鯨波、旅の重みを秤に。
2011年1月10日 § コメントする
話を聞くと、この番組のことだから、何か仕掛けてくるとしたらそろそろだろうと思っていたらしい。
本当か嘘かは定かではないが、古賀が語るにはそうらしかった。
横断歩道のない道、それをスタッフの先導で半ば強引に渡り始めた高校生一行。
渡ってもう少し行くと、眼前には日本海が広がっていた。太平洋よりもきれいで澄んだ海であった。
「やっとアロハが似合う風景に来ましたねえ」
「来ましたねえ」
清水と古賀はその美しさに感動していた。椰子の木こそないが、山よりもずっとアロハに相応しい場所である。夏休みということもあり、海水浴場は人で埋め尽くされている。
「・・・何やると思う?」
「・・・バラマキ・・・いや、砂浜ほじくって問題探すのかも・・・」
「・・・いや、あのお兄さんら見てみ。ビーチフラッグのデモンストレーションやる人らかも。ビーチフラッグ早取りクイズとか・・・」
「それありそう」
感動の次にやってくるのは、やはりそれである。スタッフに連れられ、海のより近くに行く一行。彼ら彼女らのつくる半円の中心には、黒い布で隠された何かがあった。
数学が苦手な人間にとっては、聞くだけでひいてしまうような言葉だった。
近似値・・・。黒い布を取って、羽鳥アナが発した言葉は「ここでまず行われるのは、近似値クイズです!」とのものだった。
その言葉と、並んだバケツ。場所を考えれば、かき集めるものには困らない。
しかし、近似値と言うからには、基準が必要である。何に[近似]しなければいけないのだろうか?
「みなさん、東京からもう大分長いこと旅してきました」
…予想はついてきた。
「ずっと持ってきた荷物、その荷物と同じ重さの砂を集めて頂きます!」
やはり。鯨波海岸に溜息が漏れる。
「ここでの結果によって、この次に行われるクイズの有利不利が決定します。どこか、一番に名乗りをあげるチームはありますか?」
と、手が挙がった。三色の甚平姿、千葉の船橋であった。他のチームは固唾を飲んで見守る。砂の重さはどんなものか?荷物は見た目と比べてどうか?
少しは、大きくはずすことを期待してもいた。
「荷物は9、47kgです。さあ、対して砂の重さはどのくらいなんでしょうか?」
クイ中達の場所からは、秤の数字を見ることは出来なかった。だが、羽鳥アナの驚きと、船橋の喜びはその表情から伺えた。
「9、46kgです!」
オオーッ!思わず溜息が漏れる。ここまで近いと、悔しさも湧いてこない。
「君達、職人か何かじゃないの?」
羽鳥アナの言葉は、全員の思いを代弁していた。
「みんなでやるとバラバラになる。ここはかっちゃんに任せよう」
「OK」
重さの感覚は人それぞれ。3人で量っていたら意見の一致は難しいと判断したクイ中達は、数字に強い理系の1号、清水の感覚に賭けることにした。
ミカサの青いバッグに、ポカリスエットのバスタオルをくくりつけ、新潟チームお裾分けのペットボトル―飲み切れず、捨てるわけにも行かなかったので、旅の友の一部になった―も据え付けて、その重さはどれくらいになるのだろうか?
「どう?」
「んー、もうちょっと足して」
「はいはい」
「それさあ、持ち方が違うから感じ方も違うんじゃない?」
「あ、そやねえ」
「それじゃあさ、こうしてみたら?」
と、古賀はタオル2本をバッグとバケツ両方の取っ手にかけた。
「これで、持ち方は一緒になるね」
「おう、ありがとう」
微調整は続いていく。その間も次々と秤に挑戦する各チーム。しかし、[職人]船橋チームに迫るチームは現れない。
見ると、荷物よりも砂のほうが軽い、というチームがほとんどだった。
「バケツの重さは実際よりも重く感じるんかな。」
他チームの結果を清水は参考にしながら最後の調整を行う。
「こんなもん、やと思う」
だいたい半分程のチームが計量を終えた頃、ついに清水がゴーサインを出した。
「あ、そっちも行くの?」
見ると、隣の方で砂をかき集めていた磐田南も計量に挑むようだ。
「はい、それじゃ、次のチーム行きましょうか。次はどこですか?」
押金が手を挙げた。
「はい、それじゃ、川越高校ですね」
秤に向かって歩いているとき、なんとなくで清水は少し砂をバケツからつまんで出した。
8、9kg。それが砂の重さだった。軽いのか、重いのか、3人には見当もつかなかった。
「さあ、川越高校、次は荷物の計量に入ります」
羽鳥アナの言葉を合図にして、清水はカバンを秤に載せた。デジタル表示の黒い棒が液晶面で明滅を繰り返し、そして止まった。こういうときの一瞬に数字に強いか弱いかが現れるのだろうか、古賀にはどのくらい近似かの判断が瞬時につけられなかった。だが、清水にはわかった。
「ああー!重かった!」
0、4kg差、遅ればせながら古賀が計算したところ、弾き出された数字はこのようなものであった。旅の友は8、5kg。
「ちょっと離れたかなあ?」
清水は悔やんでいた。この近似値クイズ、思ったよりも全体の成績がいい。
船橋からかなり水をあけられてしまった。このクイズの成績が、後々どのように響いてくるのだろう?
皆がその疑問を抱いていたが、羽鳥アナは「『有利不利』はここで決まります」と言った。
つまり、この成績が悪かったからといって、直接負けに関わることはなさそうだ。
「さあ、最後になりました。宮崎西高校です」
「あ!ジュラルミンだ!」
「何キロだろ?」
既に計量を終えた各チームの視線は、銀色の大きな箱を担ぎ上げる豪快なチームに注がれた。
彼らの場合、秤に持って行くのではなく、秤が持って行かれた。
「さあ、まずは砂の計量です」
彼らはその荷物の重さをどのように判断したのだろうか?
普通は1つで済むバケツも、彼らの場合は2つ必要となる。今大会の最重量荷物であることは、誰にも疑いを挟む余地がないほど明白だった。
「18、88kgです!さあ、続いてはこの大荷物です」18、88kg、いくらなんでもそれは軽いのではないのか?皆、少なからずそう思った。
「28、88kg!ちょうど10kgオーバーです!」宮崎西にはまことに申し訳ないところだが、砂浜に座る高校生達は大爆笑だった。自分達はカットされても、ここだけはカットされない。クイ中達も笑いながらそう思った。
この旅で背中に負った重みを秤にかけて現れた数字。この数字は何を示すのだろうか?とりあえず、次の関門もここでやってくる。砂をかき集めるためだけに海に来るなんてこと、この番組はやらない。