8月15日、新しい朝、希望の朝。

2011年1月10日 § コメントする

「ジリリリリリリ・・・」

耳をつんざく轟音。人の好みよりけりだが、古賀の場合はあまり心地のよい目覚めではなかった。

『おはようございます!』

車内放送が入った。その瞬間、古賀は司会が福澤朗アナウンサーから羽鳥慎一アナウンサーに交代したのだと悟った。やはり福澤さんは忙しいのだ。

「・・・おはよう。いつの間に羽鳥さん乗ってきてたん?」

彼は清水に尋ねた。

「おはよう。結構歩き回ってたで。なあおっしー?」

「おう、そうやで」

押金は未明のスタッフを思い出していた。あれは羽鳥さんだったんや。

 

『さわやかな朝、それでは早速どっちどっちクイズPart2、おはよう目覚ましクイズを行います!』

「うわー、マジですか?」

「頭働かんよ!」

 

ブーイングがあがるが、番組側の狙いは当然そこにあるのだろう。

 

『問題、現在の正しい時刻を示しているのは向かって右の時計?左の時計?どっち?』

「はあ!?」

「わかるかー!」

4号車先頭に、時計を2つぶら下げたスタッフが現れる。向かって右は午前4時50分、左は午前4時40分。

その差は10分、呪いの声があがるのも道理である。

大体、どちらの時計が正解でもそんな時間に起きること自体が道理から外れてる。そう胸の内で毒づきながらも、3人は考えた。外を見れば、今ごろが日の出の時刻。

最近の日の出の時刻は何時何分だったか?

 

『それでは右か左か、決めてください!』

「・・・わかる?」

「わからん。でも右っぽい」

「それでいい?」

「おう」

3人は進行方向右に固まって、届けられていたフリップに記入した。

 

『問題、現在山の中を走っていますが、黒姫山は進行方向右にある?左にある?どっち?』

「わかる?」

「わからん」

「地図は?」

『もうすぐ時間切れです』

「くそっ、時間がない!わからん、右!」

 

フリップも回収されず、だからと言って次の問題が出されるわけでもないまま列車は駅に停車した。

 

「来たか?」

「こんな朝早くから走る系のクイズは嫌やで」

「そやなあ」

 

外を見ると、駅名には[妙高高原]とある。スキー場で有名なところだ。

冬に来たかったな、と古賀は思った。スキー好きの彼だが、こんなに遠くまでは来たことはなかった。妙高と言えば長野と新潟の県境。近場のスキー場とは比べものにならない位にいい雪なんだろう。

そんな古賀ゆえに、こんな疑念も湧いた。夏のスキー場って、問題をばら撒くにはちょうどいいんじゃないのか?

 

『それではみなさん、降りて下さい』

「やっぱりか・・・」

『あ、荷物は置いていっていいですよ

「え?」

「まじで?」

 

今までの道中、荷物は置いていっていいと言われたことは一度もないはずだ。目の下には軽くクマをつくり、キツネにつままれたような面持ちで3人はFIRE号を降りた。

まだ油断は出来ない。

 

「羽鳥さんて間近に見ると結構でかいねえ」

「ほんまやねえ」

 

そんなつぶやきとともに改札口付近へと集合する。

 

「ここではみなさんに朝御飯をお配りします。安心して下さい、それだけです」

全員に安堵の溜息が漏れた。

「それではリーダーの人はオニギリかサンドイッチのどちらかの袋を持っていって下さい」

「どっちにする?」

「オニギリで」

「オニギリがいいです」

「よっしゃ、取ってくるわ」

押金は人だかりの中に入っていった。

 

「寒いね」

「うん、寒いね。僕の頭上のエアコン、水滴ができてたんやけど」

「マジで?ほんまに豪華列車か?あぁ、長袖持ってくるんやったなぁ」

 

アロハシャツには不釣合いな場所である。

 

「おう、持ってきたで」

「オニギリと、後はなに?」

「牛乳見たいやね」

「・・・御飯に牛乳ですか?まあいいか」

 

チャンチャランチャ、チャンチャランチャ、チャチャチャンチャンチャン♪

 

「なんや、この音楽は?」

 

 

 

どこかで聞き覚えのある曲である。

 

 

 

「・・・ラジオ体操や」

 

なんでこんなところまで来て。そう思いつつも、高校生達は習性には逆らえずあくびをしながらあの体操を始める。

ちょうど体も鈍ってきていたところである。

「突然音楽が流れてきましたねえ。まあせっかくですのでみんなで体操してから列車に戻りましょう」

こうして、高校生とスタッフで埋め尽くされた静かな朝の駅のホームで、ラジオ体操が繰り広げられたのである。

 

「あの体操、偶然の出来事と思う?」

「思わんね」

「明らかに怪しい」

 

長野を抜けて、新潟を走るFIRE号。その車内で川越クイ中達は朝食を口に運んでいた。

 

「これも一応メモとっておこう」

古賀はメモ帳を取り出して発泡トレイに乗ったオニギリの配置をメモしていた。

「それ終わったらメモ帳貸して」

「はいよ」

 

古賀は左の清水にメモ一式を渡した。

「何書くん?」

「牛乳の賞味期限」

「なるほど」

具はシャケと昆布であった。2つのオニギリを食べ終え、押金は未だに回収されないフリップを見た。

 

問題は、まだある。必ず。その矢先、列車が停まった。

駅名は新井。

下車か?

ダイヤ待ちか?

 

しばらくの間、時間は何事もないように過ぎて行く。

「あれ駅長ちゃう?」

清水が声をあげた。

「あ、ほんまや」

見ると、品川や四方津の駅長と同じ白い制服に身を包んでいる。

駅長がお出ましということは、ここで何かがある可能性は高い

「何であんなところで立ってるんやろう?」

 

押金は疑問を口にした。確かに、駅長はFIRE号と反対方向側のホームに立っていた。

「あ、あれね。きっとあの人僕らが向こうから来るって勘違いしてるんやわ」

清水のジョークが飛び出す。

「マジで?大丈夫か、駅長?」

そんなやりとりのさなか、どこぞかの老人会とおぼしき方々がFIRE号側と、その反対側のホームに並び始めた。

「・・・走ろう会?」

古賀が見た、彼ら彼女らの帽子にはそう書かれていた。一列に並び終えた老人達は、リズムに乗って何かを始めた。

『みなさんが先程やったラジオ体操、実は意味がありました。問題、新井走ろう会のみなさんがして下さっている体操、ラジオ体操第一は右?左?どっち?』

「・・・左でしょ」

「右は明らかに違うもん」

『それでは思ったほうに移動して、ボードに記入して下さい』

「はい、OK」

「見りゃわかるよなあ」

そして、走ろう会のみなさんは高校生達に手を振って退場していった。しかし、FIRE号が発車する気配はない。

 

『問題、この辺りは日本有数の豪雪地帯ですが、この新井駅で屋根の雪降ろしに使われる道具は右?左?どっち?』

 

左側のホーム、駅員氏がそれらしい道具を持って後ろの方へ歩いていった。

「あれかな?」

「いや、反対側見ないとわからんよ」

右側ホーム、道具を携えているのはあの駅長だった。その手に構えられていたのは、「駅長、何であんなん持っとるの?!」

 

・・・だった。古賀が突っ込みを入れるのも理解できる。

 

「いや、わからんよ。あれで雪の塊を突き刺すようにして降ろすのかもしれんよ」

清水が笑いを堪えながら言った。

 

「『おりゃ~!』とか言ってな」

 

押金も身振り付きで駅長の―厳密にはスタッフの―ボケに乗った。

ボケには乗るが、解答はあくまで常識的に左を選択。ただ、真面目な話、右が正解の可能性もないとは言えなかった。そしてFIRE号は新井を発つ。

 

 

FIRE号一行に新しい朝が半ば不意打ちで訪れた。起き抜けから気が抜けない。不安は数え切れず、歌のような希望の朝からは少しばかり遠い。

 

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