた悲観的な考えが脳裏をよぎり始めた。

列車のスピードが緩まってきた。祈っても祈り足りないくらいだったが、それでも祈った。

だが、既に判定は下っていた。白地に黒でチーム名の書かれた札が通り過ぎていく。

 

千葉の船橋、山梨英和、磐田南、岐阜北。・・・それに続いて、川越高校の札も立っていた。

 

「・・・くそっ!」

「やっぱりか・・・」

降りろと言われれば、降りるしかなかった。3人は忘れ物に気をつけて、FIRE号を降りた。岐阜北に磐田南、みんな一緒なら悪くないな・・・。だがそれも、自分を強引に納得させようとする言葉でしかなかった・・・。

 

「あれ?降ろしすぎたかな?」

 

富田プロデューサーはそう言ったような気がした。前方車両のチームもかなり降ろされていた。みんな共倒れならしょうがない。そう考えれば楽だった。これなら言い訳も立つだろう。

ふと、前方の方から歓声があがった。誰ともなく、「降りたチームが勝者」と言った。

 

「…え?マジで!?」

「ィヨッシャーッ!!」

「オッシャーッッ!!」

「ウオー!」

「キャーッ!」

 

JR鯨波駅、失意の後だけに、喜びの叫びはいつも以上だった。後ろを見ると、先ほどとぼけていた富田プロデューサーの顔に、満面の笑みが浮かんでいた。高校生をだますことを楽しんでいるに違いない。このオッサン、この仕事絶対好きでしょうがないのだろう。さぞかしいい画が撮れただろうに。彼を見た誰もがそう思った。

「あのさあ・・・」

「ん?どうした、古賀ちゃん?」

「これってもともと、降りた人が勝ち抜けって決まってたんじゃないの?」

「え!?今まで『終わった~』とか全然考えてなかったの?」

「何かみんなの顔から喜びが感じられないなあとは思ってたけどねえ。ここで降りた人は負けってことになってたん?」

 

古賀は、いつも何かがワンテンポ遅い。

 

知った者、知らなかった者、笑った者、いろいろいたが、失意は喜びに変わった。だが、降りたということは、今度こそ何かが仕掛けられてくるということを示している。それを考えると、喜びもあまり続かない。

 

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